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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
フィンク大陸編
138/300

第138話 属性変化

 砕かれた氷が霰状になり降り注ぐ。

 轟音を奏で衝撃が広がり、激しく土煙を巻き上げた。

 喉元を押さえ咳き込むジェスは、訝しげに空を見上げる。そこには氷で作られた鳥が優雅に翼をはためかせていた。


「な、何だ……アレ……」


 ジェスは訝しげに目を細め呟いた。

 争いを続けていたヴェルモット王国軍とグランダース軍も、先程の爆音でジェス達の存在に気付いていた。

 そして、手を止め、宙に舞う氷の鳥を見据える。

 漆黒のローブを纏った男は、僅かに唇を噛み締め、


「どうして、奴がここにいる……」


 そう口にした。驚いているのか、それとも恐れているのかは分からないが、明らかに今までとは違う雰囲気が漂っていた。

 重苦しい空気の中、ゆっくりと氷の鳥が地上へと降り立ち、その背中に乗った二人が静かに背中から下りた。

 一人は妖艶に蒼い着物を着崩した大人びた女性。そして、もう一人は白の厚手のコートを着た褐色の肌をした少女。着物を着た女性の肌が白かった所為か、彼女の肌の色が一層濃くジェスには見えた。


(あの耳は魔人族か……しかも、あの肌の色は、ルーガス大陸の出身……)


 少女の姿にジェスは一瞬でそう判断する。

 基本的に魔人族は肌の色が褐色だ。それには理由がある。魔人族の住むルーガス大陸は非常に気候が暑く、紫外線も強い。それにより、そこに住む魔人族は生まれつき肌が褐色がかっているのだ。

 眉間にシワを寄せるジェスは、何故そんな彼女が、この寒い地域にいるのか疑問を抱く。そして、彼女と共に居るあの女性の胸元へと思わず目が行く。


(うむ……目の保養だな……)


 などと、不謹慎な事を考えていた。

 ジェスのその表情に、アースは何となく考えている事を読み取り、呆れた様に頭を抱え吐息を漏らした。

 妖艶な笑みを浮かべる女性は、紫がかった唇へと右手の人差し指を当て、ふふっと静かに笑う。

 意味も無く色っぽい仕草をとる女性に対し、フードを被った男は声を張り上げる。


「何故! 何故、貴様がここに居る!」

「あら? おかしな事を聞くのね?」


 妖艶な笑みを浮かべる女性だが、その笑顔と裏腹に凄まじい威圧感が周囲を包み込んでいた。

 重苦しい重圧に、思わず目を見張るアースは、静かに息を呑んだ。次元の違いを感じていた。

 張り詰める空気に流石のジェスも真剣な表情を浮かべる。

 長い白髪を揺らす女性は、右手で髪を掻き揚げると、鋭い眼差しを向け男へと告げた。


「あなたこそ、何故、ここに居るのかしら?」

「くっ!」


 男は声を漏らし右手へと魔力を集める。

 しかし、その行動に女性は困った様に眉を曲げた。


「あら? もしかして、分身如きで私の相手が務まるとでも思っているのかしら?」


 妖艶な笑みを浮かべながらも、恐ろしい程の殺気を放つ彼女に、男は一歩下がった。

 一方、ジェスとアースも、彼女の言葉で、目の前にいるこの男がどちらも偽者なのだと理解する。

 しかし、そう言われても、ジェスとアースにはとてもこの男が偽者とは思えなかった。

 マジマジと見ても、やはり何処からどう見ても本物そのもの。いや、この男の本当の姿を見た事の無い二人には、その判断が着けられなかった。

 ゆっくりと流れる時の中で、女性は口元を右手で覆いクスリと笑う。


「まぁ、あなたには、彼女の実験台になってもらおうかしら」


 女性がそう言い、後ろに立っていた少女へと目を向ける。

 茶色の髪を揺らす少女は、初め事を理解していなかったのか、平然としていたが、やがて彼女の言った言葉の意味を理解し、慌て始める。


「ふぇっ! ふぇぇぇっ! む、むむ、無理です! 絶対! 戦い方なんて教わってないです!」


 両手が少女の顔の前を何度も往来する。

 しかし、そんな少女に対し、妖艶な笑みを浮かべる女性は、困った様に右手を頬へとあて、


「あらあら。私はちゃんと教えたわよ。戦い方は」

「いやいやいやいや! 教わったのは魔力の使い方だけですから!」

「それだけで十分、あなたは強いわよ」


 女性にそう言われ、少女の表情は引きつる。

 そして、目を細めた後に、男の方へと顔を向けた。


「エメラルド……お前も、だいぶ落ちたな。そんな小娘で、我に敵うと――」

「あら? あなたこそ、大分衰えたんじゃない? 彼女、ハッキリ言って魔力の量と質は私やあなたよりも遥かに上よ。流石に血は争えないわね」


 ふふっと、エメラルドと呼ばれた女性は笑った。

 その意味深な笑みに、男は眉間にシワを寄せると、少女へと目を向ける。

 か弱く、とても力が強いとは思えぬその少女の姿に、男はまた笑みを浮かべた。


「バカバカしい……そんな小娘に、我が負けるわけがない」


 肩を竦める瓜二つの二人の男に、エメラルドはふふっと笑い、少女へと視線を送る。


「いい感じで相手は油断しているわ。いい、私が教えた通り、すれば大丈夫よ」

「えっ、あっ……はい……」


 肩を落とす少女に、エメラルドは困った様な表情を見せるが、すぐに笑みを浮かべ、


「大丈夫よ。セラちゃん。あなたは強い。その血が示してくれるわ。だから、安心して戦いなさい」

「は……はぁ……」


 困った様に呟いたセラと呼ばれた少女は、深く息を吐いた。

 それから、諦めた様に拳を握ると、エメラルドの横を通り、前へと出た。


「じゃあ、何かあったら、助けてくださいね?」

「えぇ。でも、恐らく、その心配はないわよ」


 エメラルドは妖艶に微笑し、右手を軽く振った。

 息を吐き出すセラは、肩口で茶色の髪を揺らし、ゆっくりと腰の位置に拳を構える。

 体内を巡る魔力が、ゆっくりと体を覆う様に薄い膜を生み出し、セラを包んだ。


「えぇーと……まずは、魔力の定着……」


 セラはそう呟き、瞼を閉じる。

 彼女を包む魔力は最初荒れていたが、それが徐々に落ち着いていく。

 魔力が落ち着くと、セラは静かに瞼を開き、


「次は……魔力を集中……」


 そう呟き、全身の魔力を両足と両腕へと集める。

 しかし、そんなセラの行動を、男が待つわけも無く、分身の一人が走り出す。


「悠長に待っていると思ってるのか!」

「ふふっ。焦らず、ゆっくりやっていいわよ」


 男の声に肩をビクッと跳ね上げたセラに、エメラルドがそう呟いた。

 その声でセラは冷静になり、息を吐き出すと強い眼差しを迫る男へと向ける。

 準備は整い、セラはギュッと拳を握り、左足を前へと出す。


「属性硬化! 土」


 セラがそう叫ぶと両腕を黒光りした硬質物が包み込む。

 その瞬間、男は気付く。それが、自分と同じ土属性だと言う事に。

 故に、彼の唇が緩む。自分以上に土属性を使いこなせる者などいない、と言う自信があったからだ。

 しかし、次の瞬間、彼の表情は変る。


「属性強化! 風!」


 彼女がそう叫び、両足へと風をまとったのだ。

 属性変化は難しく、一つの属性を極めるだけでも数十年以上掛かると言われている。

 だが、目の前にいる小娘セラは、一つ所か二つの属性をその身に纏っていた。

 驚きと焦りが男の顔に浮かび、それをエメラルドは見逃さない。


(ふふっ……気付いたみたいね。でも、彼女は、これだけじゃないわよ……)


 意味深に微笑するエメラルド。

 そして、セラは息を吐き男へと向かって走る。

 風を纏った足が踏み出されると、爆音を立て一瞬でセラは加速し、男との間合いを詰めた。


「は、早い!」


 ジェスが驚きの声をあげるが、更に驚くのはこのあとだった。


「属性付加! 雷!」


 セラがそう言うと、振り上げた黒光りする右拳に雷撃が迸る。


(まさか! 三つの属性を――!)

「雷光一発!」


 左足を踏み込んだセラが、腰を回転させ振り上げた拳を一気に男の顔面へと叩き込んだ。

 青白い閃光が大気を裂き、轟音が周囲を包む。

 遅れて響いた衝撃音が地面を何度もバウンドした。

 激しく土煙が舞い上がり、その場に残ったのは頭を失った土人形だけだった。


「あ、あの娘はどうなった?」


 静寂の中で、ジェスがそう叫ぶと、アースが地面をバウンドし土煙を巻き上げて行った場所へと視線を移し、叫ぶ。


「い、居ました! あ、あそこ!」


 アースが指差す先へとジェスは視線を向ける。

 すると、土煙の中で横転し、倒れるセラの姿があった。

 属性変化による戦いに慣れていないのか、それともその威力が凄すぎたのか、セラはゲホッゲホッと咳き込み土塗れになった服を叩いていた。


「はうぅ……ビックリしたなぁ……」


 そう呟いたセラは、静かに立ち上がり、真っ直ぐにエメラルドへと視線を送る。


「終わりました!」

「えぇ。見ていたは、見事だったわよー」


 セラの言葉にエメラルドがそう言う。

 そう、すでにもう一体の男の土人形も消し飛んでいた。

 一瞬だった。勢いを殺せずそのまま直進したセラはそのまま、もう一体の土人形の腹部へと膝蹴りを見舞ったのだ。

 それにより、セラはバランスを崩し横転し、激しく土煙を巻き上げたのだ。

 腹部が抉れた土人形は、やがて崩れ落ちる。

 それを見届け、エメラルドは妖艶に笑った。

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