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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
バレリア大陸編
165/300

第165話 行き当たりばったり

 冬華達は永遠に続くかのごとく連なる砂浜をただひたすら歩いていた。

 静かに砂浜へと足跡を残す四人。

 歩幅はバラバラの足跡は、やがて波にかき消される。

 先頭を行くのはクリスとティオ、その後に冬華とルーイットが続いていた。

 この大陸の出身であるクリスが先導する方がいいだろうと、この形になったのだ。

 少々落ち込み気味のルーイットに並ぶ冬華は、ミニスカートから伸びる綺麗な足を早足で動かし、ルーイットに身を寄せた。


「ねっ、ルーイットは、前にここに居たんだよね?」


 明るく無邪気な笑顔を見せながら冬華が尋ねる。

 唇と唇の合間から白い歯を見え隠れさせる冬華の笑みに、ルーイットは苦笑した。


「居たって言うよりも、立ち寄ったって言う方が正しいのかな? あんまり、大陸自体は見て回れなかったし……」

「そうなの?」

「うん。私が来た時はまだ魔族と人間の争いが激しかったから……」


 ルーイットがそう言うと、冬華は「そっかー」と呟いた。

 その言葉に、前を歩むティオが足を止め、振り返る。


「そういえば、詳しい話を聞いていませんでしたが、ルーイットはこの地に何しに来ていたんですか?」


 ティオの質問にルーイットが足を止め、それに釣られて冬華も足を止める。

 先頭を進んでいたクリスも、三人がついてこない事に気付きすぐに足を止め振り返った。


「どうかしたのか?」


 静かな口調でそう尋ねるクリスに、冬華が微笑し答える。


「今、ティオがどうしてルーイットがこの大陸に来てたのかって質問をしてて」

「それは、私も気になりますね。何故、魔族のあなたがこの地に来ていたのか」


 クリスも興味を持ち、そう口にし、ルーイットへと目を向けた。

 困り顔のルーイットは、右手で頬を掻くと、紺色の獣耳を閉じ首を傾げる。


「実は、成り行き上、ここに来た、みたいな感じかな? 特に目的があったわけじゃなくて、一緒に居た皆がコッチ周りで大陸を回っていこうか? みたいな空気で……」


 正直にそう言うと、三人とも呆れた様に息を吐いた。

 冬華は苦笑し、クリスは腰に右手をあて、左手で頭を抱え何度も左右に揺さぶり、ティオはただただ目を細め眉間にシワを寄せていた。

 まさか、そんな行き当たりばったりでバレリア大陸に来ていたとは思わなかったのだ。

 特に魔族が何も考えも無く上陸するなど、命を捨てに行くようなモノだった。

 それ程、その時のバレリア大陸は魔族にとって危険な所だったのだ。


「しかし……よく生きていけましたね。この土地で」


 呆れた様子のクリスがそう告げると、ルーイットは「そうだね」と自分でも不思議だよ、と言う様に呟いた。

 二人のやり取りに、不思議そうな目を向ける冬華は、腕を組むと小さくうなり声を上げた。


「どうかしましたか?」


 それにいち早く気付いたクリスがそう尋ねる。

 すると、冬華はクリスの方へと顔を向け、訝しげに口を開いた。


「上陸してからまだ誰とも会わないけど……本当に平和になったのかな?」

「……の、はずだよ?」


 冬華の疑問に、皆の視線がルーイットへと集まった。

 その為、ルーイットはそう答えるしかなかった。

 実際、あの後、大陸を見て回っていない為、どう言う事になったのかはルーイット自身分っていないのだ。


「まぁ、たまたま人が居ない時間帯なのかもしれませんよ」


と、ティオがルーイットをフォローする。

 しかし、クリスもそれを疑問を抱いたのか、小さく首を傾げる。


「確かに、たまたま人が居ない時間なのかもしれないが……幾らなんでも人の姿すら見えないのはおかしいだろ? この周辺にも幾つか集落があるんだからな」


 バレリア大陸の出身と言うだけあり、クリスはこの辺りの地理には詳しい。

 どの辺りに町や村、集落があるのか、と言うのはおおよそ把握していた。

 だが、そのクリスの発言に、ルーイットは疑問を抱いた。


「えっ? でも、この辺りって……殆ど町なんてなかったよ?」

「なっ! そ、そんなはず――」

「それだけの町や集落が消されていったと、言う事なんでしょう」


 驚くクリスに対し、ティオは複雑そうな表情で呟いた。

 その言葉にクリスは奥歯を噛み締め、俯いた。

 確かに、クリスがこの大陸を出て何年も経っていた。

 だから、町が一つや二つ無くなっていたり、土地が変っていたりしているのは当然だ。

 しかし、この大陸で町が一つ二つ無くなったと言う事は、それだけ多くの人の命が失われたと言う事に繋がるのだ。

 悔しげな表情を浮かべるクリスに、冬華は申し訳なさそうに呟く。


「な、何か、ごめんね。変な事……言って」

「いえ……冬華は何も悪くないですよ]


 苦笑しクリスがそう言うと、冬華も申し訳なさそうに笑った。

 二人のぎこちないそのやり取りに、ティオは空を見上げ、陽の傾き具合を確認する。

 そして、鼻から静かに息を吐き、


「それなら、確認の為にも一度町に行って見ませんか? そろそろ、宿も探さなければなりませんし」

「そ、そうだね、そうだね! 実は私、この辺りの町には入った事無いんだよ! あの時は、色々あったし……」


 当時の事を思い出し、ルーイットは目を細める。

 思い返せば、バレリアではほぼ野宿だった。

 行った町も魔族の町だけだった。

 人の居る町など踏み入れる事すらできなかったのだ。

 嬉しそうに獣耳を立てるルーイットに、クリスも幾分か気持ちが和らいだ。


「でも、どうしよっか? クリスが居た頃とは大分変っちゃってるみたいだし……」

「とりあえず、私の知っている町に行ってみましょう。無くなってるにしても、建物位は残っているかもしれませんし……」

「そうだね。流石に野ざらしは嫌だもんね」


 胸の前で両拳を握り、真剣な顔で何度も頭を縦に振る冬華に、ルーイットも賛同する。


「うん。そうだよ! 夜は冷えるからね!」

「だよね、だよね! それに、虫が――」

「うんうん! 分かる、分かるよ!」


 冬華とルーイットの二人が妙な所で意気投合していた。

 手を握り合いキャッキャキャッキャする二人に、クリスとティオはただ苦笑していた。

 それから、四人は近くにあるだろう町へと向かい歩き出す。

 道は荒れとても人が行き来している気配は無く、クリスの表情は険しくなる。

 冬華もその状態に眉間にシワを寄せる。

 しかし、紺色の長い髪を揺らすルーイットだけは、辺りを警戒するようにキョロキョロとしていた。

 最後尾を進むティオは、そんなルーイットの行動に疑問を抱き、小さく首を傾げ、同じように辺りを見回した。

 特に変った様子など無い、草木に覆われた細道。

 何かがあるとは思えなかった。

 だが、次の瞬間、ルーイットの獣耳がピクッと動き、動きを止め叫ぶ。


「皆、止まって!」


 ルーイットの声に、クリスは地面に下そうとしていた右足を止め、冬華もピタリと動きを止めた。

 辺りは静まり返り、木々の葉を風が優しく揺らし、ザワザワと葉が擦れ合う音だけが響き渡る。

 その音に混じり複数の足音がルーイットにははっきりと聞こえていた。

 瞳を激しく動かし、足音を数える。


(七……八……ううん。もっと居る……)


 獣耳がピクッピクッと激しく動き、更に声を上げる。


「皆伏せて!」


 その声に冬華がまず頭を抱えしゃがみ込み、遅れてクリス、ティオと続く。

 その瞬間、飛び交う炎の玉に矢。

 そして、あたりは炎に包まれた。


「な、何! 一体!」


 頭を抱え蹲る冬華がそう叫ぶ。

 訝しげな表情を浮かべるクリスは、このままではいけないと、すぐに決断する。


「冬華! 戻りましょう! このままでは――」

「グランド――」

「皆さん! 今すぐ私の後ろに――」


 ティオが叫ぶが、間に合わず、何処からとも無く声が響く。


「――スマッシュ!」


 大地を打ち付ける激しい衝撃が、地響きを起こし大地を激しく揺らした。

 それにより、草木も大きくうねりを上げ、四人はその場から身動きがとれなくなった。


「くっ! 冬華!」


 クリスが叫ぶ。


「ライトニング!」


 だが、その声をかき消すように声が轟き、空を暗雲が覆い青白い瞬きと共に、幾重にも重なる落雷が、冬華達四人を襲った。

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