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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
フィンク大陸編
143/300

第143話 白銀の騎士団ケリオス

 火花が散り、金属音が響く。

 アオとケリオスによる近距離の攻防。

 両者ともに足を止め、激しく打ち合う。

 アオの剣が左右へと何度も往来し、ケリオスの左腕はその刃を何度も受け止める。

 どちらとも退く事無く、手を休める事も無い。

 分かっているのだ。退けば――手を休めれば――やられてしまうと。

 額から大粒の汗を零すアオの表情は険しい。

 彼是、数分間手を休めず剣を振り続けている。腕も重く、呼吸も苦しかった。

 一方で、ケリオスは涼しげな表情だった。

 アオと違い、ケリオスはただ左腕の手甲で剣を受け止めるだけ。故に、それ程体力を消耗していないのだ。

 そして、ケリオスはアオの連撃が僅かに勢いを失い出すと、右手に持った銃をアオへと向け発砲する。


「ぐっ!」


 乾いた破裂音に遅れ、鮮血が舞う。

 アオの右肩を弾丸が貫いた。それにより、その手に握っていた剣が手から投げ出され、大きく宙へと舞い上がった。

 投げ出された剣は遥か後方で地面に突き刺さり、アオの額には銃口が押し付けられる。


「終わりですね」

「くっ……」


 涼やかに微笑するケリオスだったが、すぐにその表情が険しく変り、アオから目が離れた。

 僅かに生まれたその隙にアオは左腕を外へと振り、ケリオスの右手を弾く。その瞬間、ケリオスの指が引き金を引き、破裂音が轟いた。


「なっ!」


 驚くケリオスに対し、アオは続けざまに右の掌をその顎へと突き出す。

 鋭く突き上げられたその掌底にケリオスはその背を限界まで伸ばし、体をそらした。


「くっ!」


 大きく伸びたアオの右腕。掌底は天を仰いだ。

 ギリギリでかわされた。あともう少し速ければ、あと少し距離が近ければ。

 そう思うが手遅れだった。

 千載一遇のチャンスを逃し、ケリオスには距離を取られた。

 表情を険しくするアオは、ゆっくりと立ち上がり息を吐き出す。体の熱さと裏腹に空気は非常に冷めていた。

 息を切らせるアオは、右腕で汗を拭い肩の力を抜く。

 明らかに疲労の見えるアオとは対照的に、ケリオスは息一つ乱さず、その視線を林の方へと向けていた。

 完全にアオ達など視線に入っていない。何か別のモノに注意を奪われていた。

 そんなケリオスにライが飛び出す。死角から上手く気配を絶ち現れたライは腰のナイフを抜き、その鋭い眼光をケリオスへと向ける。

 だが、直後、その視線の先に飛び込むのは、銃口。

 そして、火花が散るのが見え、弾丸が螺旋を描き発射される。

 反射的にライは右へと飛ぶ。弾丸はそのまま地面へと減り込み、ライは激しく雪原を転げた。


「くっ!」


 正直、ライは驚いていた。明らかに注意力は散漫なのに、あれ程まで隙だらけだと言うのに、全く敵を寄せ付けない。

 いや、その反応速度が異常だった。

 完全にライは気配を消し、死角から飛び込んだ。だが、一瞬、ライがナイフを抜くその音が聞こえたその瞬間に銃をライへと向けたのだ。

 そんなケリオスへと今度はコーガイが突っ込む。鎧の所為で動きは鈍い。だが、コーガイは構わずその手に握った槍を突き出した。

 すると、ケリオスは左腕を振り上げ、


「断絶!」


 と、声を上げると同時に、手刀で槍を縦に真っ二つに裂いた。

 しかし、コーガイはそこで止まらず、槍を手放し、左足を踏み込み右拳を振り上げる。

 その動きにケリオスも左拳を握り締めた。


「爆拳!」


 コーガイの振り下ろされる拳へと、ケリオスは腰を回転させ左拳を突き出した。

 二人の拳がぶつかり合うと、激しい爆発が起きる。

 その爆発でコーガイの分厚い手甲が砕け散り、その手は大きく弾かれた。


「ぐっ!」

「コーガイ!」


 アオが叫び走り出すと、ケリオスは威嚇する様に弾丸をアオの足元へと放った。

 それによりアオは動きを止め、ケリオスは静かに息を吐き出す。


「悪いけど、ここまでだ。君達との遊びは終わりだよ」


 真剣な口調でそう告げたケリオスは左手で空間を裂くと、そのまま姿を消した。

 呼吸を乱すアオ。

 膝を落とすライ。

 そして、焼け爛れた右腕を押さえるコーガイ。

 三対一と言う圧倒的に優位な状態に居ながら、結局、ケリオスに一発も攻撃を当てる事は出来なかった。

 そんな悲壮感漂う中、突如、レオナが悲鳴の様な声を上げる。


「キャッ! あ、アオ! と、冬華が!」


 突然のレオナの叫び声に、アオは我に返り振り向いた。


「ど、どうした? レオナ!」

「ちょ、ちょっと来て! と、冬華が!」

「冬華がどうしたんだ!」


 アオはそう怒鳴り走り出す。

 それに遅れ、ライもコーガイも冬華の下へと足を運ぶ。

 そこで見た光景に三人は驚愕する。


「な、何だよこれ……」


 目を丸くし、ライは瞳孔を広げる。


「これは……一体……」


 静かな口調だが、明らかに驚きを見せるコーガイ。


「どう言う事だ! レオナ! 冬華はどうしたんだ!」


 アオは声を荒げ、レオナへと目を向ける。

 だが、レオナも状況が分からずただ首を振る。


「分からないわよ! わ、私だって、突然こうなって、驚いてるんだから!」


 困惑気味にレオナは声を上げた。



 空間を裂き、場所を移動したケリオスは、周囲を木々に覆われた雪原へと姿を見せた。

 そこには異様な空気が漂っていた。

 雪原に横たわる血まみれの少女と一人の少年。

 そして、ケリオスを挟む様に対峙する国王ヴァルガと、大鎌を振りかざすキセルを銜えた女性。

 どう言う状況なのかを判断する為に、ケリオスは辺りを見回す。


「ディーク!」


 突然、女性が叫ぶ。その白髪混じりの黒髪を揺らして。


「はいっ!」


 その声に、ケリオスの背後でそう声が響く。

 ケリオスはその声の主を確認する為に振り返る。

 振り返ったケリオスの目にまず飛び込んだのは奇妙なクマのぬいぐるみだった。

 それは、隊を組んだ時もウロウロしていた不思議な物体で、先程ヴァルガと刃を交えていた者だとケリオスは記憶していた。

 何故、あんなぬいぐるみが動いているのかは謎だったが、気にせずその隣りに佇むみずぼらしい少年へと目を移した。


(何だ? アレは……)


 汚らしく伸びきった髪が目を覆う少年の姿に、ケリオスは眉間へとシワを寄せた。

 全く気配を感じない程、彼は気配を絶っていた。その為、彼が強者だとケリオスはすぐに気付いた。


「デューク。あの子はあんたに任せるよ」


 女性がそう伝えると、デュークと呼ばれた少年の表情は僅かに曇る。


「えっ? で、でも、師匠! 僕は戦闘禁止で……」

「解禁だよ。全力でおやり。自分がどれ位のレベルなのかを知る為にもね」


 デュークの言葉に間髪入れず女性はそう告げた。

 その声に、デュークの顔がパッと明るくなる。

 だが、ケリオスにはそんな表情は目に入らない。

 何故、戦闘を禁止されているのか、と、言う疑問を抱いたからだ。

 そして、その視線はゆっくりと女性へと向いた。彼女にケリオスは恐ろしい程の魔力の波動を感じ取った。


(これ程の魔力を持つ者が、存在しているのか……)


 眉をひそめるケリオスだが、直後爆音が轟きケリオスの目は自然とその音の方へと向く。

 直後、ケリオスの視界は遮られる。デュークの大きな手によって。

 何が起こったのか、自分がどう言う状態なのか理解する間もなく、ケリオスは後頭部を地面へと叩きつけられた。

 一瞬、意識が飛ぶ。その際、ヴァルガが「ケリオス」と自分の名前を呼んだのが聞こえた。

 その為、ケリオスはすぐに目を見開き、デュークの腹を足の裏で蹴り上げる。


「うぐっ!」


 僅かに声を漏らし、デュークの体が後方へと弾かれた。

 それにより、手から解放され、ケリオスの視界は良好となった。


「いきなりとは……どうも、しつけが足りないみたいですね……」


 ゆっくりと体を起こしたケリオスの頭から血が流れ出し、その顔を赤く染めた。

 一方、弾かれたデュークは口角を上げ楽しそうに笑みを浮かべる。


「全力……出しても……いい?」


 静かな声でそう言うディークに、ケリオスは眉間にシワを寄せた。


「本気で来いよ。私も本気で行く」

「本気……全力……」


 デュークは前屈みになり両手を地面へと着ける。

 両肩が震え、やがて異変が起きる。その腕が土を吸収し、みるみる膨れ上がっていた。


「な、何ですか? その腕は……」

「全力……全力……」


 ブツブツと呟くデュークが、自分の質問に答える気は無いと分かり、ケリオスは静かに息を吐いた。

 そして、真剣な眼差しを向け、同時に銃口を彼へと向ける。


「どうやら、答える気は無いみたいだね。なら、直接体に聞こうか」


 そう言い、引き金を引いた。

 乾いた銃声が数発轟き、弾丸が放たれる。

 しかし、デュークがその膨れ上がった左腕を振るうと、弾丸は吸い寄せられる様にその左腕へと吸い寄せられた。

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