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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
バレリア大陸編
198/300

第198話 首都フェルゼルへの襲撃

 夜の闇に乗じて、レジスタンスは王都――いや、首都フェルゼルへと侵攻を開始する。

 音も立てず静かに外壁まで到達する黒ずくめのレジスタンス。

 その漆黒の衣服が、外壁上部で見回りをする兵達の目から姿を上手い具合に隠していた。

 風も無く、とても静かな夜だった。

 僅かな熱気で、今宵は蒸し暑い熱帯夜となっていた。

 その所為もあったのだろう。外壁防衛兵達の集中力が聊か欠けていた。

 いや、そもそも、暴君バルバスと言う強大な恐怖から解放され、完全に気が緩んでいたのだろう。

 そうでなければ、もっと早くに気付けたはずだった――。

 轟音が唐突に首都フェルゼルの北口で起きる。


「何事だ!」


 外壁上部を見回りする一人の兵が声を上げ、北へと目を向けた。

 中央の大きな王宮の向こう遠くの空が薄らと赤く染まり、黒煙が空へと昇る。

 外壁が燃えていた。それが、正反対の南口からでもハッキリと分かった。

 何かが起きているのだと、兵達は気付きやがて怒号と飛ぶ。


「何だ! 何が起きている! 報告は!」


 この場を取り仕切る兵士長の声とほぼ同時だった。

 空が明るく照らされる。

 先程まで夜の闇に包まれ、松明の明かりでようやく足元を照らしていたはずなのに、今は道に自らの影がクッキリと浮かんでいた。


「な、何が……」


 兵士長がゆっくりと振り返る。

 そこには、巨大な火の玉が浮かんでいた。

 それにより、その場一帯が明るく照らされていたのだ。


「な、何だ! こ、これ――」


 兵士長の驚きの声を掻き消すように、その巨大な火の玉は外壁へと勢い良く降り注いだ。

 声を上げる事も出来ぬまま、兵達は呑み込まれ、外壁は音をたて崩れ行く。

 衝撃が風を生み、熱気と共に町へと広がる。

 轟々と広がる土煙が外壁内の家々を次々と呑み込んだ。

 外壁が崩れ落ち、先程まで静かだった闇を裂くように一人の女の声が轟く。


「今だ! 時は満ちた! 我々の国を――バルバス様の国を取り返すのだ!」

「うおおおおおおおっ!」


 崩れ落ちた外壁の向こうに佇む女、ハーネスは、右手に持った剣をかざし、それを合図に騎兵が首都内へと雪崩れ込んだ。

 それは、南方防衛砦の時と同じく、奇襲し一気に町を制圧しようと言う策略だった。

 だが、そんなハーネスの考えとは裏腹に、雪崩れ込んだ騎兵はすぐに動きを止める。

 彼らの前に佇むのは一人の男だった。それは、まるで南方防衛砦と同じ光景だった。

 足を止めた騎兵達の前に佇む男はボサボサに伸びきった黒髪を揺らし、穏やかなその顔を真っ直ぐに騎兵の後ろに佇むハーネスへと向ける。

 燃え盛る城壁の炎が、煌く漆黒の瞳へと映っていた。

 小さな蹄の音が僅かに響き、兵達は怯えた目を向ける。


「き、キース! な、何故、貴様が――」

「口の聞き方には、気をつけてもらいたい所だが、まぁ、いいでしょう。とりあえず、道を開けろ」


 いつに無く静かで恐ろしい程、殺気の篭った声に兵達は自然と道を開いた。

 それが、王国時代に彼らに植え付けられたキースの恐ろしさによるものだった。

 兵達が左右に分かれ、道が開けると、ハーネスはかざしていた剣を下し、静かに鼻から息を吐き出す。

 二人の眼差しが交錯し、静かで威圧的な空気がその場を支配する。

 そんな中、ハーネスは他の兵に指示を出す。


「お前達は先に行け。コイツは私がやる」


 ハーネスの言葉に、道を開いていた騎兵達は顔を見合わせ小さく頷きあうと、そのまま馬を走らせた。

 キースはそんな兵達を見送り、ゆっくりとハーネスへと足を進める。

 静かな面持ちの二人。

 炎に照らされ一層赤く映るハーネスの真っ赤な長い髪が僅かに揺れ、鼻筋の通った美しい顔の眉間にシワを寄せる。


「まさか、貴様がここにいるとは思わなかった」


 穏やかで静かなハーネスの声に、キースは表情を変えない。

 いつもの飄々とした感じではなく、まるで怒りを悟られぬよう隠しているかのような穏やかな表情だった。

 キースの横を駆け抜ける兵達は、そんな彼の表情に寒気を感じる程だった。

 穏やかで静かな時間が過ぎ、キースの足がゆっくりと止まる。


「どうして、そう思った? 内通者でもいるのか?」


 キースのその言葉にハーネスは僅かに表情をしかめた。

 そう、キースがこの場にいるはずがなかった。

 それは、昨夜の事だ。六傑会の会議の最中、話が平行線を辿る事に、キースが怒り、


「こんな会議は無意味だ!」


と、言い残し、首都を飛び出したはずだった。

 ルピーの仇を討つべく為に、レジスタンスを探して。

 内通者からの連絡でその事を知っていたからこそ、ハーネスは今夜作戦を実行した。出来る限り余計な障害を省き、侵攻を確実なものにする為だ。

 キースと言う男は、それ程危険な存在だと、ハーネスは評価していた。

 無言のハーネスに、キースは穏やかに笑う。何も言わないと言う事が、キースの言葉を認めたと言う証明だった。


「残念だったね。キミの思惑通りに事が進まなくて」


 キースがそう言い剣を抜くと、ハーネスは鼻で笑う。


「フンッ。関係ない。ここで、私がお前を殺せば、何の支障もない」

「悪いけど、僕は簡単には死なないよ」


 身を低くし剣を構えるキースはそう答え、真っ直ぐにハーネスを睨んだ。



 王宮内は騒ぎとなっていた。

 奇襲に確りと備えていたが、まさか北口から攻め込まれるとは予想外だった。

 何故なら、北方のレジスタンスはすでに鎮圧し、北方からレジスタンスが来る事などありえないと、考えていたからだ。

 その為、外壁の見回りは南方、東方、西方の三箇所を重点に行っていた。

 もちろん、その三方向に多くの兵が回れていた。

 北口の奇襲により、西方、東方に回されていた兵は急遽北口へと向かい、王宮に待機していた兵も、その場へと急いでいた。


「クソッ! 何で北口から!」


 声をあげ、壁を殴ったロズヴェルは表情を険しくし、唇を噛み締める。

 北方地区担当のロズヴェルは、確実にレジスタンスを鎮圧した。レジスタンスの主力は捕らえ、兵も殆ど捕らえていた。

 なのに、どうして北からレジスタンスが攻め込んできたのか、分からなかった。


「そんな事より、どうします? 北口に続き、南口も――」

「分かってる!」


 ケイトの言葉に、ロズヴェルはそう怒鳴る。

 だが、最悪な事は続き、一人の兵が慌てて、その部屋へと入ってきた。


「ほ、報告! に、西口、ひ、東口にて、て、敵襲です!」

「なっ! ど、どう言う事だ!」


 驚くロズヴェルが声をあげ、兵士を睨んだ。

 その目に「ひっ!」と声を上げた兵は背筋を伸ばし、答える。


「に、西口には、少年が一人!」

「少年? 何者だ?」

「わ、分かりません。ただ、一太刀で門を切り裂き、首都内へと侵入。すでに兵数十人が死傷しています!」


 兵の報告にロズヴェルは表情をしかめ、ケイトも目を細める。

 まさか、そんな正体不明の存在が攻め込んでくるとは思ってもいなかった。

 だが、まだ確認しなくてはいけない事があり、ケイトは兵へと目を向け尋ねる。


「それで、東口は?」

「そ、それが……」

「どうした? レジスタンスじゃないのか?」


 口ごもる兵に対し、ロズヴェルがそう言い放つ。

 すると、兵は唾を飲み意を決し口を開いた。


「じゃ、ジャイアントラビットが複数と一人の男が!」

「ジャイアントラビット? な、何で、ジャイアントラビットが?」

「わ、分かりません!」


 ロズヴェルの問いに、兵は背筋を伸ばし声高らかに答えた。

 まさかの事態に、ロズヴェルとケイトは頭を抱える。明らかに現在、居るメンバーでは対応出来ない、そう考えていた。

 だが、そんな二人の前に、冬華は現れる。騒ぎを聞きつけ、何か力になる事はないか、出来ることはないだろうか、と思いやってきたのだ。


「あ、あの……」


 重苦しい部屋の空気に恐る恐るそう尋ねる冬華に、ロズヴェルは顔を向け怒鳴る。


「今度は何だ!」

「あっ、いや、その……私達も、一緒にた、戦いたい……と、言うか、何ていうか……」


 物凄いロズヴェルの形相に思わず慌てて冬華が答えると、ロズヴェルは眉間にシワを寄せる。


「お前、戦えるのか?」

「おい! 失礼ですよ。仮にも英雄なんですよ」


 と、ケイトはロズヴェルへと言い放った。

 何気ない、ケイトの言葉の方が冬華は傷ついたが、今はそんな状況じゃないと思い何も言わなかった。

 しかし、ケイトもまた複雑そうな表情を冬華へと向けた。


「残念ながら、これは我、国の問題。あなた方に手伝ってもらうわけには……」

「すでに、アオは北口へと向かったが、それはいいのか?」


 ケイトの言葉に対し、冬華の後から部屋に入ってきたクリスが、そう尋ねる。

 その言葉に、ケイトは目を細め、ロズヴェルは右手で頭を掻いた。


「仕方ないだろ。緊急事態だ。彼女達に手伝ってもらうしかあるまい。まぁ、リアスとグレイがすでに出撃準備をしているし、彼らと一緒なら何とかなるだろ」

「そう……ですね」


 一瞬、ケイトが険しい表情を見せたが、すぐにいつも通りの涼やかな表情へと戻る。

 そして、ケイトは静かに告げる。


「では、ロズヴェルは東へお願いします。僕は南へ向かいます。それから、あなた方は、西口をお願いします」

「ああ。分かった」


 ロズヴェルが了承したのと同時だった。


「すまんが、武器を貸して欲しい」


と、クリスが願い出たのは。

 現在、クリスの持っている武器はもう戦いでは使用できない程の状態だった。

 その為、何とか戦えるだけの剣が一本欲しかったのだ。

 クリスのその願いに、ケイトは思い出したように、


「確か、あなたは紅蓮流の方でしたね。取って置きの武器が倉庫にあります」


と、告げる。

 その言葉にクリスは訝しげな表情を浮かべ、小さく首をかしげた。

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