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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
バレリア大陸編
193/300

第193話 辛い選択

 それは、唐突に訪れた。

 夜の静寂を裂く爆音が轟き、大気を揺るがす衝撃が窓ガラスを揺らす。

 外壁が紅蓮の炎に包まれ、町が赤く照らされる。

 砕けた外壁の破片が町中に広がり、外壁の警備を行っていた兵達は衝撃で吹き飛ばされていた。

 爆発の凄さを物語るように砦の窓ガラスは、やがて音を立て砕ける。

 ガラス片が砦の内側へと激しく散った。

 それにより、砦内にはサイレンが鳴り響き、慌ただしく兵達は廊下を駆ける。

 騒動に目を覚ます冬華は、何か起きたのだと、体を起こそうとした。だが、激痛が体を駆け、すぐにベッドへと倒れこむ。

 胸を押さえ、奥歯を噛み締め、体を震わせる冬華は、苦しそうに右目を閉じ、左目を割れた窓の方へと向けた。

 何が起こっているのかは分からないが、その向こうに映る漆黒の空が赤く照らされている事に何かとんでもない事が起きているのだと、冬華は理解する。

 しかし、こんな状況でも、自分は何も出来ずベッドに倒れていることに、冬華は不甲斐なさと悔しさを感じていた。

 


 炎に包まれ破壊された外壁から、次々と元王国軍――レジスタンスがなだれ込む。

 魔導部隊が外壁の外から強力な魔術で町を破壊し、騎兵隊は馬を走らせ逃げ惑う人々を惨殺していく。

 それに続けと、歩兵が崩れた外壁から侵入する。

 高く頑丈な外壁が崩されるなどと誰もが思っていなかった。その為、グライデンの部隊は完全に虚を突かれる形となっていた。

 そんな中、なだれ込む騎兵達の前に佇む一人の男。

 ギルド連盟所属の最強の少数精鋭部隊の一員にして、アオ曰く最強のガーディアンの呼び声高い男、コーガイだった。

 光沢のある漆黒の鎧に身をまとうコーガイは、目の前に広がる惨劇に僅かに目の色を変える。そして、右手に通常よりも若干長めの柄を持つ一本の槍を握った。

 柄の先には細く刀の様な刃が煌き、それは槍と言うよりも薙刀に近い形のモノだ。

 黒に僅かに金色の装飾を施された柄を強く握り、コーガイは斜に構え腰を僅かに落とした。


「一番槍は俺が貰った!」


 騎兵の一人が、一直線にコーガイへと馬を走らせる。

 槍を持った手を振り上げ、声を上げる騎兵の男に対し、コーガイは俯き頭に深く被った兜の角を騎兵の方へと向けた。


「死を覚悟したか! 王国の裏切り者共め!」


 槍を振り上げた騎兵の男がそう声をあげた直後、コーガイは僅かに顔を挙げ、馬へと鋭い眼差しを向けた。

 コーガイの目に、馬は悲鳴の様に声をあげ、前足を大きく振り上げる。馬が大きく背を仰け反らした事により、手綱から手を離した騎兵の男は地面へと叩きつけられる形で落馬した。


「うがっ!」


 男は腰を強打し声を上げる。そして、コーガイに睨まれた馬は、逃げる様にその場を離れた。

 一人残された騎兵の男は、腰を押さえ悪態をつく。


「くそっ! あの駄馬め! ふざけやがって!」


 そんな男に対し、コーガイは容赦なく槍を振り抜いた。

 一撃だった。長い柄を利用した手応えも何も感じさせぬ一撃は、男の鎧を砕き肉を裂く。

 血が噴出し、男は断末魔の叫びを上げる。しかし、それもすぐに消え、コーガイはゆっくりと歩き出す。

 その男の声に、先陣を切っていた騎兵隊の動きは止まった。

 視線がコーガイへと集まり、緊張感が周囲を支配する。

 緊迫した空気の中も響く人々の悲鳴に、コーガイの表情には怒りが滲んでいた。


「貴様、王国軍ではないな! 何故、我々の邪魔をする!」


 一番先頭にいる騎兵隊の男が槍の先端をコーガイへと向け声を上げる。

 しかし、コーガイは何も答えず、ただ周囲を見回す。

 現在ここには騎兵が約二十名程。散り散りになっている為、あとどれ位の騎兵がいるのかは不明だが、ここで二十名の騎兵を倒せば大分相手の戦力が減る。そうコーガイは考えていた。

 どれ位の戦力でこの砦を攻略しに来たのかは分からないが、相手の主力は騎兵だと踏んだのだ。



 砦内では、アオが走り回っていた。

 皆の無事を確認するように、各自の部屋を回っていた。

 乱暴に部屋の扉を開いたアオは、間髪いれずに声を上げる。


「ライ!」


 薄暗い部屋の中で、うごめく影にアオは目を凝らす。

 ただいま、ライは着替え中だった。寝ていたのだろう。騒動に気付き、すぐに戦闘服に着替えていたのだ。

 だが、乱暴に扉が開かれた事に驚き、すっ転んでしまったようだ。


「こんな時に遊んでる場合か!」

「遊んでるんじゃねぇーよ! てか、ノックくらいしろよ!」


 アオの言葉に対し、転びながら服に腕を通すライは、跳ね起き不満そうな眼差しを向ける。

 しかし、アオはライの言葉を無視し、部屋を見回す。ベッドが一つ空いており、コーガイの鎧もそこにはなかった。

 その事からアオの脳裏に嫌な予感が過ぎり、声を上げる。


「ライ! コーガイはどうした?」

「コーガイ? えっ? いや、寝る前まで一緒だったけど……」

「くっ! まさか、一人で!」


 アオは声をあげ、懐から小型の通信用オーブを取り出した。

 一応、パーティー間の通信用にと、イエロに全員分渡されており、皆、一つずつ持っている。

 アオはすぐにオーブを起動し、呼びかける。


「コーガイ! 何処だ! 今、何をしてる!」


 アオの呼びかけに、オーブが薄らと輝き、雑音がザザッと流れた。

 オーブの通信はいつも鮮明に聞こえる為、アオはその雑音が嫌に不気味に聞こえた。

 それから、少々遅れて、静かな落ち着いたコーガイの声が響く。


『アオ……すまない……』


 コーガイの第一声に、アオは表情を強張らせる。

 そして、ライも表情を引き締めた。

 その声が異様に弱っていた。今にも途切れてしまいそうな、そんな声だった。

 コーガイの強さをアオもライも理解している。だが、それでも、胸騒ぎがしていた。


「ど、どうした? 何があった? 今、何処にいる?」


 焦っているのか、アオは早口で畳み掛けるようにそう声を掛ける。

 その声に、またオーブの向こうで雑音が混じった後にコーガイの声が聞こえた。


『コッチは、気にするな……。お前は、お前の……出来る……事を……』

「おい! 待て! 一体、何が――」

『うぐっ!』


 突如漏れるコーガイの呻き声に、アオとライは一層表情を強張らせる。

 そして、通信が途切れた。

 コーガイの身に何かあった事を理解し、同時に彼が戦闘の最前線へと赴いたのだとアオは判断する。

 コーガイと言う男はそう言う人物だった。

 ガーディアンとして優秀で、危機察知能力に長けている。故に、最も危険な場所で多くの修羅場を潜ってきた。その中で生き残ってきたからこそ、彼は最強のガーディアンと呼ばれているのだ。

 奥歯を噛み締めるアオは、オーブを握りつぶしその破片で手を傷つけ鮮血が床へと散る。アオの行動にライは目を細めた。


「何処に行くつもりだ? リーダー」


 精神力を練るアオの背に、ライはそう尋ねる。乱れた精神力から、恐らく空間転移を行おうとしているのだと、ライは理解する。その行動から何をしようとしているのかは分かっていた。

 それでも、そう尋ねたのは、確認の為だった。


「決まっているだろ……コーガイの――」

「行ってどうするんだ? 俺らのする事はそうじゃねぇーだろ」


 やはり、ライの思っていた通りの答えだった為、ライはアオの肩を掴みその言葉を遮った。

 状況は分かっている。コーガイがヤバイ状況だと言う事も理解している。

 だが、コーガイは言った。


“お前に出来る事をしろ”


と。

 アオにか出来ない事、それは――


「リーダーがすべき事は、コーガイの下に行く事じゃねぇだろ! ここの、この町の人を、多く助ける事だろ!」


 ライの怒声に、アオは俯き瞼を閉じる。

 そんな事は分かっている。それでも、アオは振り返りライへと言葉を発する。


「それでも、俺は、コーガイを――」

「バカ野郎! 信じろよ! コーガイを! アイツが、そんな簡単にくたばるわけねぇーだろ!」


 アオの胸倉を掴み、ライはそう声を上げる。

 声が僅かに震えていた。胸倉を掴むその手が震えていた。

 口では信じろ、くたばるわけない、そう言っているが、ライも不安で心配でたまらないのだ。

 それを、アオは理解する。そして、


“アオアオには辛い選択をさせてしまって”


と、言うイエロの言葉の意味を知る。


(くっ……辛い選択って、この事か……)


 ギリギリと奥歯を噛み締め、アオは決断を下す。

 コーガイの為にも、今、自分が出来る事をしようと。

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