表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
フィンク大陸編
148/300

第148話 その後……

 雪原の中を、冬華は駆けていた。

 あの小柄な少女は大丈夫だろうか。

 ヴェリリースは――、他の皆は――。

 浅く荒々しい呼吸を繰り返す冬華はそんな事を考えていた。

 どうすればいいのか、本当にこのまま逃げていいのか、など、様々な考えが頭を巡る。

 それでも足は止まらない。

 後ろから迫る不気味な気配に、立ち止まってはいけないと、冬華に告げていた。

 白い息を吐き出し、ひたすら走り続ける冬華は不意に足を止める。

 凄まじい魔力を感じ、静かに振り返る。

 その視界に飛び込む。

 空を覆う紅蓮の玉が――。

 熱気に冬華は思わず後退り、息を呑み込んだ。

 その紅蓮の玉はゆっくりと地上へと落ちていく。

 何が行われているのかわからないが、このままでは危険だと、冬華は再び走り出す。

 地響きがおき、衝撃が背後から迫る。

 木々がへし折れる嫌な音があちこちから響き渡り、やがて冬華を大量の雪が呑み込んだ。



 それから、どれ位の時が過ぎたのか、冬華はベッドの上で目を覚ました。

 フカフカの布団をかぶされ、暖かな空気が漂う広々とした一室。

 高級そうな骨董品や絵画が飾られたその部屋はまるで王室の様だった。

 体を起こしベッドの上で呆然とする冬華は、小首を傾げる。

 記憶を辿っていた。

 どうして、こんな場所で寝ているのか、あの後どうなったのか、様々な記憶を辿るが答えは出ず複雑そうに眉間にシワを寄せる。


「うーん……」


 右手で眉間を押さえ唸り声を上げるが、決して記憶が戻ってくる事は無く、諦めた様に息を吐いた。

 と、その時、重々しく部屋の両開きの扉が開き、金色の長い髪を揺らすレオナが入ってきた。


「冬華、起きてる?」


 大人びたレオナの声が響き、冬華は慌ててベッドから立ち上がる。


「う、うん。起きてるよ!」


 肩口で黒髪を揺らす冬華は、立ち上がって初めて気付いた。

 自分が淡いブルーのシルクのパジャマを着ている事に。

 その瞬間に冬華は顔を赤くし、慌ただしく両腕を振った。


「な、なな、な、な、何で、何で!」


 取り乱す冬華に、レオナは苦笑し右手で金色の髪を耳へと掛け、大人びた落ち着いた表情を向ける。


「安心して。着替えさせたのは、私とクリスだから。雪に埋もれて、あのままじゃ流石に凍死しちゃうと思って」

「そ、そ、そうなんですか……」


 耳まで真っ赤にする冬華は俯きそう呟き、頭から湯気を噴かせていた。

 クスクスと笑ったレオナは、口元へと右手をあて安堵したように息を吐いた。


「でも、良かったわ。意識が戻って」

「えっ?」


 レオナの言葉に冬華は驚いたように声を上げると、レオナは困ったように眉を曲げる。


「実はもう一週間程寝てたのよ?」

「そ、そんなに?」

「えぇ。それに、色々あって……」


 複雑そうな表情を浮かべるレオナに冬華は小首を傾げた。


「色々って?」

「そうね……とりあえず、座って、体の様子を診ながら話はするから」


 レオナはそう言い、冬華をベッドの縁へと座らせた。

 それから、静かにあの後の事を語り出した。



 衝撃が収まり、雪煙が舞う。

 轟々と燃え続ける炎をレオナ達はただ見据えていた。

 何が起こったのか分からない。

 ただ、クリスが冬華の所に行かなくては、と、走り出し、その後に続いていた。

 その最中に突如、空を覆う紅蓮の炎。それが、地上へと落ち、ドーム状の炎を広げた。

 激しい地響きが起き、遅れて吹き荒れる衝撃が雪を吹き飛ばしながらその場に皆の体を襲ったのだ。

 コーガイの鉄壁による防衛で何とか一行に被害は無く、大量の雪が前方には積もっていた。


「な、何だ……一体……」


 アオが驚きの声を上げる。

 皆、何が起こったのか分かっていなかった。

 ただ、凄い衝撃が広がったと言う事と、目の前でドーム状の炎が燃え続けているのだけはハッキリと分かる。

 そんな中で、クリスが叫んだ。


「冬華! ま、まだ、あそこに冬華がいるかもしれない!」


 クリスは慌てて走り出す。積もった雪を掻き分け、炎のドームへと向かって。

 そんなクリスにライは叫ぶ。


「おい! アレ!」


 ライが指差す先に一本の槍が突き出していた。

 それはまさしく冬華の扱う槍だった。

 クリスはその槍を目視し、瞳孔を広げる。

 心音が強まり、クリスの足は次第に速くなった。

 そんなクリスの姿に、アオとレオナは顔を見合わせる。

 最悪の光景を脳裏に思い描き、レオナは小さく首を振った。


「助かる見込みは薄いわ……」


 そうレオナが呟いた。

 正直、助かるなどこの時誰も思っていなかった。

 そんな中、クリスは槍の前へと膝を落とし、その手で雪を掻き分ける。


「冬華! 冬華!」


 と、声を上げて。

 白銀の雪を掻き分けると、その手に触れる。柔らかなものに。

 そして、更に雪を掻き分けると見える。冬華の顔が。


「冬華! し、しっかりしてください!」


 クリスの叫び声に、顔を見合わせていたアオとレオナはクリスが冬華を見つけたのだと理解し、走り出す。

 まさか、見つかるとは思わなかった為、驚きを隠せなかった。

 だが、すぐにレオナは応急処置を取るために、両手に聖力を纏わせ叫ぶ。


「退いて! 治療を開始するから!」

「ライ!」

「分かってる!」


 アオの言葉にライは弓を構え、矢尻に炎を灯した矢を雪の中へと打ち込んだ。

 炎が広がり、周囲の雪が溶ける

 それに遅れ、アオは右手に雷撃をまとうと、クリスを下がらせた。


「レオナ!」

「ダメ! 脈が無いわ!」

「よし。じゃあ、下がれ、心臓を動かすぞ!」


 アオがそう言い、右手を冬華の胸へと下ろし、纏った雷撃をその体へと打ち込んだ。

 衝撃で冬華の体が跳ねる。

 しかし、脈は戻らず、二発、三発と雷撃を打ち込んだ。

 そこで、ようやく冬華の口から「がはっ」と声が漏れ、呼吸が蘇った。


「アオ! 下がって!」


 レオナが叫ぶと、アオはすぐにその場を離れる。

 それに遅れ、レオナが聖力を纏った両手を冬華の胸へと押し当てた。

 冬華の体を光が包み込み、体を癒していく。それから、冬華は一週間目を覚まさず今にいたる。



「て、わけ」


 脈を計り終えたレオナは肩をすくめた。

 その話を聞き終え、冬華は小さく首を傾げる。

 今の話の何処が大変だったんだろう、と疑問に思ったのだ。

 確かに、冬華は危険な状態だったかも知れないが、それがイコール大変だったと、言うにはレオナの話し始める時の表情とはつり合わない気がしたのだ。

 そんな不思議そうな冬華に、レオナは苦笑し、


「まぁ、大変だったのはその後よ」

「その後?」

「えぇ。何て言うか……うん。ちょっとシオが……ね」


 複雑そうな表情のレオナがそう静かに言うと、冬華は眉間にシワを寄せる。


「シオがどうかしたの?」

「うん。色々とね。取り乱して、結局、アオとライ、コーガイの三人で無理やり押さえ込んだけど……。あの体でよくまぁ、あんなに暴れたもんよ」


 呆れた様子のレオナに、冬華は首を傾げる。


「取り乱してって? どう言う……」


 その言葉にレオナは眉を曲げ、


「うん。探してる娘が亡くなって、その遺体も消えちゃったらしくて……」

「そ、そうなんだ……」

「それで、シオが暴れてね、アオもライもコーガイも重傷よ」

「そ、そう……なんだ……」


 苦笑し、冬華は目を細めた。

 何となく、その光景が容易に思い浮かび、深くため息を吐いた。

 そんな冬華に、レオナは静かに告げる。


「それと、つい先日だけど……シオがここを出たわ」

「えっ!」


 驚きの声をあげる冬華にレオナは眉間にシワを寄せた。


「何でも、その娘を殺した奴を追うとか、なんとか。今、何処にいるのかは不明だけど……」

「そ、そう……」


 冬華の肩が落ちる。

 また、一人仲間が、友達が傍を離れていった。そう思うと冬華は胸が苦しくなり、俯いたままただ唇を噛み締めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ