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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
バレリア大陸編
208/300

第208話 異変

 冬華の悲鳴だけがこだまする中、東地区では問題が生じていた。


「ま、魔族め! やっぱり、お前たちは敵だ!」


 グレイが、町の住人達に囲まれていた。

 皆、落ちていた兵の武器を手に取り、恐ろしい程の形相でグレイを睨んでいた。

 そして、グレイは、彼らに抵抗する事無く、ただその場に佇んでいた。

 多くの負傷した自らの部下である魔族が、すでに彼らに囚われていると言うのもあるが、それ以上に心が痛い。

 ここ、数ヶ月で、人間と魔族の距離は大分近くなったと思っていた。なのにどうだ。

 この町を守る為に戦って、結果がこれか、と。

 剣を握る事さえ、バカらしく思い、グレイは鞘に納まった剣を抜こうともしなかった。

 何故、彼らがこの様な行動を取ったのか、グレイにも分からないわけじゃない。

 あの男に操られたとは言え、獣魔族が多くの兵を殺めたのは確かだ。

 彼らもその光景を目の当たりにしたからこそ、この様な暴挙に出たのだ。

 それでも、グレイは信じて欲しかった。皆、この町の人の為に戦ったのだと。

 それなのに、住人達は傷つき倒れる魔族を踏みつけ、あまつさえ剣を突き立てていた。

 こんな光景を目の当たりにすれば、グレイが抵抗する気力を失うのも当然だった。

 何も言わず、何もせず、佇むグレイの黒髪だけが静かに揺れていた。



 そして、それは北地区でも起きていた。

 レジスタンスとこの町の住人達にライとレオナとティオは囲まれていた。

 全く見当違いの状況にライは眉間にシワを寄せ、腰に手を当てる。


「おいおい。一体、何のマネだ? テメェら?」


 不快そうな表情を浮かべるライに対し、取り囲むレジスタンスの面々と町の住人達はその手に武器を持つ。


「だ、黙れ! お、お前達が、この国をおかしくしていたのは知っているんだ!」

「はぁ? おかしくしていたのは? 何の話だ」


 不機嫌そうなライの声に武装する住人が答える。


「うるさい! この国を惑わす根源が! 今すぐ出て行け!」


 その言葉についにライがキレる。


「何だと! ふざけんなよ! テメェら!」


 ライが声を荒げ、腰のナイフへと手を伸ばす。

 だが、それをティオが制止する。右手首を掴まれたライは眉間にシワを寄せ、ティオを睨む。


「何だよ?」

「止せ。彼らに悪気は無い」

「悪気が無きゃ何言ってもいいって言うのか?」


 ライはティオの手を振り払い、そう声を上げる。

 すると、その場に座り込んでいたレオナがゆっくりと立ち上がり、ライの肩を掴んだ。


「ライ……と、とり……あえず、ここは、退くわよ……」

「けど!」

「いいから……ティオの話も詳しく聞きたいし……」


 よろめきながら、レオナがそうライを説得した。

 流石にレオナに悲しげな表情で言われては、ライも従うしかなかった。

 金色の髪を腰の位置で揺らすレオナの顔色は悪い。

 その為、ライはその体を抱き上げ、ふっと息を吐いた。

 普段のレオナなら嫌がるだろうが、大分弱っているのか、何も言わずだたお姫様抱っこされていた。

 小柄なライがしている所為か、少々不恰好に見える。

 両手の塞がるライに代わり、ティオが静かに剣を抜くと道を切り開くように声を上げる。


「さぁ、斬られたくないのなら道を開けてください!」


 ティオの言葉に囲んでいたレジスタンスと町の住人達は道を開いた。

 流石に争う程の覚悟はなかったのだろう。皆、怯えた目をしていた。

 そんな彼らの間を二人は静かに進み、町の外へと出て行った。



 そして、クリスの居る西地区でも――。


「コイツ! まだ息があるぞ! トドメを刺せ!」


 兵と町の住人に囲まれるクリスとエリオの二人。

 幸いだったのか、傷は深いもののエリオに息はあった。

 だが、それを町の住人も兵も許さない。

 当然だろう。この町を襲撃し、多くの人の命を奪ったのだ、その報いは受けなければならない。

 その時、クリスには薄らと意識があった。しかし、動く事は出来ない。

 もう体を動かすだけの力が残っていなかった。

 それでも、クリスは体に残る精神力を振り絞る。

 何とか、エリオを守りたかった。このままでは、エリオが殺されてしまう。

 そう思うと、体が自然と動き出す。

 動けないはずなのに、手はゆっくりと地面を押し、足が確りと地面を踏み締める。


「貴様……ら……それ、以上……エリオに……近づくな……」


 声を振り絞りそう宣言するクリスはその手に剣を握り締めた。

 漂う殺気に、エリオを囲っていた兵達は恐怖を感じ、その場を離れる。

 ふら付くクリスは、そんな彼らを睨みゆっくりとエリオの下へと足を進めた。

 誰もが動けない中、クリスはようやくエリオの下へと辿り着くと、片膝を着き呟く。


「今……助けてやる……」


 クリスはそう言うとエリオの体を抱き上げる。

 力が入らないはずのその体に力を込め、クリスはゆっくりと町の外へと向かった。



 更に南地区でも同じ現象が起きていた。

 倒れるキースと戦闘で傷つき疲弊したジェスとハーネスを囲む兵と住人達。

 流石にハーネスがした事は許しがたい事だが、彼らの眼差しは異常なまで血走っていた。

 ジェスはすぐに彼らの異変に気付き、ハーネスも何かを察知する。


「ここは、逃げた方が懸命だな」


 ジェスと背中を合わせるハーネスが、そう口にすると、


「そうだな……」


と、ジェスも意見に賛成する。

 そして、ゆっくりと倒れるキースの体を肩へと担ぎ、ジェスは合図を送る。


「今だ!」


 その合図と共に二人は駆ける。

 だが、それを止めようと複数の兵が立ちはだかる。


「止めろ! 奴らは手負いだ!」


 そう口にした瞬間だった。ハーネスが一睨みすると、その兵達は足が竦み動けなくなった。

 一瞬の殺気が彼らに恐怖を与えたのだ。



 そのころ、冬華は依然取り乱していた。

 初めて人を殺めた事に、その手に残る感触にただ悲鳴のように声をあげ、体をちぢこませる。

 完全に精神が崩壊しようとする中、冬華を更なる悲劇が襲う。

 神の力の副作用だ。

 激痛が全身を駆け巡り、頭が割れる様な痛みについに冬華は地面に倒れる。


「あがあああああっ! うあああああっ!」

「と、冬華!」


 平伏すアオが声をあげ、ゆっくりと立ち上がる。

 体が重く、思うように動けない。

 それでも、何とか、冬華の下へ行こうと、気力を振り絞る。

 このままでは完全に冬華が壊れてしまう。そうアオは思ったのだ。

 今のアオに出来る事など無いかも知れない。それでも、何かをしないといけない気がした。

 だから、ヨタヨタとしながらも、苦しむ冬華の下へと急ぐ。

 体には何十キロ、何百キロと言う鉛をつけられたそんな感覚だった。

 足を引きずるようにゆっくりとゆっくりと、冬華の下へと辿り着いたアオは、その体を押さえる。


「お、落ち着け! 冬華!」


 アオがそう呼びかけるが、呻き声を上げる冬華にはその声は届かない。

 壊れかけた精神状態の上にこの激痛だ。届くわけが無い。

 それでも、アオは苦しみのた打ち回る冬華の腕を掴み、体を押さえ声を上げ続ける。


「冬華! 俺の声が聞こえるか! おい!」


 何度も、何度も声を上げる。しかし、その激痛に呻き暴れる冬華の頭がアオの額へと直撃する。


「うぐっ!」


 鈍く痛々しい音が響き、アオの額が切れる。

 同じく冬華の額も切れ、二人とも頭から血を流していた。

 そんな時だ。街道の向こうから複数の足音が響き、兵達の姿が見えた。

 一瞬、助けが来たと思うアオだが、その雰囲気にすぐに違うと気付く。

 皆、武器を持ち、殺気立っていた。その為、アオは唇を噛み締める。


「こんな時に……」


 そう呟いた時だった。眩い光が視界を遮り、同時に空間が裂ける。

 そして、そこからニワトリのきぐるみを着たイエロが飛び出す。


「アオアオ。急ぐのですよ!」

「い、イエロ! な、何で――」

「話は後なのですよ。急ぐのです!」


 イエロの声にアオは「くっ」と声を漏らし、その手を握った。

 すると、イエロは瞬時に空間転移を行い、残ったのは僅かな光の粒子だけだった。

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