第200話 黒幕
西口では、クリスとエリオが対峙していた。
クリスの後方に佇む冬華は、どうしていいのか分からず困惑気味で、二人を見据えていた。
対峙する二人の足元に僅かな土煙が舞う。
抜刀した剣を下段に構えるクリスと、長刀を中段に構えるエリオ。
互いに鋭い眼差しを向け、呼吸を計る。
動き出すタイミングを見ていた。
ジリッと右足を半歩前に出すクリスに、エリオも静かに右足を半歩踏み出す。
二人の静かな攻防に冬華は息を呑む。
緊迫した空気が場を支配し、緊張感が高まっていた。
肌を刺す様なその空気に、冬華は胸の前で手を組んだ。
そんな冬華の不安を他所に、クリスとエリオはほぼ同時に動く。
クリスよりもエリオがやや速く動き出し、それにより、エリオの方が速く左足を踏み込み、やや速くその長刀を振り抜く。
遅れてクリスも左足を踏み込み地面を切っ先で斬り付けながら、その剣を振り抜いた。
土煙を舞い上げ、斜め上へと切り上げる様な軌道で、クリスの振り抜いた剣が、エリオの振り抜いた刃と衝突する。
鈍い金属音に遅れ、火花が散る。吹き抜けるのは荒々しい衝撃。
そして、地面が砕ける。砕石が舞う中で、二人の視線が交錯し、すぐに二人は間合いを取った。
すでに自分の戦い方を知り尽くしているエリオを相手をする為、クリスもいやおうに慎重にならざるえなかった。
間合いを取り呼吸を整える二人の視線がもう一度交錯する。
「随分と慎重ですね」
「自分の戦い方を熟知している者を相手にするんだ。当然だ」
両手で柄を握り締め、クリスは深く息を吐き出す。
そんなクリスに、エリオは静かに笑う。
「まぁ、そうでしょうね。ですが、今やあなたでは僕に敵わない」
「お前の父親は、自らの力を過信はしなかった」
静かにそう言うクリスだが、その言葉はエリオに届かない。
「あの人は、弱い人だった。だから、殺された。僕は違う。誰よりも強い」
エリオの言葉に、クリスはあからさまに不快そうな表情を浮かべる。
エリオはこんな事を言う様な性格ではなかった。誰よりも父を尊敬していた。
だからこそ、クリスは、エリオの変貌に違和感を感じていた。
考え込むクリスに対し、エリオはゆっくりと長刀を頭上に構える。
「紅蓮の炎は全てを焼き尽くす」
エリオの言葉に、クリスは瞬時に反応する。
剣の刃に炎を灯し、すり足で踏み込む。
「紅蓮一刀――」
クリスはそう口にすると剣に炎を灯す。
紅蓮の炎が刃を包むが、クリスの構えは下段のまま。
紅蓮一刀は火斬しかないはずの為、エリオは訝しげな表情を浮かべる。
だが、エリオは構わず振り上げた長刀へと炎を灯す。構えは違えど互いに刃に炎を灯し、相手を見据える。
クリスは炎の火力を徐々に落とし、エリオは一層激しく炎を揺らめかせる。
「紅蓮一刀――」
そこでようやくエリオがそう口ずさむ。
そして、二人がやはりほぼ同時に動き出す。
「「火斬!」」
二人の声が重なり、同時に剣を振り抜いた。
上から振り下ろされるエリオの長刀を、真下から切り上げるクリス。
炎をまとった二人の刃がぶつかり合い、衝撃と共に炎が波状に広がった。
吹き抜ける熱風にあおられ、冬華はよろめき右腕で顔を守り、目を凝らした。
一方、東口――。
そこには、グレイとロズヴェルの姿があった。
暴れまわるのは、巨体を揺らし長い耳をパタパタと動かすジャイアントラビット。
鋭利な前歯で兵の鎧を噛み砕き、次々と負傷者を出していた。
「どう言う状況だ?」
訝しげな表情を浮かべるロズヴェルが、グレイへと尋ねる。
黒髪を揺らす小柄のグレイは、その手に握った剣の刃を鮮血で赤く染め、表情を険しくする。
「兵は半分以上やられた。ウチの部隊の獣魔族によって……」
「それで、お前がそれを止めたのか?」
「ああ。動けない様に、足を切りつけた」
渋い表情を浮かべるグレイが、そう答え瞼を閉じる。
動きを止める為とは言え、仲間を傷つけた事が胸を抉るように痛んでいた。
そんなグレイに、何か優しい言葉をかけるわけでも無く、ロズヴェルは一歩前へと出る。
「ジャイアントラビットは俺がやる。お前は、男をやれ」
ロズヴェルはそう言うと何処からとも無く鋼鉄製の棍を取り出し、それを構えた。
「ふふふっ……一人で複数のジャイアントラビットを相手にする気か?」
ジャイアントラビットに守られ、笛を奏でていた小柄な男が、静かにそう呟き長い髪を揺らした。
「ジャイアントラビットの戦闘力を甘く見てるんじゃないか?」
男が更に言葉を続けるが、ロズヴェルは構わず走り出した。
その行動に、男は呆れた様に吐息を漏らすと、その手に持っていた笛を銜えた。
全く音など聞こえないが、男の指先が華麗に動く。
それにあわせる様にジャイアントラビットの長い耳がピクリと動き、その表情が豹変する。
赤い瞳が濁り、鼻筋へとシワを寄せると、前歯をむき出しにしてロズヴェルへと突っ込む。
複数体で一斉に襲い掛かってくるジャイアントラビットに対し、ロズヴェルは冷静な対応をする。
まず、先頭の一体の眉間に棍の先を突き立て、動きを止め、そのジャイアントラビットの突っ込む勢いで後方へと戻る。
遅れて左右から飛び出した二体のジャイアントラビットの鋭利な前歯の攻撃を、棍で受け止め、その先に一瞬で雷を纏わせ、放電させる。
それにより、二体のジャイアントラビットは体が痺れ一時的に動きが止まった。
更に跳躍し上空から突っ込むジャイアントラビットに対しては、棍を地面へと突き立て、上に向いた先端へと雷を集める。
「雷撃砲!」
そう声を上げると、その先端に集まった雷は大気を裂き上空から襲い掛かるジャイアントラビットの体を突き抜けた。
その巨体を大きく弾き返し、ジャイアントラビットの体は地面へと背中から落ちる。
剛毛なその毛が雷を浴び円形に失われていた。
あまりの圧倒的な動きに、笛の音で操られているとは言え、ジャイアントラビット達の動きが止まる。
元々、臆病な性格な彼等の本能が、思わずそうさせたのだ。
場面は変り――南口。
激しく攻防を繰り広げるキースとハーネスの姿が、そこにはあった。
ほぼ互角に見えるその戦いは、意外な事にキースの方が優位に戦いを進めていた。
呼吸を僅かに乱すのはやはりハーネスの方で、その頬には僅かに血が滲む。
一方のキースは僅かに肩を上下に揺らすだけで、呼吸の乱れはない。それどころか、まだ一度もハーネスの攻撃をまともに受けてはいなかった。
ハーネスのその戦いぶりに、キースは違和感を覚えていた。
まだ、底を見せていないだけ。そう考えていたが、どうにも腑に落ちない。
この状況下で、まだ本気を出さないなど、おかしいだろ、と思ったのだ。
自分が優位に立っているならば、話は別だが、圧倒的に不利な状況だと言うのに、ハーネスの動きに精彩がない様にキースは感じていたのだ。
それに、剣を交えてからも、少々おかしな事を感じていた。
本当にこれで、あのバルバスと並ぶ強さなのか、と言う事だった。
何か不穏なものをキースは感じていた。それでも、それが何なのか分からず、疑念が脳裏を渦巻いていた。
「流石に、第一部隊を任されていただけあって、強いな」
大きく肩を上下に揺らすハーネスが、そう呟き構えていた剣を下した。
その行動にキースが警戒すると、ハーネスは薄らと口元に笑みを浮かべる。
「考えた事はないか? この国に内通者がいるんじゃないか、って」
突然の彼女の言葉に、キースはぴくりと眉を動かした。
すると、ハーネスは瞼を閉じ一層不敵に笑う。
「どうやら、考えた事があるらしいな」
「だとしたら何だ」
「だったら、こうは考えた事はないか? 内通者が実はレジスタンスの黒幕なんじゃないか、と?」
「そんなバカな――ッ!」
ハーネスに反論しようとしたキースの体を鈍い音が貫く。
衝撃が背中から腹部を抜け、鮮血が鋭利な切っ先と共に腹部を貫いた。
「がはっ……」
血を吐き出すキースは、奥歯を噛み締める。
まさか、こんな身近にいるとは、思わなかった。
まさか、信じていた者が――
そう思いながらキースは振り向く。
「何故……お前が……ケイト……」
目の前に佇む赤毛と青毛の交じった髪の青年、ケイトにそう呟き、キースの体は地面へと膝から崩れ落ちた。
はい。どーも。作者・崎浜秀です。
丁度200話、と、言う事もあり、読者の皆様にお聞きしたい事があります。
この作品は、ゲートシリーズとして、ゲート~黒き真実~と同じ世界の話をしています。
えっと、それでですが、今後についてなのですが、両作品の最終章。
まだ先の話ですが、その最終章は、大方二つの作品のストーリーが重なります。
で、このまま二つの作品として最後まで書くか、それとも、一旦終わらせて、二つの作品をまとめて最終章として書くべきか、と言う事です。
私の実力は恐らく知っていると思いますが、正直下手糞です。
すでに、何度かストーリーが交錯し、同じ場面を描いた所もあります。
最終章は恐らく、その場面と同じで、黒き真実の視点と、白き英雄の視点と言う形になる予定です。
どちらが良いのか、は分かりません。
ですので、意見をもらえると嬉しいです。
まぁ、結局判断を下すのは自分なので、自分で考えろって言われれば終わりですけど……