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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
フィンク大陸編
158/300

第158話 鬱憤

 半月程が過ぎ、冬華達は港まであと数キロ程の町で休息をとっていた。

 この国の出身であるティオが港町までの近道を知っていた為、半月でここまで辿り着く事が出来た。

 大幅に時間は短縮出来た為、金銭的にも大分余裕があった。

 その為、三人は少々高めの宿の一室で休んでいた。

 久しぶりのフカフカのベッドに埋まる様にうつ伏せに倒れる冬華はピクリとも動かない。

 一方で椅子に腰掛けるクリスは腕を組み地図を見据えていた。

 港までのルートを考えていたのだ。

 資金には大分余裕があるが、果たして船が出るだろうか、と言う悩みもあった。

 元々、こちら側は魔族の土地。

 故に人間である自分達を乗せてくれると言うモノ好きな魔族が居るかどうかと言う事だった。

 そして、龍魔族のティオはソファーに座り込み武器の手入れをしていた。

 綺麗に磨き上げられた盾と剣。

 それらをテーブルへと置き、丹念に。

 無言の時だけが過ぎる。

 誰一人として口を開かず、ただ静かな時だけが流れていた。

 その空気にベッドに埋まっていた冬華の肩がワナワナと震え出し、やがてガバッと起き上がり、声を張り上げる。


「ぬあぁぁぁぁっ!」


 全ての鬱憤を発散するかの如く轟いた冬華の怒声に、クリスもティオも驚いた表情を向ける。

 当然だ。

 何の前触れも無くそんな声を上げられたら、誰でも驚く。

 ティオにいたっては思わず手に持っていた鉄の棒を床に落としてしまっていた。

 呆然とするクリスとティオに対し、立ち上がった冬華は声を上げる。


「静か過ぎ! もっと明るく、盛り上がろうよ!」


 高らかと響く冬華の言葉に、クリスとティオは怪訝そうな表情を浮かべた。

 ここまで来るまでずっと冬華は不満に思っていた。

 この二人は基本的に喋らない。

 その為、会話が無く、冬華にとっては苦痛だった。

 いつもならシオが居て、何かあると話を掛けてくれていた。

 些細な事でも、話を膨らませ楽しい会話をしていた。

 だが、クリスもティオも基本的に考え事をすると自分の世界へと入ってしまい、殆ど会話など無い。

 特に宿に居る時は完全に自分の世界に閉じこもる為、冬華も話掛け辛いし、正直宿に居る時間が一番辛かった。

 それも我慢の限界で、冬華は両腕を激しく振り、叫ぶ。


「もっと会話しようよ! 話そうよ! 何で、そう無言で平気なのよ!」


 声を荒げる冬華に、クリスは苦笑する。


「む、無言で平気と言われても……元々、私はそう言う人間ですし……」

「私も、基本的にお喋りは苦手で……」


 ティオも困り顔で頬を掻いた。

 そんな二人の反応に冬華は頬を膨らし、両腕を振り上げる。


「何でそうなのよ! 息苦しくない? 誰かと話したいとか、愚痴りたいとか思わない?」

「え、えっと……私は男ですから、特にその様な事は……」


 ティオはそう言いクリスへと視線を向ける。

 完全に冬華の事は女性であるクリスに任せる。そう言う魂胆だった。

 見え透いた魂胆に、クリスは一瞬不快そうな表情を見せたが、すぐに冬華へと微笑する。


「た、たまにはそう言うのもいいかもしれないですね……」

「でしょ、でしょ? 無言で歩いて、無言で休んで……こんなんじゃ一緒に居る意味無いでしょ? もっとお互いの距離を近づける為にも話すべきじゃないかな?」


 力説し、目を輝かせる冬華に対し、クリスは目を細め深くため息を吐いた。

 今まで知らなかった。

 シオがどれだけ冬華の話し相手になり、どれだけ冬華のストレスを解消していたのかと言う事を。

 そして、改めて思う。

 シオが居なくなった事の大きな痛手を。

 困った様子のクリスに、ティオは深くため息を吐いた。


「分りました! では、私が!」

「えっ? ティオが何かしてくれるの?」


 冬華は目を輝かせる。

 そんな冬華の視線に、ティオは一度咳払いをすると、立ち上がり静かに口を開く。


「隣りの家に囲いが出来たんだって……カッコいい!」

「…………へぇー」


 僅かな沈黙の後に、冬華はジト目をティオへと向けそう呟いた。

 そして、拳を振り上げ怒鳴る。


「って、それは小話だよ! しかも、全然面白くない!」

「はうっ!」


 面白くないの一言がティオの胸を抉る。


「お、面白くない……面白くない……」


 胸を押さえその場に倒れこむティオはショックのあまりそうブツブツと呟いていた。

 凹むティオを横目にクリスは苦笑し、


「え、えっと……」


と、言いよどむ。

 そして、また沈黙。

 故に、冬華は拳を震わせ、


「ぬわあああああっ!」


と、大声を上げた。

 それから、黒髪を掻き毟る。


「こういう古典的なことじゃなくて、もっと話す事あるんじゃないかな?」

「話す事と言われましても……」


 戸惑い気味のクリスに対し、訴える様に両腕を動かす冬華は、力説する。


「なんていうのかなぁ、もっと他愛も無い話でいいんだよぉ。こう、世間話的な……」

「真っ白な犬は――」

「尾も白いって、全然面白くないから!」


 立ち直ろうと口ずさんだティオの言葉に、オチなど言わせず冬華が突っ込みを入れた。

 そのキレのある突っ込みにティオは再び床へと平伏し、ズーンと重い空気を漂わせた。

 よっぽどストレスが溜まっていたのだろう。

 いつもよりも数段口調は厳しい。

 ここは下手に逆らわない方がいいだろうと、クリスは吐息を漏らした。


「じゃあ、冬華は一体どんな話がしたいんですか?」


 上手く冬華自身に話題を振る。

 これが一番無難だとクリスは考えたのだ。

 クリスの言葉に冬華は腕を組み首を傾げる。


「うーん……そうだねぇー……。じゃあ、今日の夕飯、どうしようか?」

「へっ?」


 あまりにも普通の冬華の言葉にクリスは思わずそんな声を上げた。

 こんな事でいいのか、と思うティオは床に手を付いたままただただ苦笑する。

 あからさまな空気の変化に冬華はキョトンとした表情を二人に向けた。


「どうかした?」

「い、いえ……そんな話でいいんですか?」

「そんな話って……重大な事じゃない? 夕飯の事は」


 腰に手をあてムフンと息を吐く冬華に対し、クリスは目を細め困った様に鼻から息を吐き出した。

 まさかこんな話題でいいなどとは全く思っていなかった。

 と、言うよりシオとはいつもこんな他愛も無い事を話していたのか、と思うと、自分は今まで何をしていたんだろうと、正直凹んでいた。

 そして、改めて自分が人とは感性が違うのだと思い知らされた。

 それはティオも一緒で、城暮らしが長かった所為だろうと、二人は思っていた。

 暫く待ったが、夕食についての答えが無い為、冬華は眉間にシワを寄せる。


「もう……二人はさぁ、夕飯に興味ないの? 食べる事は生き物にとって楽しみの一つなんだよ?」


 眉を八の字に曲げ困り顔でそう説教する冬華に、クリスは「そういわれましても……」と頬を右手で掻いた。

 食に対しそこまで重点を置いていない為、どうにも冬華とクリスの間には大きな温度差があり、冬華もそれを悟ったのか、呆れた様に息を吐き、


「もう……人は食べてる時が一番幸せな顔をするんだって、何処かのエライ人が言ってたよ?」


と、腰に手をあて心配そうに告げた。

 しかし、そう言われてもクリスにはやはりピンと来ず、聊か困った表情を終始続けていた。

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