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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第18話 ギルドと夢

 牢屋から開放された冬華、クリス、シオの三人は応接間へと案内された。

 三人と机を挟んで真紅の髪の男が静かに椅子に座り、三人にも椅子に座る様促す。正面に冬華が座り、それを挟む様に右にクリス、左にシオが腰を下ろした。

 クリス・シオの二人はまだ男の事を警戒している様で、空気は緊迫していた。

 静かなその一室にお茶請けを持ち一人の女性が入ってくるが、扉を開けた瞬間にあまりの空気に体が震えだす。


「あ、あの……お、お茶を……」

「あっ、ありがとう。ごめん。私が後は――」


 すぐに席を立った冬華が、女性の方に行こうとすると、クリスも慌てて立ち上がる。


「い、いえ。そんな、私が――」

「いいって。クリスは座ってて」


 笑いながらクリスを椅子へと戻すと、冬華は急ぎ足で女性に駆け寄り、トレイを受け取った。


「ありがとう」

「は、はい……」


 深々と頭を下げ、女性はすぐ部屋を出た。それだけ、この部屋に居辛かったのだ。冬華ですら、この部屋の空気に少しだけ逃げ出したい気持ちがある位だった。

 お茶を配り、椅子へと戻った冬華は、小さく吐息を吐き渋い表情を浮かべ、クリスとシオの顔を交互に見た。そんな冬華に視線を向ける男は二人の視線を浴びながら、小さくため息を吐きお茶を口に運ぶとゆっくりと口を開く。


「俺は、このギルドのマスター。ジェス。個人経営の小さいギルドだがな」

「えっ? あーぁ。あのさぁ……ギルドって何?」


 右手を軽く上げ、冬華がそう問うと、クリスもシオもジェスも驚いた様に冬華の顔を見据えた。その視線を浴び冬華は苦笑し、ガクリと肩を落とした。

 小さくため息を吐いたのはジェス。こんな事も教えてないのかと、クリスとシオに呆れた様な眼差しを向けた後に、腕を組み背もたれに体を預ける。


「ギルドって言うのは、依頼を受ける場所で、個人運営のギルドと連盟が運営するギルドの二つがある」

「えっと、個人運営と連盟は何が違うの? どっちも同じギルドでしょ?」

「違います。冬華様。個人運営のギルドと言うのは、彼の様に一人のマスター、または複数のマスターが個人の資金を出し作ったギルドで、自分達で仕事の依頼を募集したり、ギルド全体で受けた依頼をこなす事だってあります。一方で、連盟が運営するギルドと言うのは、ギルドに所属していない人でも依頼を受ける事が出来る所です」


 クリスが冬華の質問に答えると、ジェスは静かに息を吐く。


「それから、個人運営のギルドは連盟に毎月決められた額の金を献上する事により、連盟に加入する事が出来、連盟に加入したギルドは、連盟から特別な依頼を取り寄せる事も出来る。ちなみに、俺のギルドは非加盟だ」


 胸を張るジェスに、「ふーん」と冬華は納得した様に頷いた。一応、今の説明でギルドについては理解したつもりだった。だが、一つ疑問が冬華の中に生まれ、また右手を上げる。

 その行動に、ジェスが不満そうな表情を浮かべた。その表情に苦笑すると、


「えっと、ギルド連盟があるのに、わざわざ自分でお金出してギルドを運営する意味ってあるのかな?」


 と、質問する。その質問にジェスとシオの二人が眉間にシワを寄せた。その表情の変化を見逃さなかったクリスは、表情を険しくし問いただす。


「私もその辺の事情を聞きたいものだな」

「えっ? クリスは知らないの?」

「えぇ。私もこうしてギルドに入ったのは初めてですから、詳しく知ってるわけじゃありません」


 不思議そうな表情を向ける冬華に、銀色の髪をかきあげクリスはそう述べた。城で騎士として過ごしてきたクリスも、ギルドの実態については殆ど知らなかった。それゆえ、ジェスとシオの表情が気になったのだ。

 ジェスとシオは複雑そうな表情を浮かべる。シオは何故個人運営でギルドを経営するのか、その理由を少なからず知っていた。それにはギルドマスターの思い願いがある。ある者は名声の為、ある者は金の為、そして、ある者は――色々な願いや想いをかなえる為にギルドを立ち上げるのだ。

 ジェスもこのギルドに一つの願い想いを乗せて立ち上げた。その想いに賛同した者達が集まり、ここまでギルドは大きくなっていた。そんな想いを簡単に口にする事は出来ず、ジェスは小さく吐息を漏らし静かに口を開く。


「個人運営ギルドってのは夢だ。夢を叶える為に、自らのギルドを立ち上げる」

「…………」

「うわーっ」


 クリスは沈黙し、冬華は冷ややかな目を向ける。シオも小さくため息を吐き、額を押さえながら首を左右に振った。沈黙が続き、ジェスは顔を真っ赤にして怒鳴る。


「な、何だ! も、文句があんのか! 俺は、このギルドに夢を掛けてんだよ!」

「夢……ねぇ」


 相変わらず冷ややかな視線を向ける冬華は、小さくため息を吐く。もっと大きな理由が大事な理由があるかと思えば、夢と言う言葉が出てきた為、呆れてしまった。

 そんな視線を浴び、ジェスは「くぅーっ」と悔しげに声を漏らし、拳を握り締める。そんなジェスを見据え、シオは眉間にシワを寄せた。ジェスの言った言葉は半分本心で、半分は偽りだ。

 個人運営のギルド。それは、闇。確かに夢を叶える為にギルドを立ち上げる者も居る。だが、それは一部。本来個人運営のギルドを立ち上げる者は、連盟が受ける事が出来ない依頼を受ける為、実行する為のギルド。その連盟が受ける事の出来ない依頼――暗殺。他にも連盟が受けられない依頼はあるが、一番大きいのはこれだ。故に、連盟非加盟の個人運営ギルドは『暗躍ギルド』と呼ばれている。

 シオはその事を知っていた。以前、そう言うギルドに加入していたからだ。その中で、シオも何度か暗殺の依頼をされた事がある。受けた事は無いがギルドの中には何度もそう言う依頼を受けている奴もいた事を覚えていた。


「シオ? 大丈夫? 顔色悪いけど?」

「えっ、ああ。ちょっと、昔の事を思い出してな」


 乾いた笑いを浮かべるシオに、冬華は首を傾げた。いまいち、集中力に欠けるシオに、クリスは怪訝そうな視線を送り、ジェスはシオが以前に暗躍ギルドにいたのだと察した。だが、それをあえて口にする事は無く、ただ顔を赤くし冬華に個人ギルドの、自分の夢について語りだす。


「俺はだな、このギルドに、大きな夢を――」

「はいはい。ギルドは夢。分かった分かった」

「うおい! 待て待て! 流すな! ホントに、このギルドには夢が――」

「それより、取引の話をするんじゃなかったのか」


 ジェスの言葉を遮る様にクリスがそう言葉を挟んだ。冷ややかな視線を送るクリスに、ジェスが僅かにたじろぐ。そして、理解した。所詮、女に男の夢、理想など分からないのだと。心の中で涙し、両手を静かに机の上に着いた。

 突如、場の空気が一変し緊迫する。鋭い眼差しを向けるジェスにクリス・シオ共に目付きを鋭くした。と、その瞬間、壁をすり抜け涙を流すセルフィーユが部屋へと乱入した。


『とーかさまー。何処ですかー。とーかさまー』

「せ、セルフィーユ!」

「あっ、幽霊!」

「はぁ?」


 突然声を上げた冬華とシオに、ジェスは眉間にシワを寄せ声を上げると、二人の顔を睨んだ。クリスはセルフィーユが戻ってきたのだと状況を理解し、腕を組み小さくため息を吐き、シオは呆れた様に泣き叫ぶセルフィーユの姿をただ見据えていた。

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