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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
バレリア大陸編
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第187話 今すべき事

「どうだ? レオナ」


 剣を収めたアオが冬華の治療を行うレオナの方へと早足で駆けながらそう尋ねた。

 だが、冬華の治療を行うレオナは無言で治療を続ける。その額には大粒の汗が溢れ、聖力を纏った両手は眩く輝いていた。

 真剣な表情で治療に当たるレオナは、息を呑み込み意識を集中する。それ程、冬華の傷が深刻な状態だった。

 そして、もう一人の重傷者であるクリスの事も気がかりで、レオナは焦りを感じていた。このままだとどちらかが助からないと、レオナの脳裏に過ぎった。

 レオナの前に足を止めたアオは、冬華の傷の具合とクリスの状態を目視し表情を歪める。

 冬華は一箇所だけ刺されただけだが、クリスは酷い有様だった。骨は完全に折れているだろう。体中血まみれだった。

 どちらを優先して治療しても、恐らくこのままだと片方は助からないと、アオでも分かる。その為、アオは眉間にシワを寄せた。

 衣服に付いた土を払いながら、ライは二人の下へと歩み寄る。右肘には先程弾かれた際に擦り剥いたのか、血が滲み出ていた。

 茶色の髪を揺らし深く吐息を漏らすライは、いつに無く怒りを宿した眼差しをアオへと向ける。


「リーダー! どうして、追わなかったんだよ?」


 アオの顔を見上げ、ライが声を上げる。

 その声に対し、アオは右手で頭を抱えると眉間にシワを寄せ、やがて前髪を握り締める。


「仕方ないだろ。今は奴を追っている場合じゃないだろ?」


 アオはそう言いながら上着を脱ぐと、裸で倒れるルーイットの方へ足を進め、そっと上着をその体に被せた。

 この惨状を目の当たりにし、ライも理解し唇を噛み締める。

 そう、今、アオ達がすべき事は奴を追う事ではなく、冬華達をいち早く治療する事。だが、結局レオナ以外は回復術を持っていない為、何の役にも立たないのだ。

 額から汗を流すレオナを見据えるアオとライの二人は、何も出来ない事に苛立ちを感じていた。

 静まり返るその場所に茂みから小柄な少女ルピーが静かに姿を見せる。オレンジの髪を肩口で揺らすルピーは茂みを抜けてすぐ、その表情を険しくする。

 先程まで居なかった人物が増えていれば警戒するのは当然だ。

 鋭い眼差しを向け、腰にぶら下げたナイフへと手を伸ばすルピーに対し、素早い反応を示したのはライだった。

 すぐに治療をするレオナの前に立ち、腰のナイフを抜く。その動きにルピーは眉をひそめる。


(速い……)


 奥歯を噛み締めるルピーに対し、ライは鋭い眼差しを向ける。

 と、そんなライを、アオが制止する。


「よせ。ライ」

「で、でも……」

「彼女は敵じゃない。そうだろ?」


 アオの声に、鎧を軋ませ歩みを進めるグライデンが、小さく頷き答える。


「ああ。奴は俺の部下――」

「誰が部下だ! 無能!」


 ルピーはそう怒鳴りグライデンへと蹴りを見舞う。ガンッ鋼鉄の鎧が音をたて、僅かに凹む。

 グライデンはよろめき、そこにルピーは追い討ちを掛けるようにもう一度蹴りを放った。


「うがっ!」


 声をあげ、グライデンが倒れると、ルピーはその体を右足で踏み締め、その顔を睨みつける。


「私はお前の部下になった覚えは無い!」


 ルピーの言葉にグライデンは言葉を失い、アオとライは呆然とその光景を眺めていた。

 この状況で何でこんなコントが出来るなんて、と思う二人に対し、ルピーは深いため息を吐きながら体を向ける。

 それから、鋭い眼差しをアオへと真っ直ぐに向け、首を傾げた。


「お前、何処かで見た事があるな?」

「いや、初対面だと思うが……」


 ルピーの言葉にアオは訝しげにそう答えた。

 腕を組み俯くルピーは考える。やはり何処かで見た覚えがあるが、思い出す事が出来なかった。

 そんな会話をする中で、「うぐっ」とレオナが声を漏らす。その声で、アオは状況を思い出す。現在、冬華とクリスが危ない状態だと言う事を。

 そして、レオナの体力も大分消費されているのだと。

 苦しげなレオナの顔に、アオは焦っていた。その為、考えが回らない。

 そんなアオの肩へとコーガイが右手を置いた。

 コーガイへとアオが顔を向ける。すると、コーガイは渋い声を発する。


「落ち着け。二人を助ける方法ならあるだろ」


 このパーティーの最年長者であるコーガイの一言に、アオは目を細める。二人を助ける方法が本当にあるのだろうか、そう思ったのだ。

 アオの表情で、コーガイもその考えを悟ったのか、アオの肩に置いた手に力を込め、真っ直ぐな眼差しをアオへと向ける。


「ヒーラーが足りないなら、もう一人連れてこればいい。連れて来れないのなら、その者の下へ行けばいい。お前にはそう出来る力があるだろ」


 落ち着きのある静かな声でそう述べるコーガイを、アオは真っ直ぐに見据える。

 二人の眼差しが交錯し、アオはようやく落ち着きを取り戻す。そして、コーガイの言葉の意味を考える。

 二人を助ける方法ならある――どんな方法?

 ヒーラーが足りないなら連れてこればいい――何処から?

 連れて来れないのなら、その者の下へ行けばいい――教会に?

 お前にはそう出来る力がある――恐らく、空間転移の事。

 なら、何処に空間転移する。誰を連れてくる。ヒーラーがもう一人――。


 と、アオはそこまで考えた時、その脳裏に記憶が蘇る。

 以前、この大陸に来た時に会った、聖力を扱う事が出来る一人の少女の事を。

 名前はレベッカ。情報では、現在、六傑会の第三席ロズヴェルと共に北地区の統括を任されている。

 聖力は申し分ないし、回復術も以前レオナに教わっている為、彼女がいれば、恐らく冬華もクリスも助かる。

 そうアオは考えた。

 ただ、問題があるとすれば、アオの空間転移では、北地区には飛べないという事だ。アオは王都周辺にはマーキングをしてあったが、他の地域には殆どマーキングをしていなかった。

 理由として、この大陸には嫌な思い出しかなかった為、あまり見て回らなかったと言う所だった。

 こんな事になるならと、悔やむアオは、唇を噛み締める。


「くっそ! 北地区に行けば、レベッカの助けを借りる事が出来るのに!」


 拳を握り締め、そうアオが声を上げる。

 ナイフから手を離すライは、そんなアオへと複雑そうな表情を向ける。アオがこの大陸でどんな目にあってきたのかを聞いていた為、何となく分かる気がしたのだ。

 アオがこの大陸にマーキングをあまりしていない理由が。

 忘れたかったんだと思う。この大陸で起こった事を。思い出して欲しくない人が居ると言う事も以前聞いていたのを覚えており、その人が自分のパーティー内に居るとライは推測し、視線をレオナの方へと向けた。

 まさか、その人の事を考えてマーキングを控えていた事が、こんな所で裏目に出るとは流石にアオも思わなかっただろう。

 俯くライは「クッ」と声を漏らした。もうどうする事も出来ないのか、そう皆が思いかけていた時だった。


「何だ? お前達、ロズヴェルの知り合いなのか?」


 グライデンを右足で踏みつけるルピーが訝しげにそう尋ねた。

 全く場の重苦しい空気を感じさせないルピーとグライデンの二人に、アオは深く息を吐き出し小さく頷いた。


「ああ。一応……な。それで、彼と一緒に居るレベッカが居れば、二人とも助ける事が出来る……のに……」


 唇を噛み締めるアオに対し、ルピーは腕を組み目を細める。


「なら、行けばいいだろ? 王都に」

「はぁ? お前、聞いてなかったのか? レベッカは今、北地区に――」

「ロズヴェルとレベッカなら、現在、王都に戻っているはず――ぐごっ!」


 親切に説明するグライデンの顔をルピーは踏みつける。


「お前は黙ってろ」

「ふ、ふみばぜん……」

「お、おい! ちょっと待て! 二人は王都に居るのか?」


 目を見開くアオがそう声をあげると、ルピーは肩を竦める。


「さっきからそう言ってるだろ? 青雷のアオ」

「――!」


 その異名で呼ばれるのは懐かしく、アオは驚きを隠せない。

 驚くアオへとニシシと八重歯を見せながら笑うルピーは、右手でオレンジの髪を掻き揚げた。


「思い出したぞ。お前の事。昔、王都で――」

「――ッ! そ、そうか! お前……」


 ルピーの言葉を遮る様にアオがそう声を上げる。そして、チラリとレオナへと視線を向けた後に、安堵の表情で息を吐く。

 レオナは現在冬華の治療で周りの言葉など聞こえては居なかったのだ。

 訝しげに首を傾げるルピーに対し、アオはいつに無く真剣な表情を向け、


「ありがとう。助かった」


と、告げると大量の精神力を放出しその場から一瞬で消えた。

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