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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
バレリア大陸編
205/300

第205話 ケイトを救う為に

 冬華は困惑していた。

 目の前にはアオとケイス。間違いなく、二人が戦っていた。

 何故、二人が戦っているのか、冬華は必死に思考を働かせ考える。

 しかし、答えは出ない。

 アオの事は良く知ってる。何度も助けてもらった。

 ケイトとはこの大陸で初めて会うが、今までずっと親切してもらった。

 だから、冬華は信じられない。

 そんな二人が今、目の前で命を奪い合おうとしている事が。

 何がどうなってこの状況になったのか分からない。分からないが、そんな冬華でも一つだけはっきりと分かる事があった。

 それは、禍々しいオーラがケイトから発せられていると言う事だ。

 信じたくない事だが、間違いなくケイトが自分達の敵なのだと冬華は理解する。

 戸惑い、唇を噛み締める冬華の悲しげな瞳がケイトへと向けられた。

 言いたい事は沢山し、聞きたい事もある。でも、そんな中で冬華が最初に口にしたのは――


「何で、ケイトが……」


 と、言う悲痛の声だった。

 あまりにも消えそうな冬華の声に、アオは険しい表情を浮かべる。

 信じていた者に裏切られた時の衝撃は耐え難い程のものだ。それが、例え短い付き合いだとしても。

 呼吸を乱すアオは、そんな冬華を見据え肩を大きく上下に揺らす。最悪な事に、この時アオの雷火の効果が切れた。

 もう自分は戦えない。いや、恐らく動く事もままならないだろう。

 だが、それでも、冬華にケイトと戦わせるわけには行かない。またあの力を使用すると分かっている。だからこそ、アオは倒れるわけには行かなかった。


(何で……こんな時に……)


 眉間にシワを寄せるアオは、深く息を吐く。どうするべきか、どうしたらいいのかを必死に考えようとする。

 だが、疲労感に苛まれ、考えは纏らない。

 そんなアオ越しに冬華を見据えるケイトは、アオの雷撃を帯びた拳を受けて破れた衣服を叩き、割れた腹筋を見せ付ける。

 顔に似合わず筋肉質なケイトの肉体には古い傷が幾つも刻まれていた。それが、ケイトが生きてきた証なのだろう。


「全く……代わる代わるによくもまぁ……」


 赤毛と青毛の入り混じった髪を揺らし、ケイトは静かにそう言うと深く息を吐き出した。

 熱気を帯びた吐息とは対照的にその眼差しは寒気を感じさせる程冷ややかで、冬華は僅かに身を震わせる。

 信じたくないが、目の前にいるケイトが敵。ならば、もう戦うしか術はない。

 そう思い、冬華はその手に槍を呼び出す。美しい真っ白な柄に透き通る淡い青色の刃が輝く。

 覚悟を決める冬華は、瞼を閉じると左手を胸の前で握り締めた。

 その強い意志を感じ取り、アオは叫ぶ。


「冬華! やめるんだ!」

「ふっ……さぁ、英雄の力とやらを見せてもらおうか?」


 まるで冬華にあの力を使用させようとするかのように、ケイトはそう口にした。

 完全に誘っているとしか思えぬケイトの発言に、アオは表情を一層険しくする。


(何を考えている! あの力を使わせてどうする気だ?)


 疑念を抱くアオだが、すぐに切り替える。ここは、冬華にあの力は使用させてはいけないと言う気持ちが強まった。

 だから、声を更に荒げる。


「冬華! ダメだ! あの力は使っちゃ――」

「あなたが……皆を……あなたの所為でコーガイさんも……」


 俯く冬華の小さな口から呟かれる言葉の数々。

 そして、冬華の記憶に過ぎるコーガイとの鍛錬の日々。

 ほんの僅かな日々の出来事だったが、コーガイの優しさを感じたし、厳しさも伝わった。

 だからこそ、許せない。ケイトが行った事が。

 レジスタンスを導き、多くの人の奪った。様々なことを思う冬華は、唇を噛み締めると、願う。


(私に力を――。皆を守る――)


 瞼を閉じ、願う冬華の体が薄らと輝きを放つ。

 その輝きは、冬華が神の力を使用したと言う証拠だった。その瞬間にアオは堅く瞼を閉じ、唇を噛み締める。

 こうならない為に戦ってきたのに、やはりこうなってしまったと。

 ケイトの思惑通り事が進んでいる気がして、アオは怖かった。

 何を企んでいるのかは分からないが、冬華が壊れてしまうそんな気がしてならなかった。

 神の力により輝く冬華は、瞼を開くとケイトを真っ直ぐに見据える。


「これが……神の力……」


 目を輝かせるケイトがそう呟き、口元に薄らと笑みを浮かべた。

 期待に満ち溢れた眼差しを向けるケイトは、地を蹴る。

 後塵だけを残し姿を消すケイトは、次の瞬間には冬華の背後に回り込み、剣を振り抜いた。

 しかし、剣は金属音と火花を散らせ弾かれ、冬華も僅かに前方へとよろめいた。

 どれ程の素早い動きでも、どれ程速い攻撃でも、冬華を捉える事は出来ない。

 何故なら、冬華は常に光鱗により守られているからだ。

 それに、今は神の力も使用している為、更に精度を増しているのか、弾かれたケイトは激しく横転する。

 何が起こったのか理解出来ていないのか、ケイトは驚き目を丸くしていた。


「これが……神の力か……これ程とは……」


 驚きつつも不敵な笑みを浮かべるケイトに、やはり何か思惑があるのだと悟るアオは、何とか止めようと試みるが体が思うように動かなかった。


(くっそ……ダメだ……)


 悔しげに瞼を閉じるアオは、膝に手をつき俯いた。

 そんな最中にも、ケイトは走り出す。後塵を巻き上げ消えると、今度は冬華の周りを回りながら連続して攻撃を仕掛ける。

 幾度と無く散る火花が、ケイトの攻撃の凄まじさを物語り、火花が散るたびに冬華の体は前後左右へと激しく揺れる。

 それでも、冬華には外傷はない。やはり光鱗はどれ程の速度で攻撃を仕掛けても全て防いでいた。

 ケイトによる攻撃は長く続く。これでもか、これでもか、言うように何度も何度も続く。

 だが、冬華による反撃はない。まるで覇気などないようにただケイトの攻撃を受けているだった。


「どうしました? 反撃はしないんですか!」


 冬華を挑発するようにそう言いながらも攻撃を続けるケイトは、ようやく攻撃を止め距離をとった。

 流石に責め疲れたのか、額には大粒の汗が滲み呼吸は乱れていた。

 俯く冬華は、やがて静かに顔を上げ、ケイトを見据える。物悲しげなその瞳が薄らと金色に輝く。


「私は……救ってみせる。ケイトも、皆も!」


 冬華がそう言うと、ケイトはほくそえむように笑った。

 その笑みにアオは寒気を感じる。だが、やはり何を狙っているのか分からなかった。

 一方、冬華は考えていた。

 きっと、ケイトも今までと同じく邪悪な力で操られているんだ、と。

 ケルベロスの時の様に――、イリーナ王国の時の暴動の様に――、リックバードの時の魔族の進撃の様に――。

 誰かが裏で糸を引いている。そう冬華は考えた。

 だからこそ、冬華は神の力を使用した。それは、ケイトをその邪悪な力から解放する為だった。

 神力が冬華の槍へと集められる。

 淡い青色の刃が光に包まれ、純白の柄も光を放つ。

 美しく眩い輝きにアオとケイトは目を細めた。流石にその輝きは眩しすぎた。


「くっ! ……これが、神の――」

「これで、あなたを救ってみせる!」


 ケイトが言い終える前に冬華は放つ。

 大きく身を仰け反らせてから、振り被ったその槍を、ケイトへと目掛けて。

 光の槍は閃光となりケイトの体を貫く。

 血は噴出さず、ケイトの体を貫通した槍はそのまま闇へと消える。

 一方、槍を受けた衝撃により、ケイトの体は後方へと吹き飛び、二度、三度と横転した。

 僅かに土煙が舞い、風が静かにその場に流れた。冬華を包む光が薄くなり、その表情は苦痛に歪んだ。

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