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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
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第17話 取引

「……はぁ」


 冬華は深いため息を吐いた。

 腕は背中で手錠を掛けられ、目の前には鉄格子。クリスやシオも同じ様に手錠をされ、足枷まで施されていた。


「結局……また牢屋って……」

「仕方ないだろ? あの人数相手に、まともに遣り合って勝てる分けないんだから」


 ため息を吐いた冬華に、シオがのん気にそう答えた。取り囲まれた後、三人は抵抗する事なく捕まった。懸命な判断だったと言える。戦力があまりに違いすぎたのだ。戦闘なれしたクリスやシオは一目見てその事に気付いたが、冬華やセルフィーユはその事に気付かず納得はしていなかった。

 セルフィーユは他の人に見る事が出来ない為、今回も牢屋をすり抜け偵察に向かっていた。

 大人しく瞼を閉じ精神統一をするクリス。捕まってからずっとこうして居る為、冬華も声を掛けない様にしていた。


「はぁ……それにしても、ここに来て捕まってばっかりの気がする」


 愚痴る冬華に、シオは寝転びながら笑顔を向ける。


「そう言えば、異世界から来たんだっけ? この際だし、聞かせてくれよな」


 この際って、と呆れ顔を見せる冬華は、小さく吐息を漏らすと自分の居た世界を思い出す。今思えば、普通に学校に通って勉強して、友達と楽しく話したりして、平凡な生活を送っていたはずなのに……どうして、こんなわけの分からない世界で牢屋に入れられなきゃいけないのだろうと、考え急に気が重くなった。クリスやセルフィーユの力になりたいと、言う気持ちはあったが、それよりも先に元の世界に帰れるだろうか、と急に不安になった。


「はぁ……」

「何だよ? 急にため息なんて?」

「何でも無い。まぁ、私の居た世界は平和な所よ。ここに比べたらね」

「へぇー。じゃあ、つまんない世界なんだな?」


 上半身を起こしそう言ったシオに、冬華は「あんたにとってはね」と刺々しい口調で言い放つと、


「じゃあ、お前にとっては楽しい世界なのか?」

「そりゃ、友達も沢山いたし、勉強はまぁ面倒かも知れないけど、それなりに充実してたかな」

「ふーん」

「まぁ、感性の違いじゃない? ここで生まれ育ったあんたと、向こうの世界で生まれ育った私の」


 ふふーんと、自慢げに告げた冬華に、「そんなもんか?」と首を傾げたシオは、また床に横になり天井を見上げた。全く興味無いと言う態度のシオに、冬華は小さくため息を吐き、不意にシオの言葉を思い出す。


「そう言えば、力を貸して欲しいとか言ってたけど……」

「ああ。そうだな。この際だがら、話しておくか……」


 シオがそう呟くとクリスの瞼がゆっくり開かれ、それに遅れて一つの足音が聞こえた。シオもその足音に気付き、体を起こすといつに無く鋭い目付きを鉄格子の向こうへと向ける。クリスも険しい表情を見せていた。

 静かな足音がゆっくりと近付き、鉄格子の向こうに一人の男が立ち止まる。真紅の髪。それが一番最初に目に入り、次に穏やかな笑みを浮かべる表情が目に入った。その笑顔が妙に胡散臭く見え、冬華もシオとクリスと同じ様に警戒心を強めた。

 そんな三人の顔を見回した男はより一層優しげな笑みを浮かべると、右手に鍵を取り出す。


「獣王の息子シオ。紅蓮の剣と謳われるクリス。そして、英雄として召喚された異世界から来た冬華。まさか、こんな大物三人が揃ってる何て」


 穏やかに笑うその目の奥にやはり何か嫌な印象を感じながら、冬華はシオの方へと少し身を寄せ、


「ねぇ、獣王って?」

「えっ? ああ。オイラの親父で、この世界に居る三大魔王の一人だよ」

「へぇー……えぇぇぇぇっ!」


 驚きの声を上げる冬華に、シオは体を遠ざけ迷惑そうに顔をしかめた。

 クリスもその声に体を僅かにビクッとさせ、真紅の髪の男も苦笑しながらその様子を見ていた。


「何だよ……耳元で……」

「だ、だ、だって、あ、あんた、ま、まお――」

「何だ? 知らなかったのか? テッキリ、知ってて一緒に居るもんだと思っていたが?」


 戸惑いうろたえる冬華に対し、鉄格子の向こうから男がそう投げかけた。その言葉に対し、冬華は「し、知るわけ無いでしょ!」と怒鳴り、クリスの方へと顔を向けた。


「く、クリスは知ってたの?」

「いえ……。ただ、そうじゃないかとは、思ってました。噂で聞いていたので、獣王の息子はバカだが、仲間の為なら一人で敵地に乗り込む勇敢な男だと言う事は」

「エヘへ、照れるじゃないか――って、バカって! 一体、何処のどいつだ!」


 喜から一気に怒に変わったシオの表情に、冬華は引きつった笑みを向け、クリスは「知らん」とそっぽを向いた。

 そんな和気藹々とする鉄格子の向こうを見据える男は、右手でポリポリと頬を掻き、


「キミ達、状況分かってるか?」

「てめっ! 無視すんな!」

「シオ! 落ち着きなさいよ。クリスは噂で聞いたって言ってたじゃん。噂なんてあてにならない――事もないか……」

「くおらーっ! それって、オイラがバカだって言いたいのか!」


 と、シオは後ろで腕を拘束する錠を引き千切り、拳を空へと振り上げた。砕けた錠が周囲に破片と飛び散らせ、同時に鉄格子の向こうに居た男が穏やかだった目つきを鋭く変える。遅れて、クリスが立ち上がり、シオの方へと背中を向け、シオは振り上げた拳をクリスの腕を拘束する錠の上へと叩き付けた。甲高い音が響き、錠が真っ二つに裂け、クリスはそれと同時に両手に剣を出し鉄格子の向こうに居る男の首下へと両切っ先を向ける。


「ッ! お、お見事……」

「はわわっ……ちょ、ちょっと、いきなりビックリするじゃない!」


 身を縮める冬華は、クリスとシオに対し震えた声で文句を言う。だが、クリスとシオはそんな冬華の言葉を無視し、男をギッと睨み続ける。二人のそんな眼差しを受け、両手を挙げた男は鋭かった目付きをまた、いつもの穏やかな目つきに変え、軽く頷く。


「流石と言って置こうか。けど、いきなりこれは失礼じゃないか?」

「失礼? 投獄されている奴が牙を剥かないとでも思っているの?」

「そうだね。じゃあ、取引しないか?」


 両手を挙げたまま静かにそう述べた男に、クリスは訝しげな表情を浮かべた。この男の言動を信じていいのかと。

 シオは冬華を拘束する錠を破壊すると、男の方へ視線を向けた。錠の破片が床へと転がり、冬華は両手首をクルクル回しながら「痛かったー」とのん気な声を上げると、隣りでシオが呆れた表情を浮かべた。


「あのなぁ……状況分かってんのか?」

「えっ? 状況? そりゃ、まぁ、何となく……」


 と、冬華はキョロキョロと周囲を見回した。そんなやり取りに男は静かに笑う。だが、その男にクリスは鋭い眼差しを向ける。


「おっと。失敬。いやいや。この状況でも和やかでいいね」

「和やかって言うか、ここから出して! 取引したいんでしょ! それとも、この世界じゃ、取引相手を牢屋に押し込むって言うの?」


 冬華が鉄格子の方に足を進めながらそう言い放つと、クリスが慌てた様にそれを制止する。


「な、何してるんですか! 近付いたらダメです!」

「クリス……とりあえず、剣を下ろして」

「ですが!」

「いいから。あなたも、取引がしたいって言うなら、ここから出して。話はそれからよ」


 冬華に睨まれ、男は「分かった」と小さく呟き、クリスも渋々と剣を下ろした。

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