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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
バレリア大陸編
197/300

第197話 王都に向かって

 バレリア大陸、首都フェルゼルでは緊急六傑会が行われていた。

 集められたのは各地の代表。

 魔族の里から六傑会第一席のグレイ、西地区から第六席のキース、東地区から第四席リアスまで召集されていた。

 円卓を囲む五人と一つの空席。その席を見据え、キースは深く息を吐いた。

 キースは静かに伸びきったボサボサの黒髪を右手で掻き揚げ、背もたれへと身を預ける。

 重い空気が漂う中、赤毛と青毛の混じった髪を揺らし、ケイトが静かに口を開いた。


「今後についてですが……」

「今後と言うよりも、彼女についてじゃないのかな?」


 ケイトの言葉にキースが押し殺したような声でそう述べた。

 その言葉に、ロズヴェルは喉を小さく鳴らすと、ケイトと目を合わせやがて口を開く。


「ああ。そうだ。奴についてだ」

「奴……と、言うと……」


 ロズヴェルの言葉に、リアスは机に肘を置き、顔の前で手を組んだ。

 そして、その手を額へとあて、静かに瞼を閉じた。

 その場に居るグレイ以外の全ての者が、一人の女の顔を思い浮かべる。

 ラフト王国時代バルバス直属の副隊長であり、恐らくその恩恵を一番受けていた女。

 名前はハーネス。元・盗賊にして、優れた才能と高い能力を秘めた女だった。

 本来ならば隊長をしていてもおかしくない程の能力を持ちながらも、バルバスの部隊の副隊長をしていたのは、それだけバルバスの彼女の力を認め、彼女を信頼している証だった。

 ケイトは長くバルバスの参謀の様な役割として傍に居た為、彼女との面識があった。その頃から彼女は異彩を放っており、正直、ケイトは自分が何故参謀としてバルバスの傍にいるのか、疑問を抱く事が多々あった。

 そして、今回、彼女が敵に回った事を畏怖していた。

 果たして、ここにいるメンバーで彼女に対抗出来るのだろうか、と。

 不安を抱くケイトにロズヴェルは深々と息を吐く。


「強いのか? あの女は?」


 ロズヴェルがそう尋ねる。

 正直、ロズヴェルはハーネスについて殆ど知らない。

 何故なら、ロズヴェルが軍を抜けていた間にハーネスは軍に入ったのだ。故に、呪いから解放され、記憶を取り戻した後、ロズヴェルは彼女を初めて見たのだ。

 その時は全く強そうには見えなかったが、まさかここまでの実力者とは思ってもいなかった。


「まぁ、正直、僕の考えから言うと、彼女の力はバルバスに匹敵する可能性がある」

「何の冗談だ? 笑えないぞ」


 ケイトの発言に対し、ロズヴェルは肩を竦めやがて鋭い眼差しをケイトへと向けた。

 ロズヴェルの眼差しに、ケイトは渋い表情を浮かべた後、小さく二度頭を縦に振る。


「冗談で、こんな空気になると思いますか?」

「…………」


 重い空気にロズヴェルも事の重大さを理解する。

 そして、グレイも。


「だが、どうするつもりなんだ。そんな奴を、野放しにしておくのか?」


 と、疑問を投げ掛ける。

 直接バルバスと対峙した事はないグレイだが、その強さは理解しているつもりだった。

 だからこそ、そんな化物に匹敵する程の力を持つ相手を放置しておくわけには行かないのだ。

 グレイの言葉に誰もが押し黙るが、キースは静かに息を吐き出す。

 静まり返った室内へと響き渡るキースの吐息に、皆の視線が集まる。

 ラフト王国でも実力者で第一軍を率いていたキースだが、正直ハーネスの力は未知数だと考えていた。

 まだ底を見せていない、そう感じていた。

 その為、今回ルピーがやられたと聞いて、少々驚いた。

 ルピーはキースの率いていた部隊でも戦闘力はずば抜けていた。それ故、二つある副隊長の一つを補っていたのだ。

 複雑そうな表情を浮かべるキースは、もう一度深く息を吐き出すと、やがて皆を見回す。


「とりあえず、今回の件で、もう彼女達を放置しておくわけにも行かないでしょ?」

「そうだな……。だが、どうする気だ? あやつはもはやレジスタンスのリーダーだ。全面戦争をする気か?」


 腕を組むリアスが眉間にシワを寄せ黒髪を僅かに揺らし、キースへと尋ねる。

 その問い掛けに対し、キースは小さく首を振るう。


「全面戦争は、正直避けたい。僕としても彼女と戦って無傷と言うわけにも行かないだろうし、それが、全面戦争となれば、被害はとんでもない事になる」

「だろうな。南方の砦では、町の人を含め、十数万の被害が出たからな」

「ですね。僕としても、こんなに被害が出るのは二度とごめんですね」


 キースはそう言い肩を竦める。

 そのキースの発言にグレイは腕を組み鼻から息を吐いた。


「しかし、どちらにせよ、レジスタンスと戦う以上被害が出るのは防げない。そうだろ?」

「そうですね。なら、直接戦わなければいいだけの話でしょ?」


 右手を軽く振りながらキースがそう言うと、ロズヴェルとケイトの二人が訝しげな目をキースへと向ける。


「何を考えている? キースよ」


 疑念を抱くリアスがそう尋ねると、キースは顔の前で手を組み、瞼を閉じる。

 そして、鼻から静かに息を吐きながらその瞼を開くと、鋭い眼差しを組んだ手に向け、口を開いた。


「今回の件、僕に全権任せてもらえるとありがたいね」


 静かなキースの声に、場の空気は静まり返る。

 怒りを押し殺し、必死に平静を装うキースの姿に、皆沈黙するしかなかった。

 ルピーがやられ、多くの兵が殺され、グライデンの無残な姿をキースも後々確認した。

 だからこその怒りだった。

 キースの道義として、死人に対しあのような事をするなど、非道でしかなかった。全力で戦った者へ対する侮辱だとキースは考えていた。

 今まで、必死に怒りを堪え、我慢していたのだろう。

 でも、やはりそれらを堪える事が出来ず、ついに怒りがあふれ出したのだ。

 張り詰める空気に皆が息を呑む。

 そんな空気の中、グレイは目を細め、キースを見据える。


「キース。あんたに全権任せて本当に大丈夫なのか? 正直、不安だ」

「どうして?」


 グレイの言葉に、キースは顔を向け静かにそう口にする。

 その言葉に、グレイは瞼を一度閉じると、小さく頷き、


「怒りに囚われて周りが見えなくなったりしてないか?」


と、口にする。すると、キースは静かに笑う。


「そう、見えるのかい?」

「ああ。少なくとも、俺にはそう見える」

「だとしたら、気のせいだよ。僕は、私怨で動いたりはしないよ」


 肩を竦め、薄らと笑みを浮かべるキースに、グレイは怪訝そうな表情を浮かべる。

 とても、私怨ではないとは思えないほどの気迫がキースには窺えた。

 その為、ロズヴェルもケイトもリアスも表情は厳しい。

 三人の様子から彼らも反対なのだと悟ったキースは右手で額を押さえると、左右に頭を振る。


「全く……理解に苦しむね」

「気持ちは分かるが、お前を失うわけにはいかない」

「おやおや。どうやら、僕の実力は彼女に劣る。そう思っているようですね」


 ロズヴェルの言葉に、キースは呆れた様に笑みを浮かべる。

 もちろん、キースの強さと言うのを、その場に居るグレイ以外は理解している。

 それでも、ハーネスと言う女の実力が不確か過ぎて――いや、彼女の強さに何か胸騒ぎを覚えていた。


「キミの実力は正直、この場にいる僕らの中で一番だと思っているよ。けど、相手の能力が分からないんだ、下手に手は出せない」

「くっ! 話にならないな!」


 キースが怒声をあげ、円卓を叩いた。

 ここまでキースが取り乱すのを、ロズヴェル、ケイト、リアスの三人は初めて目にした。

 彼は常に飄々とし掴み所のない男だった為、その表情、その行動に三人はただただ驚いていた。



 会議が平行線を辿り、早一週間が過ぎた。

 そんな時、王都の周辺では異変が起きていた。

 王都の外。その茂みの中に数万を越える兵が潜んでいた。レジスタンスだ。

 そして、その中に、その女の姿はあり、彼女の隣りにはジェスの姿があった。


「本気なのか?」

「ああ。当然だ。時は満ちたのだ」

「…………」


 ハーネスの言葉に、ジェスは口を噤む。


「さぁ、始めよう。王都を沈める」


 ハーネスの言葉を合図に、茂みに潜む兵は動き出す。

 王都へと向かって。

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