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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
バレリア大陸編
204/300

第204話 笑った方がいいかい?

 首都フェルゼル、東地区。

 一人の男とジャイアントラビットの襲撃を受けたその場所は殺伐としていた。

 多くの兵が負傷し横たわるその中に、雷撃を受け体を麻痺させ、動きを拘束されたジャイアントラビットが複数転がっていた。

 ジャイアントラビットは深い外傷はあるものの、一体たりとも死んではいなかった。操られているだけと言う事もあり、ロズヴェルが配慮し動きを拘束するに留めたのだ。

 動きを拘束され、痙攣を起こす一体のジャイアントラビットの腹の上にロズヴェルは腰を据えていた。すでに全てのジャイアントラビットは動けない為、残すは操っていた小柄な男一人だけになっていた。

 自分の仕事を終えたロズヴェルは地面に棍を突き立て、空を見上げる。ロズヴェルにとってジャイアントラビットは大した敵ではなかった。

 もちろん、それはジャイアントラビットが操られて戦っていたからだ。生物とは自らの身に危険、命の危険を感じた時にこそ、初めて自己防衛本能が働き、心身に秘められた力を発揮する。

 襲撃を仕掛けてきたジャイアントラビットには、その自己防衛本能が操られた事で働かなかった。だからこそ、ロズヴェルは無傷でこの場を納める事が出来た。

 もし、これが操られていなかったら、臆病なジャイアントラビットが本気で何かを守ろうと敵対して来ていたら、ロズヴェルも無傷では済まなかっただろう。

 そんな事を思いながらロズヴェルは静かに息を吐き出すと、ゆっくりと腰を上げた。


(さて、そろそろか……)


 地面に突き立てた棍を抜き、ロズヴェルはその視線をグレイの方へと向けた。すでにジャイアントラビットを操っていた小柄な男と決着が着いていた。

 喉元へと向けた切っ先に、衣服が裂かれ血を滲ませる小柄な男は真っ直ぐにグレイの顔を見上げる。正直、圧倒的だった。

 元々、この小柄な男が戦闘要員ではなかったのだろう。今まで前線で戦ってきたグレイにとって敵ではなかった。

 初撃で小柄な男の右太股を突き刺し、動きを封じた後にジワジワと追い込んだ。笛もへし折り、もう小柄な男には戦う術などなかった。


「さぁ、投降しろ。もうお前に勝ち目はない」

「くっ……くくっ……勝ち目がないから投降しろ? ふざける――」

「なら、死ね」


 グレイの脇を抜け、鋼鉄の棍が小柄な男の頭を強打した。鈍く痛々しい音が響き、小柄な男は地面に大の字に倒れる。

 鼻から血を流し痙攣する小柄な男は口から泡を噴いていた。

 驚くグレイはすぐに振り返ると、ロズヴェルへと声を上げる。


「お、おい! 何やって――」

「安心しろ。殺してはない」

「いや、そう言う問題じゃ……」

「それより、行くぞ」


 怪訝そうな表情を浮かべるグレイに対し、ロズヴェルは静かにそう述べた。

 突然のロズヴェルの言葉に眉をひそめるグレイは、小首を傾げる。


「行くって何処に?」

「決まってるだろ? 南口だ」

「南口? ……何かあるのか?」


 グレイの言葉に、ロズヴェルは腰に右手を当てると左手で頭を掻く。


「何があるのかは、俺にも分からん。だが、行くべきだろうな」

「どう言う意味だ?」


 グレイがそう尋ねるとロズヴェルは深く息を吐く。


「南口から強大な力を感じるだろ? それに、何か、嫌な予感がする……」

「嫌な予感……。そうか。なら、お前は先に行くと良い。俺はここの処理をする。負傷者の事も気になるしな」


 グレイがそう言うと、ロズヴェルは僅かに俯き、「そうか……」と呟いた。



 アオと別れたジェスは一直線に伸びた街道を駆ける。

 目的はレジスタンスのリーダー、ハーネスの下だ。彼女との決着は自分がつけなければならないと、分かっていた。

 だからこそ、ジェスの表情は険しい。昔から知っている仲間だった彼女と戦う事は、それ程辛い事だった。

 やがて、横たわるキースと佇むハーネスの姿が視界に入った。

 血に塗れたキースの傍らに剣を握り何かを待つように佇むハーネスは、ジェスを視界に捉えると不敵に笑う。

 まるで待ちわびていたかの様に。

 そんなハーネスの表情にザッと足を止めたジェスは、足元に土煙を激しく舞い上げ、大きく肩を上下に揺らす。

 二人の視線が交錯し、数秒。静かにハーネスは口を開く。


「やはり来たか……」

「ああ。お前を止めに来た」


 ハーネスの言葉に、ジェスはそう答えた。

 だが、ハーネスは訝しげな表情をすると、それを鼻で笑う。


「私を止めに? フン。貴様が私に敵うと?」

「ああ。今も昔もお前よりも俺が上だ」


 強い眼差しを向け、そう宣言するジェスは剣を抜刀すると、その切っ先をハーネスへと向けた。

 ジェスのその行動にハーネスも対応するように剣を向け、言い放つ。


「いつまでも自分が上だと思うなよ」


 剣を構え、二人は駆け出す。

 そして、互いに間合いに入ると剣を振り抜く。

 刃がぶつかり合い火花が散る。

 大きく弾かれたのはハーネス。流石に男のジェスと女のハーネスではやはり力の差は歴然だった。

 だが、それを補うように素早く剣を引くと、腰を回転させ、一気にジェスへと攻め立てる。

 力で勝てない分、手数で勝とうと言う魂胆だった。しかし、ジェスもその考えを把握し、それに対応する為、精神力を刃へと纏わせる。


「疾風!」


 攻め立てるハーネスに対し、ジェスは高速の太刀を放ちその刃を弾き飛ばした。

 後方へと弾き飛ばされたハーネスは足元へと土煙を巻き上げ、動きを止めた。

 両者の間が開き、睨み合う。

 数秒の時が流れ、ハーネスは自らの刃へと魔力を込めた。

 殺気の篭った眼差しに、息を呑むジェスは再度精神力を刃へとまとわせると、それを腰の位置に構える。

 額から一粒の汗がこぼれ、それと同時にハーネスは動く。


「穿孔!」


 突きの構えから一歩踏み出すハーネスに対し、ジェスも動く。


「疾風!」


 斜に構え腰の位置に構えた剣をジェスは横一線に振り抜く。

 両者の刃が交錯し激しく火花が散った。そして、鮮血が迸る。



 場所は変り、アオとケイトの二人。

 青雷をまとうアオは、集中していた。

 残像と僅かな後塵だけを残し周囲を移動するケイトを、どうにか捉えようとアオは考えを巡らせる。

 雷火の制限時間は残り僅かだ。極限まで威力も高めており、すでにアオは限界ギリギリ。

 それでも、ケイトの姿を捉える事は出来ず、アオの顔にも焦りが見えた。


「ふふっ……どうしました? 手も足も出ませんか? まぁ、無理もないでしょう。神速は名の通り、神の速度。あなたには捉える事は出来ませんよ」


 ケイトの静かな声に耳を傾けていたアオは、深く息を吐くと呟く。


「お前のそれが、神の速度と言うなら、俺の使う雷は神成り」

「……それは、笑った方がいいのかい?」

「黙れ。今に、お前の速度を越えて行く」


 アオはそう言い、瞼を閉じる。更に集中し全ての精神力を一撃に賭ける。

 そして、地を蹴った。

 一瞬だ。

 雷鳴が轟き、閃光が駆ける。

 飛来した雷の如く、激しく、荒々しい一撃がアオのその腕から放たれた。

 何もない一角にだった。

 刃は無情にも空を切り――いや、ケイトの残像だけを切り、虚しく刃風を激しく吹かせていた。

 茫然自失。立ち尽くすアオの膝が折れる。

 だが、そんなアオにケイトは容赦なく襲い掛かる。


「残念だったね! これで、僕の勝ち――ッ!」


 一瞬、アオの前に姿を見せたケイトだが、その表情が歪む。

 突如、轟音が轟き、衝撃がケイトを襲った。


「うぐっ!」


 激しく体を突き抜けるような衝撃に、ケイトの体は弾き飛ぶ。

 地面にこそ何とか両足を踏み留めていたが、その上体は大きく仰け反っていた。

 衝撃により口角から血を流すケイトは、怪訝そうにアオを見据えた後、静かに呟く。


「くっ……まさか、まだそれ程の力を残してたとは……」


 驚くケイトの先に佇むアオは、左手に僅かな雷撃を弾けさせ、弱々しく微笑する。


「威力は半減したが……これで、テメェを一発殴れた……」


 アオはそう言うと膝を地に落とした。

 初めから集めた精神力を二分割し、片方を剣に、もう片方を左手に留めていた。両手で柄を握っていたのは、左手に雷撃を纏っている事を悟られない様にする為で、これがアオの切り札だった。

 トドメを刺そうとケイトが姿を見せる、そう考えとった行動だった。

 だが、もうアオに戦うだけの精神力は残っていない。

 しかし、そんな時だった。一つの足音と共に、彼女は現れた。


「あ、アオ! な、何で!」


 驚きの声を上げるのは、冬華。そして、その瞳が見据えるのは、アオと、アオと対峙するケイトの二人。

 何が何だか分からないが、先程の轟音と衝撃で二人が戦っていたと言う事だけは理解していた。

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