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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
バレリア大陸編
164/300

第164話 魔族は嫌い?

「バレリア大陸! じょうりーく!」


 冬華は両腕を振り上げ、明るく元気の良い声を響かせた。

 アレから二日ほどが過ぎ、結局冬華たちは不法入国をする事にしたのだ。

 手ごきの小型船でバレリア大陸の大半を占める砂浜へと無事に上陸していた。

 上陸したのは冬華、クリス、ティオ、ルーイット、ジェス、アースの六人だけ。

 小型船の中で横たわるジェスは荒々しい呼吸を繰り返し、クリス、ティオ、ルーイットの三人は砂浜へと足跡を残していた。


「大丈夫ですか?」


 呼吸を荒げるジェスへと、アースはそう声を掛けた。

 今回の罰としてジェスが船を漕いでここまでやってきたのだ。

 胸を上下に揺らすジェスの額から溢れる大量の汗が、その辛さを物語っていた。

 そんなジェスを放置に、冬華達は歩みを進める。


「それで、クリスの故郷ってどの辺?」


 肩口で黒髪を揺らす冬華が、弾んだ声でそう尋ねる。

 すると、クリスは白銀の髪を耳へと掛け、小さく首を傾げた。


「そうですね……。南東の辺りなので……ここから東に行った場所ですかね?」


 疑問詞で返すクリスに、冬華は訝しげな表情を浮かべた。

 不思議そうな表情の冬華に、クリスは苦笑する。


「す、すみません……。何分、久しぶりなのもで……」

「そ、そっか……」


 申し訳なさそうなクリスに、冬華は困った様にそう答えた。

 一方、ルーイットは懐かしげに辺りを見回し、大きく息を吐き出した。


「はうぅっ……まさか、こんなにも早く戻ってくるとは……」


 目を細め、ルーイットは肩を落とした。

 そんなルーイットへとティオは歩み寄る。


「どうかしましたか?」

「うーん……ほら、私、元々この大陸からフィンク大陸に向かったから……」

「そうでしたか、なら、知り合いもいるのでは?」


 ティオの言葉にルーイットは嬉しそうに微笑み、「うん」と頷いた。

 ルーイットの笑みに思わず笑みを零すティオは、鼻から静かに息を吐いた。

 ようやく、ジェスの呼吸も整い、皆が砂浜に円を描く様に佇む。


「さて、これから、お前らはどうするんだ?」


 ジェスが冬華達を見据え尋ねる。


「私達は、クリスの故郷に行って、墓参りかな? その後の事は野となれ山となれ、流れに身を任せていこうかと」


 冬華のその言葉に、ジェスとアースは苦笑する。

 結局、行き当たりばったり、計画などないのだと分かったからだ。

 呆れる二人に対し、冬華は腰に手をあて頬を膨らせる。


「今、無計画とか思ったでしょ!」

「いやいや。そんな事思ってないよ。な、アース!」

「え、えぇ……自分はそう言う風には思ってないです」

「自分は? じゃあ、ジェスはそう言う風に思ってたって事?」


 愛らしく冬華が小首を傾げ尋ねると、アースは困った表情を浮かべる。

 冬華のその顔があまりにも可愛く、流石のアースも心が折れた。


「そ、そうかもしれません……」

「お、おい!」


 アースの言葉にジェスは焦り声をあげるが、向けられた冷ややかな視線に、その動きは止まった。

 ムスーッと頬を膨らす冬華が、ジト目を向けていたのだ。

 そんな冬華の姿に、ジェスは深くため息を吐き、肩を落とす。


「ああ。悪かったよ。無計画だって思ったよ。これでいいか?」

「私を無計画だって言うジェスは、ここで何をするつもりなのかな? ジェスの計画を聞かせて欲しいなぁー」


 今までの仕返しと言わんばかりに冬華が声を上げる。

 ジェスも特に予定があってバレリアに来たわけじゃない為、冬華のその言葉にうろたえ、表情を引きつらせていた。

 クリス、ティオ、ルーイットの三人の視線がジェスへと集まり、アースも半笑いでジェスへと視線を送る。

 皆の視線が集まる中で、ジェスは深く息を吐き出し、肩を落とした。


「悪かったよ……俺らもそんな計画はねぇーよ。もうこれでいいだろ?」

「自分も計画性ないのに、人の事を言うのはどうかと思うよ?」

「だーっ! もう謝ったろ! 勘弁してくれよ!」


 ジェスが真紅の髪を掻き毟り、そう声を上げた。

 苦笑するアースは、深いため息を吐いた。

 自らのギルドのマスターのこんな姿は見るに堪えなかった。


「それで、これからそっちはどうするんだ?」


 赤い衣服に身を包むクリスが、腕を組み改めてそう尋ねる。

 その問いかけに僅かに右の眉をビクッと動かしたジェスは、奥歯を噛み締め表情を歪めた。


「い、今のやり取りを聞いてなかったのか? 計画はねぇーよ! これ以上、俺を辱めるな!」


 怒鳴り声を上げるジェスに対し、クリスは鼻から息を吐き出す。

 そして、落ち着いた面持ちでいつも通りの冷ややかな眼差しをジェスへと向ける。


「お前が目的も無くこんな場所に来るわけ無いだろ? 何が目的だ?」


 淡々としたクリスの言葉に、ジェスはこれは逃れられないと観念したのか、もう一度深く息を吐くと一層大きく肩を落とした。


「分かった! 本当の事を言う! だから、そんな目で睨むな! 惚れちゃうだろ?」

「…………」


 ジェスの渾身のギャグに対し、その場は白けた。

 重く長く感じる沈黙が漂い、皆の蔑むような眼差しが胸に突き刺さる。

 ジェスの心はすでに折れていた。

 もう立ち直れない程に。

 そんなジェスを無視し、クリスはアースへと目を向け、ジェスに投げ掛けた問いをもう一度アースへとする。


「それで、何しにここに来たんだ? アース」

「えっ、あぁ……。まぁ、実際、目的は無いんですが……」


 明らかにアースの目が泳いだ。

 その為、今の発言が嘘だとクリスはすぐに見抜き、強い眼差しをアースへと向けた。

 ジェスが作り出した重い空気が、クリスのその眼差しの強さを増幅させ、アースはついに口を開いた。


「す、すみません……。実は、今回はあるギルドからの依頼を請け負って――」

「アース!」


 そこで、ジェスが怒鳴った。

 ギルドマスターとして、これ以上情報をギルドのメンバー以外の者に漏らすわけにはいかなかった。

 ギルドは信用が第一。

 故に、依頼人からの依頼をよそ者にぺらぺらと喋ってはいけないのだ。

 それをクリスも重々理解していた為、深く頭を下げた。


「すまん。ギルドの依頼だったのか」

「ああ。だから、これ以上聞くな」

「そっか、じゃあ、こっからは別行動になるんだね?」


 一瞬、雰囲気が悪くなるかと思った瞬間を見計らった様に冬華が明るく弾んだ声でそう口にした。

 それにより、雰囲気は崩れる事無く、会話が続く。


「ああ。そうなるな。まぁ、もしまた何か縁が会う事になるだろうな」

「私としてはあんまり会いたくないけどな」


 クリスがジト目を向ける。

 正直、ジェスと関わるとロクな事がなかった。

 今までの事を思い出し、クリスは深々と息を吐いた。


「じゃあ、二人も気をつけてね!」


 冬華は軽く二人に右手を振り、歩き出す。

 それに遅れ、クリス・ティオ・ルーイットと続いた。

 遠ざかる四人の背を見据え、ジェスは目を細める。


「よかったんですか? 依頼の事……」

「ああ。冬華達はギルドのメンバーじゃないんだ。巻き込めないだろ?」

「そう……ですか? 大分、巻き込んでる気もしないでも無いですけど……」


 ジェスの言葉に、アースは半ば呆れ気味にそう言った。



 砂浜に残った足跡が波によりついては消えていく。

 ピチャピチャと波打ち際を素足で歩く冬華は両手に靴を持ち楽しげに笑みを浮かべていた。

 久しぶりに砂浜を歩く感覚に少しだけ浮かれていた。

 そんな冬華の姿にクリスも自然と口元に笑みを浮かべる。

 そんな折だった。

 唐突に、ルーイットがクリスへと疑問を投げ掛けたのは。


「あのさぁ、クリスはこの大陸の出身なんだよね?」

「ああ。そうだが?」


 腕を組むクリスが、突然のルーイットの言葉に顔を向ける。

 紺色の獣耳をションボリと閉じるルーイットはとても言い辛そうに俯いていた。

 そんなルーイットに小さく首を傾げるクリスは、眉間にシワを寄せると静かに足を止める。


「何だ? 私に聞きたい事でもあるのか?」


 クリスの声に前を歩いていた冬華も足を止め、振り返った。


「どうかした?」

「ああ、ルーイットがクリスに聞きたい事があるみたいでして……」


 状況の分っていない冬華へとティオがそう説明する。

 その説明に冬華は「そうなの?」とルーイットへと視線を向けた。

 二人の視線を浴び、ルーイットは小さく頷くと、意を決した様に口を開いた。


「クリスは、やっぱり魔族の事嫌いなのかな? この大陸じゃ、魔族に対する嫌悪が酷かったし……私が以前来た時はまだ魔族と人間が激しく争ってたから……」


 ルーイットの問いにクリスの表情が一瞬曇った。

 そして、暫しの沈黙の後、クリスは静かに告げる。


「ああ。嫌っていた……。いや、もしかすると、今も心の奥底で嫌っているのかも知れない。だが、私も理解しているつもりだ。魔族にも良い奴、悪い奴がいると言う事は……」


 複雑そうな表情のクリスに、ルーイットは「そうなんだ……」と呟き、胸の前で指をイジイジとしていた。

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