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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
フィンク大陸編
142/300

第142話 雷火の欠点

 鮮血が迸り、アオは前方へと弾かれる。

 衣服は裂け、背中には大きく四つの爪痕が刻まれた。


「ぐっ!」


 表情を歪めるアオはそのまま前転し、すぐに体勢を整え反転する。

 そんなアオの額へと銃口が押し付けられる。

 冷たい鉄の感触が感じられ、アオは息を呑みケリオスの顔を見上げる。

 二人の視線が交錯し、流れる風に髪は揺れる。

 体を覆う雷撃が背中の傷に沁み、アオは度々表情を歪め、ケリオスはそれを知ってか口元へと薄ら笑みを浮かべた。


「キミの雷火には欠点がある」


 引き金に指を掛けたままケリオスはそう言う。

 この状況では、ライもコーガイも動く事が出来なかった。

 その為、ただ銃口を額に押し付けられるアオを見守るしかなかった。

 息を呑むアオは、目を一度伏せると、静かに笑う。


「欠点? それって、小回りが利かないって事か?」


 アオがそう告げると、ケリオスは少々驚いた表情を浮かべた。

 アオだってバカじゃない。自分の編み出した技の効果も欠点も知り尽くしている。

 雷火は身体能力を向上させる。いや、身体能力を向上させると言うよりも、瞬発力と反射速度を向上。

 故に瞬間的な上半身の身のこなしや、直線的な移動速度は格段に上がっている。

 しかし、体を捻るなど、突発的に進路を変更するなどと言う動きには反応が遅れる。

 その為、背後に回られると、アオの反応速度は大幅に減少し、今の様に一撃浴びてしまうのだ。


「それを分かっていて使用していると言う事は、それを補う考えでもあるんですか?」


 ケリオスが穏やかな笑みを浮かべ尋ねる。

 正直、こんな相手と戦う為に開発した技じゃない為、対抗できる策などない。

 それに、アオにとってこの技の欠点はパーティーでの連携で今までカバーしてきた。故に、アオはこの技はこれ以上無い最強で最高の技だと自負している。

 俯き、静かに息を吐き出すアオは、肩の力を抜いた。それにより、体を包む青白い輝きが消滅する。


「おや? 諦めて、死を覚悟しましたか?」


 アオの突然の行動に驚き目を丸くするケリオスが、そう尋ねる。

 だが、そんなケリオスにアオは静かに笑った。そして、静かに顔を上げる。


「なぁ、知ってるか? 人は一人では不完全なんだ。だから、仲間が傍にいるんだ」

「…………突然、何ですか? 意味不明ですね」


 肩を竦めるケリオスだが、ライとコーガイはその言葉の意味を瞬時に理解する。

 そして、動き出す。


「グランドスマッシュ」


 持っていた盾の先でコーガイは地面を叩く。

 その瞬間に大地は揺れ、衝撃が地面をうならせる。

 突然の事に、立っていたケリオスは大きくバランスを崩す。


「くっ!」


 ケリオスの表情が僅かに歪み、視線がアオから外れる。

 その瞬間、アオも行動を起こす。


“空間転移”


 大量の精神力が弾け、アオの姿がケリオスの目の前から消滅する。

 一瞬、空間転移をすると分かったケリオスが引き金を引いたが、弾丸は無情にも地面へと減り込んだ。

 土煙が舞い上がり、ケリオスの表情が更に歪む。

 直後だった。後方でライの叫び声が聞こえる。


「くらえ! 爆陣烈波!」


 コーガイが盾を地面へと突き立てたと同時に跳躍していたライは、その手に弓を取り出すと、数本の矢をケリオスへと放つ。

 精神力を纏ったその矢に対し、ケリオスはバランスを崩しながらも弾丸を放った。

 弾丸が矢へと当たると矢は激しい炎を噴かせ破裂し、辺りを黒煙が包み込む。


(くっ! 目くらましか!)


 ケリオスがそう思うと同時に、黒煙の中に青雷が駆ける。

 その瞬間にケリオスは来ると判断し、銃を黒煙へと向け引き金を引いた。

 数発の発砲音の後に、弾丸が黒煙へと螺旋を描き突っ込んだ。

 だが、何の手応えも無く、虚しく弾丸は黒煙を突き抜けた。

 直後、重々しい足音が響き、ケリオスは正面へと顔を向ける。

 その視界に飛び込むのは重々しい鎧姿で走るコーガイの姿だった。

 その手に持った槍を水平に構え、ケリオスと突っ込んできていた。


「そんな動きで、私を捉えられるとでも思っているのか?」


 ケリオスがそう言い、銃弾をコーガイへと向かって放った。

 しかし、その鎧は弾丸を弾き、火花を散らせる。

 普通ならば貫通するはずだが、コーガイの鎧は特別製で、硬度は最上級クラスの鎧だった。

 その代償として、通常の鎧の数倍の重さを誇る。

 そんな重い鎧で全力で突っ込むコーガイに、ケリオスは遂にその場を飛び退いた。

 だが、そこにソイツは居た。青雷を刃へと纏わせたアオが。


「残念。通行止めだ!」


 アオがニッと笑みを浮かべ、右足を踏み込む。


「雷火! 轟雷剣!」


 腰を捻る様に回転させ、その剣を一気に横一線に振り抜いた。

 蒼い閃光と共に放たれた刃が、真っ直ぐにケリオスの体を通過し、雷鳴が辺り一帯へと轟いた。

 しかし、アオの表情は険しく、一方でケリオスは口元に薄らと笑みを浮かべる。

 何事もなかったかの様に着地したケリオスは、すぐにその場を離れた。


「今のは危なかったですよ」

「まさか、空間を裂く能力にこんな使い道があるとは思わなかったよ」


 剣を下ろし、アオはそう告げた。

 アオが剣を振り抜いたその瞬間、ケリオスは空間を裂いた。アオの剣が通過するであろうその空間を。

 それにより、アオの放った刃は空間の裂け目へと呑み込まれ、そのままケリオスの体を通過する事無く通り過ぎたのだ。

 ケリオスは、まさに戦闘センスに恵まれた天才。それを、アオは改めて理解した。



 衝撃が広がり、クマの体は木々の合間を転げる。

 踏ん張りの利かない丸い足で何とかブレーキを掛け、体勢を整えた。


「はぁ……はぁ……」


 クマは荒い呼吸を繰り返す。

 しかし、ぬいぐるみであるクマの口からは吐息など漏れてはいない。

 自分がぬいぐるみだと言う事を忘れ、思わず荒い息遣いをしているのだ。


「どうした? 攻撃してこぬのか?」


 優雅に重々しい足音を響かせる男、ヴェルモット王国国王ヴァルガが、ゆっくりと姿を見せる。

 金色の鎧を揺れるマントから覗かせるヴァルガは、不適な笑みを浮かべクマへと歩みを進めた。

 茶色の体に刻まれた無数の傷口から真っ白な綿を噴かせるクマは、その手に持ったアックスを構えなおす。

 だが、それだけで、自分から切りかかっていく事はしない。

 それは、ヴァリリースによって戦闘と言う事を禁止されているからだった。

 故に、クマは防戦一方となっていた。


「さぁ、もっと私を楽しませろ!」


 重々しく右足を踏み込み、ヴァルガは一気にクマとの間合いを詰める。

 そして、その手に握った両刃の大剣を叩きつけるように振り下ろす。


「くっ!」


 クマは小さく声を漏らすと、その剣にあわせる様にアックスを振り抜く。

 下から地面を裂き振り抜かれるアックスは、大剣の刃とぶつかり火花を散らせると大きく弾かれた。

 やはり、クマの丸い手では上手くアックスの柄を握れず、力が入らない。

 その為にクマの一撃には力が無く、大きく後方へと弾かれる。

 派手に雪原の上を転がり、クマは大きく開けた場所へと飛び出した。

 それを見据え、ヴァルガは跳躍する。


「流星群!」


 その刃へと魔力を乗せ、ヴァルガはクマに向かって上空から突っ込む。

 まるで流星の如く。

 だが、クマはそれを後方へと飛び退きかわすと、横転しながら距離を取った。

 凄まじい衝撃により、地面は砕け砕石が舞う。

 淡い赤紫の瞳を輝かせるヴァルガは、顔を上げ地面に突き刺さった大剣を抜くと、クマへと叫ぶ。


「逃げ回ってばかりでは詰まらんぞ!」


 大手を広げ笑うヴァルガ。だが、次の瞬間、視界に一人の少年が姿を見せた。

 どす黒い漆黒のオーラを纏わせ、右目を赤く輝かせて。

 突如現れたその少年に、ヴァルガは驚きの声をあげる。


「なっ! 何処から――」


 だが、全てを発し終える前に、少年は腰の位置に構えた剣を振り抜く。


「一閃!」


 横一線に振り抜かれた刃は漆黒の閃光を走らせた。


「ぐっ!」


 火花が散り、ヴァルガの表情が歪む。

 反射的にその手に携えた大剣を出した。

 それにより、刃を防いだ。だが、その重々しい一撃にヴァルガの体は弾き飛ばされる。重量のある鎧を纏っているにも関わらず。

 足元に雪煙を舞い上がらせるヴァルガはすぐに体勢を整え、その少年へと目を向け叫ぶ。


「貴様、一体――」


 だが、その瞬間、ヴァルガの視界から少年は消え、右へと回りこまれた。

 素早い動きだったが、ヴァルガのその赤紫の瞳は少年の動きを見切っていた。

 その為、すぐに少年の動きにあわせる様に体を動かし、怒鳴り声を上げた。


「舐めるな! ガキが!」


 ヴァルガはその足を踏み込んだ。

 しかし、少年はその動きを読んでいたかの様に、バックステップで距離を取り、ヴァルガが振り抜いた刃はただ空を切った。


「くっ!」


 眉間にシワを寄せるヴァルガは、その視線を少年へと向け、少年もまたヴァルガへと視線を向けた。

 二人のその瞳が交錯し、一瞬の後に少年はその剣に赤黒い炎を灯す。

 少年の鋭い眼差しにヴァルガの動きが僅かに鈍る。恐怖したのだ。


「焔一閃!」


 押し殺した声でそう告げた少年が、その剣を横一線に振り抜く。

 その直後だった。突如、少年の頭が大きく後方へと弾かれ、それにより体は吹き飛ぶ。

 何が起こったのか、ヴァルガには分からなかったが、一瞬、ほんの一瞬少年の額に小さな石粒が直撃したのが見えた。


「な、何だ! 何がおき――」


 ヴァルガは声を失った。

 振り返った先に一人の女性が佇んでいた。その口にキセルを銜え、煙を噴かせて。

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