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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第20話 星屑の欠片

 一人だけギルドに残ったクリスは、ジェスと共に小型飛行船で移動中だった。

 小型と言っても最大三十人近くの人が乗れる程の大きさの飛行船で、この世界では貴重な空飛ぶ移動船だ。ここゲートには、様々な移動手段があるが、飛行船は高価なモノでまず市場に出回る事のない代物。それをジェスが何故保有しているのか、クリスは疑問に思ったが決してそれを口に出す事は無かった。

 大方の予想はついていた。ギルドの中には居るのだ。大富豪と呼ばれる者達の金品、財宝を盗む輩が。ジェスのギルドもそう言うギルドなのだろう。だから、連盟に非加入なのだと。

 ただ、黙って席に座るクリス。小型とは言え飛行船に乗るのは初めてだったクリスは、多少なりにこの鉄の塊が空を飛ぶと言う現象を信じる事が出来ずにいた。


「まだ、納得できませんか?」

「ああ。こんな鉄の塊が空を飛ぶなどありえん。絶対におかしい!」

「いやいや。現に飛んでますよ」

「くぅーっ! だから、ありえんのだ!」


 複雑そうな渋い表情を見せるクリスは、隣りに座るジェスを睨み付けた。クリスのあまりの迫力に苦笑するジェスは、視線を逸らすと窓の外へと目を向けた。

 蒼い空を彩る無数の雲。そして、その下に見えるのは緑の森。獣王が住む深い深い森林の迷宮と呼ばれるその場所を見据える。何処までも広く何処までも続くその森は、まさしく迷宮と呼ばれるにふさわしい場所だった。

 唇を噛み締めるジェスは硬く拳を握り一瞬だが殺気をみなぎらせた。その殺気に気付く者は少なく、クリスと他二、三名の者だけだった。だが、誰一人としてその殺気に対し何かを言うわけではなく静かに時を過ごした。

 暫しの時が過ぎ、ようやく調子を取り戻したクリスは静かな口調でジェスに問う。


「何処へ向かってるんだ? 冬華様達をシュールート山脈へと向かわせておいて、この様な飛行船で」

「言っただろ? 取引だって」

「取引? それは、冬華様達が採りに向かった例の鉱物の事なんじゃないのか?」

「アレもそうだが、お前にもやってもらう事があるんだよ」

「やってもらう事?」


 訝しげな表情を浮かべるクリスがジェスの方へと顔を向けた後、飛行船に乗っている人員を見回した。物々しい武装した連中ばかりだった。見た限りそこそこ腕の立つ者が数人と明らかに異様な空気を漂わせている者が二・三人。

 この光景を考えれば、大よその予想はついた。


「強奪か?」

「…………」


 クリスのその声に、ジェスは黙ったまま僅かに表情をしかめた。クリスの考えが当たっていたのだろう。その表情にクリスは深く息を吐く。


「悪いけどそう言う事なら、私は降りるわ」

「そうか……じゃあ、それを魔族が狙ってると聞いてもか?」

「魔族が?」


 ジェスの言葉にクリスの眉間にシワがよった。魔族と言うフレーズを聞いた為だ。本来、強奪の手伝いなど不本意だったが、魔族が絡んでくると言うなら話は別だった。


「それで、その魔族が狙ってるモノって?」

「最近発見された希少な素材」

「最近発見された? まさか、星屑の欠片!」


 驚くクリスに、ジェスは口元に人差し指を当てゆっくりと頷く。

 星屑の欠片。それは、ここゼバーリック大陸にて最近発見された鉱石。希少で非常に硬質の物質で、その光沢は美しい漆黒の輝きを放つ。まだ未知の素材で、どの市場にも出回っていない鉱石だった。

 クリスも一部の噂でしか聞いた事がなかったが、まさか本当に存在しているとは思わなかった。ジェスがどの様にして星屑の欠片の情報を手に入れたのかはわからないが、その鉱石が本当に実在しそれを魔族が狙っていると言うなら、クリスにそれを断る理由が無かった。

 静かに、「そう……」と呟いたクリスは窓の外へと視線を向け、拳を硬く握る。そのクリスの表情にジェスは静かに笑みを浮かべた。


 同時刻。

 シュールート山脈のフモトの小さな集落。

 木造の家がポツポツと建ち並ぶその集落の奥、一際大きな建物の一室に白雪冬華は眠っていた。部屋を浮遊するセルフィーユは、不安そうに胸の前で手を組んで冬華を見据えていた。

 一方、シオは部屋の外で一人の若者と話をしていた。赤い瞳に尖った耳をした魔族の青年は、目を覆い隠す程黒髪を伸ばし、猫背の姿勢で軽く頷く。


「はい、はい。分かりました。でも、いいんですか? 人間をこの集落に入れて?」

「悪いなフリード。少しの間だけだ」

「いえ、シオ様が言う事なら、僕は何の文句も言いません」


 シオに対しそう丁寧な口調で述べたフリードは深く頭を下げた。この集落はシオの父である獣王が治める土地で、フリードとは幼い頃に一緒に鍛錬を行った仲だ。今はこの集落を族長として治めているが、シオとは頻繁にあっている。

 そんなフリードは長い前髪の奥から見える赤い瞳をシオへと向け、静かに口を開く。


「ですが、いいのですか? 父上にこの事を知らせなくて」

「悪い。黙っててくれ。それに、あんまり騒ぎになられても困るだろ?」

「はぁ……。しかし、あんな華奢な体格であの山を登ろうとしていたなんて……無謀としか思えませんよ? シオ様も分かっているはずですよね?」


 僅かに口調が厳しく変わり、シオは苦笑し右手で頭を掻いた。フリードの性格上、そう言われる事は覚悟していたが、いざ言われて見るとその言葉が胸に突き刺さる。

 苦笑するシオに対し、フリードは腕を組むと小さく息を吐き、


「全く……笑い事じゃないですよ。何かあってからじゃ遅いんですよ?」

「分かってる。オイラだって、そう思ったんだけど……」

「分かってませんよ。万が一何かあったら、どうするつもりだったんですか?」

「いや、だからさぁ……」


 たじろぐシオに対し、フリードは更に言葉を続ける。


「昔からそうなんですよ。僕も――」

「わーっ! わーっ! お、オイラは行く所があるから、これで!」


 逃げ出す様に家を飛び出すシオに、フリードは「あっ! まだ話は終わってませんよ!」と怒鳴ったが、シオは全く聞く耳を持たず走り去ってしまった。

 小さくため息を吐いたフリードは右手で額を押さえると、両肩を落とし深いため息を吐いた。


「全く……あの人は……」


 小さく呟き、両肩を落とした。そして、冬華の眠る部屋へと入る。周囲を見回し、首を傾げベッドの横に出した椅子に腰掛け天井を見上げた。


「あ、あのぅ……そこにいるんでしょうか?」


 突然のフリードの言葉に、宙を舞うセルフィーユは焦った様にその姿を屋根裏へと消したが、すぐに天井から顔だけをだし言葉を返す。


『あ、あの……』

「……やっぱり、気のせいだったみたいですね。てっきり、昔見かけた聖霊さんが居た気がしたのですが……」


 弱々しく笑うフリードが、横たわる冬華の髪を優しく撫でた。その瞳が妙に悲しげにセルフィーユには見えた。


「こんな華奢な体格で……英雄などと呼ばれるなんて……」


 唇を噛み締め、眉間にシワを寄せた。その悲しげな表情を見据えるセルフィーユはゆっくりと、彼の隣りへと降り立つと、横たわる冬華の顔を見据え呟く。


『大丈夫です。冬華様は……私が守りますから』


 と、力強く誓いを立てた。

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