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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
フィンク大陸編
154/300

第154話 男のロマン

 冬華とコーガイの手合わせは夕刻まで続いた。

 途中、休憩を挟んだが、朝から夕方まで長く動きまわっていた冬華は流石に疲労の色が見えていた。

 一方、コーガイは額から汗を滲ませる程度だった。

 それだけ鍛え方が違うのだ。

 体中が悲鳴を上げる様にズキズキと痛む冬華はその疲れを癒す様に大浴場で湯に浸かっていた。

 冬華が大浴場で疲れを癒している間、アオ達は今後について話を進めていた。


「さて、コーガイもライも戻ってきた所で、話を進めようか」

「今後についてだろ? リーダー」


 厚手のコートに身を包むライが、茶色の髪の毛先を右手で摘みそう呟く。

 少々面倒臭そうなライに対し、苦笑するアオは、右手で短い黒髪を掻き揚げ、左手を腰に当てる。


「おいおい。もう少しやる気を出せよ?」


 アオの言葉に対し、ライは深く息を吐き背筋を伸ばした。

 ここ数日、ライはアオに命じられクリスの監視を行っていた。

 その為、少々ストレスが溜まっているのだ。

 それを知っている為、レオナは何も言わず静かに椅子に腰掛けていた。

 タオルで汗を拭うコーガイは相変わらず強面の表情を崩さず、沈黙を守り、部屋は大分重苦しい空気が漂っていた。

 そんな中で一人気を吐くアオは、両手を腰に当てると気合をいれ、再度口を開く。


「とりあえず、今後について話し合おうか?」


 アオの言葉にレオナが控えめに挙手する。


「おうっ? どうした? レオナ?」

「今後についてって……私達は連盟に戻るんでしょ? 今更何を話し合うのよ?」


 レオナが首を傾げ、そう尋ねる。

 そう現在、アオ達には連盟から帰還命令が出されている。

 その為、この後四人は連盟に戻らなければならないのだ。

 話し合う余地など無いのだ。

 当然のレオナの質問に、アオは腕を組み鼻から息を吐く。


「まぁ、そうなんだけどさ……」


 複雑そうな表情を浮かべる。

 アオの気持ちは分かる。

 今、冬華とクリスを二人だけにするのは危険だと、危惧しているのだ。

 二人共自分の事で手一杯だし、相手の事を考えている余裕など無い様に見える。

 だから、誰かが付いていなければならないと、考えていた。

 しかし、アオはパーティーのリーダーとして連盟に確実に戻らなければならない。

 レオナは恐らくあの二人についていても足を引っ張るだけ、傷の癒えていないライも除外される。

 そして、コーガイ。彼は問題外だ。実力は十分だが、無口な為二人の支えにはならないだろう。

 頭を悩ますアオは腕を組んだまま唸り声を上げる。

 どれだけ考えても良い組み合わせが浮かばなかった。

 深く悩み込むアオの姿に、ライは大きく息を吐きレオナと顔を見合わせる。

 レオナは肩を竦ませると、小さく首を振り、ライはその行動にもう一度深く息を吐いた。


「分かった! 分かったって! ちゃんと考えるから!」

「おおっ! そうか! じゃあ、話そうか?」


 わざとらしくそう口にするアオに、ライは茶色の髪を掻き毟り、脱力する。

 その様子にレオナも呆れた様に息を吐き、アオへと目を向けた。


「とりあえず、アオが戻る事は決定事項でしょ?」

「ああ、そうだな」

「じゃあ、リーダー以外の三人が残ればいいんじゃない? そうすれば丸く収まるだろ?」


 ライがそう口にすると、「なっ!」とアオは声を上げる。

 そして、青ざめた顔で大きく首を左右へと振った。


「ば、バカか! あんな所に一人で行かせる気か! 俺がおかしくなるわ!」

「いいじゃない。もうすでにおかしいんだし」


 肩を竦めレオナがそう言うと、アオは額に青筋を浮かべ怒鳴る。


「ふざけんな! 俺らパーティーだろ? 仲間だろ!」

「いやいや。仲間の為に一人犠牲になるのがリーダーの務めだろ?」

「そうね。リーダーなんだし、仲間の為に頑張って!」


 ライとレオナがそう言うとアオは助けを求める様にコーガイへと顔を向ける。

 だが、コーガイは我関せずと、背を向けていた。

 唖然とするアオは、涙目で三人を見回す。


「お前ら……なんて冷たいんだ……」


 肩を落としそう呟いたアオに対し、レオナとライは大きくため息を吐いた。


「分かった。とりあえず、レオナと二人で行けばいいだろ?」

「はぁ! そこは、あんたとアオで行きなさいよ!」


 レオナがライへと人差し指をビシッと向け怒鳴る。

 壮絶な二人の攻防の最中、コーガイは窓の外を見据え、静かに息を吐いた。


(どんだけ、連盟に戻りたくないんだ……)


 密かにそんな事を考えながらも、コーガイも連盟に戻るのはごめんだと、口は噤んだままだった。

 それから数分後、二人の壮絶ななすりつけ合いはようやく終止符を打った。


「はぁ……今回は俺が一緒に戻る……正直、気が重いけど……」


 ライが大きなため息を交えそう呟いた。

 重傷患者を残してもしょうがないと、言う答えに行き着いたのだ。

 気分が落ち込んでいるのか、その目はくすんでいた。

 そして、アオは安堵したように胸を撫で下ろす。


「いやー。一人じゃあの場所心細いもんなー」


 アオが満面の笑みでそう言うとライはジト目を向ける。


「心細いとかそう言う問題じゃないと思うけどな」


 ライがそう呟くが、アオは全く気にしない。

 その為、ライの口から漏れるのはため息だけだった。

 苦笑するレオナは、そんなライの肩を右手で叩き、


「ガンバ。きっと良い事あるわよ」


と、満面の笑みを向ける。

 すると、ライは


「良い事なんてねぇーよ」


と、即答しジト目を向けた。

 そんな折、コーガイは思い出した様に、


「そう言えば、冬華が風呂に行ったぞ」


と、ボソリと呟いた。

 その瞬間、キランとライの目が輝いた。

 そして、レオナは呆れた様な眼差しをコーガイへと向け、


「また、よけーな事を……」


と、呟いた。

 しかし、コーガイは何事もなかったように無表情でタオルで汗を拭いていた。

 そして、コーガイより得た情報に屈伸運動を開始するライは気合をいれる様に両手で顔を叩いた。


「よしっ!」

「よしじゃない! 覗きは最低よ!」

「ふっ……覗きは男のロマンだ! いっくぞーっ!」


 そう叫び、ライは部屋を飛び出す。

 ハンターとしての能力を最大限に活かし、足音を完全に消したライの無駄な能力の高さにレオナは右手で額を押さえ大きくため息を吐いた。


「全く……何が男のロマンよ……ねっ、アオ……って、アレ? アオは?」


 先ほどまで部屋にいたはずのアオの姿が無く、レオナは驚き部屋の隅々を見回す。

 しかし、やはりアオの姿は無い。

 その為、ただ一人部屋に残るコーガイへとジト目を向ける。

 レオナの視線に気付いたのか、コーガイはゆっくりとレオナの方を見た。


「もしかして、アオも?」

「ああ。ライに続いて出て行った」

「全く……何考えてんのよ……」


 心の底から吐き出したため息。そして、これでもかと肩を落とし、レオナは椅子に座り込んでしまった。

 流石に、呆れるしかなかった。

 自分のリーダーが、女湯を覗きにいったなどと、考えたくもなかった。

 と、そんな時だった。

 部屋の扉が開かれたのは。

 そして、声が響く。


「ねぇ、さっきアオとライが部屋を飛び出して行ったけど、何かあったの?」


と、頭にタオルを巻いた冬華ののんびりとした声が。

 湯上りの為、体からはまだ湯気が昇っており、頬は紅潮する冬華の姿にレオナは驚き目を丸くし、コーガイも聊か驚いた様に眉間にシワを寄せる。

 二人の眼差しにキョトンとした表情を浮かべる冬華は首を傾げ、


「何? どうかした?」


と、尋ねた。

 その直後だった。何処か遠くの方で二人の男の悲鳴が聞こえたのは。

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