表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
バレリア大陸編
195/300

第195話 ―傷心―

 あの襲撃から一週間が過ぎ、冬華達はバレリア大陸の首都フェルゼルに居た。

 元々バレリア大陸の王都であったが、王制をやめた事により改めて名前が付けられたのだ。

 冬華達が首都フェルゼルに辿り着いたのは、あの襲撃から五日も後の事だった。アオの空間転移の力で、砦いる者達を近くの海岸へと転送し、そこから徒歩ここまで。

 皆、疲弊し衰弱していた。助かったのは女子供が多く、次に老人負傷者が多かった。男女差別をしたわけではない。あの町の男達が懇願したのだ。


「妻を先に――」

「子供を先に――」


 と。恐らく、彼らは分かっていたのかもしれない。全ての人が助かるわけではないと。

 だからこそ、未来ある子供達を。最愛の人を。救ってほしいと、願ったのだ。

 それでも、助かったのはその中から数百人。数万も居た中からたったの数百人しか助け切れなかった。

 全ての者を助けたいと、アオは奮起したが、それでも精神力が持たなかった。空間転移はただでさえ消耗の激しい術で、行き来するだけでも大量の精神力を使う。

 その上、大勢の人を一気に移動されるとなれば、更に精神力は削られ、結局数百人を移動させてアオは倒れた。

 それから、アオが目を覚ましたのは三日後で、それ以来、ずっとボンヤリと空を見据えていた。



「そうですか……僕らが帰ってすぐにそんな事が……」


 腕を組むケイトが静かにそう述べ、赤毛と青毛の交じった髪を右手で触れる。

 そう、あの襲撃が起こったのは、ロズヴェル、レベッカ、ケイトの三人が帰ったその日に起きたのだ。

 まるでそのタイミングを狙っていた様に。

 訝しげな表情を浮かべるケイトは、右手で右耳を触ると、目の前に佇むライを見据える。

 アオがあんな調子の為、ライが一応報告をしていた。コーガイもいない為、仕方ない事だった。

 爽やかに茶髪を揺らすライは、手すりに身を預け空を見上げる。


「とりあえず、俺らは何も出来なかった。悪い」


 ライはそう言い、ゆっくりと頭を下げた。

 もちろん、ライ達に非があるわけじゃないとケイトも分かっている為、困った様に笑い右手で頭を掻く。

 気にしないでください、とは言えない。多くの人の命が失われたのだから、そんな事を言えるわけがない。

 だから、ケイトはただ困った表情を笑い続けた。

 微妙な空気が二人の間に流れ、沈黙だけが続く。



 冬華は、広々とした一室のベッドで横になっていた。

 まだ本調子ではない冬華は右腕をゆっくりと持ち上げ、その手をギュッと握り締める。

 拳を握ると若干腕に痛みが走り、冬華の表情は歪む。

 結局、冬華は何も出来なかった。多くの人の命が奪われる中、自分は安全な所へと避難させられて……。

 本来なら、英雄である冬華自身が前線で戦わなければいけないはずなのに。

 そんな事を考えながら、静かに右腕を目の上へと置いた。

 悔しくて、不甲斐なくて、涙が溢れる。唇を噛み締める冬華は静かに涙を流し続けた。



 夜風に長い金色の髪を揺らすレオナは、右手で髪を掻き揚げふっと息を吐いた。

 冷たい空気に触れ、レオナの吐息は真っ白に染まる。

 僅かに欠けた月を見上げ、レオナは物思いにふける。

 本当に今回の決断は正しかったのか、そう考えていた。

 もちろん、アオの判断は最善だったと思う。思うが、やはり何処かであの町の皆を助けたい――助けたかった、と言う思いがそうさせたのだ。

 今までだって沢山の人の命が奪われる場面に遭遇してきた。そのたびに、自分達は本当に正しい決断が出来たのか、判断が出来たのか、そう考えさせられる。

 特に今回は――仲間であるコーガイの死に直面し、その思いは大きなものへとなっていた。

 もの悲しげな表情を浮かべるレオナは、胸の前で手を組み静かに祈りを捧げる。

 閉じられたその瞼からは薄らと涙が滲んでいた。



 冬華とは別の部屋に、クリスは居た。

 まだ痛々しく包帯の巻かれたクリスは、窓際の椅子に腰掛け、町を眺めていた。

 首都と言うだけあり、町は美しく輝きを放つように明かりが灯っていた。

 その輝きに虚ろな眼差しを向けるクリスは、静かに息を吐いた。

 体は大分回復している。折れていた骨も治りかけているが、まだ激しく動く事は出来ない。

 その為、あの戦いに参加する事は出来なかった。

 参加しても足を引っ張るだけだ、と言うのがアオの結論だった。

 確かに怪我人があの場に出て行って何が出来るだろう。武器ももう全て失い戦う術などクリスには残されていなかった。

 包帯の巻かれた自らの右手を見据えるクリスは、目を伏せ唇を噛み締める。


「何が……紅蓮の剣だ……」


 そう呟き、クリスは右手を握り締める。

 痛みで震えているのか、それとも悔しさで震えているのか分からないが、クリスの右拳は小刻みに震えていた。



 アオは一人ボンヤリと空を見上げていた。

 冷たい夜風を受け、アオの黒髪が揺れる。

 アオは後悔していた。コーガイを助けられなかった事を、多くの人を助けられなかった事を。

 アオが悪いわけじゃないが、それでも、自分を責めずにはいられなかった。

 何故、こんな事になったのか、どうして。

 考えても答えなどは出ない。考えても考えても、答えなど出るわけが無い。

 それが、苛立ちに変り、アオは握り締めた拳を壁へと突き立てた。


「クソッ!」


 思わずそんな声を発する。

 そんな時、背後で小さな物音が聞こえ、アオは素早く振り返った。


「誰だ!」


 苛立ちから鋭い眼差しを向け怒鳴るアオの声に、物陰に居たルーイットは肩をビクッと跳ね上げ恐る恐る姿を見せる。

 紺色の髪を揺らし、獣耳をパタリと閉じたルーイットの姿にアオは目を細めた。


「ルーイット……」

「ご、ごめん。盗み見るつもりじゃなくて……そ、その、姿が見えたから……」


 胸の前で両手の人差し指を合わせるルーイットは、その視線を右往左往と動かしていた。

 戸惑いが見て取れ、アオは複雑そうに息を吐く。


「俺に何か用でもあるのか?」


 少々厳しい口調でアオはそう尋ねる。

 アオもそんな厳しく尋ねる気はなかった。ただ、焦りと自らの怒りへがついついルーイットへと向いてしまったのだ。

 怯えるルーイットの姿でその事に気付いたアオは、複雑そうに右手で頭を掻き静かに息を吐いた。


「悪い……ちょっとイライラしていたんだ……」

「ううん。別に……大丈夫……」


 ルーイットは俯きながらそう答える。アオの気持ちが痛いほど良く分かる。

 ルーイットもシャルルが死んだと聞かされた時の事を思い出していた。自分の無力さを痛感させられ、失ったものの大きさを改めて実感する。

 そんな気持ちだからこそ、アオは苛立っていたのだ。


「あのさ……大丈夫?」

「あぁ……。大丈夫……と、は言えないな」


 アオは腰に手をあてそう答え、俯いた。

 その瞳が悲しげに光を反射し、雫が落ちそうになるのを瞼と包み込んだ。

 閉じた瞼の裏に、様々な事を思い出す。元々、コーガイは無口で殆ど会話などした事がない。

 それでも、心は通っていた。お互い、同じように信頼し、同じような志を持っていた。

 アオよりも先に連盟に加入していたコーガイは元々、イエロの下で働いていた。無口で文句を言わず、言われた事をやるような性格だったためか、イエロの仕事も難なくこなしていた。

 何処かの城でガーディアンをしていたが、それをイエロがスカウトしたのだと、出会った当初に語っていた。

 何処まで本当なのか、アオには分からないが、仲間内で過去を詮索しないと決めた為、アオは何も聞かなかった。

 程なくして、コーガイが最強と言われていたガーディアンだったとアオは知った。それは、任務で様々な場所に行き、多くのギルドを見てきたからだ。

 その中には、コーガイを知っている者もいれば、恐れる者も居た。それだけ、名が知れ渡っていた。

 そんなコーガイをアオは恐らく最も信頼していた。もちろん、ライやレオナの事も信頼しているが、それとはまた違う。

 コーガイに任せていれば、大丈夫。コーガイが後方にいれば、安心して自分は前線で戦える。

 それだけに、コーガイの死はアオにとってショックの大きい事だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ