表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
フィンク大陸編
137/300

第137話 子供の遊びみたい

「マスター……どうするんですか?」


 積もった雪の向こうに姿を隠すアースは、隣りに居るジェスへとジト目を向ける。

 森の中を彷徨っていた二人だったが、現在、何故か国境の中央部に居た。

 迷いに迷った挙句、どうやら前進していたようで、先陣を切っていたであろうヴェルモット王国軍とグランダース軍が激しく交戦するその場所に辿り着いたのだ。

 まさか、すでにここまで激しい戦いを繰り広げているとは思っていなかった為、ジェスも少々戸惑っていた。

 正確な時刻は分からないが、時はすでに夜明け前。そんな時間にこれ程までの激しい戦いをしているなどと、誰が予測出来ただろう。

 真紅の髪を揺らすジェスは、白い息を吐き出すと空を見上げた。


「さて、どうするかな……」

「参戦しますか?」


 アースが深い蒼の髪をたなびかせそう尋ねる。

 腕を組むジェスは「うーん」と唸り声をあげ、眉間へとシワを寄せた。

 余程、慎重になっているのだと、アースは真剣な顔でジェスの横顔を見据える。

 だが、そんなアースと違い、ジェスは別の事で悩んでいた。


「うーん……なぁ」

「はい。何ですか?」


 真剣な表情を向けるジェスへ、アースも真剣に答える。

 すると、ジェスは言い辛そうに俯き、数秒程の間を空けた後に答えた。


「やっぱ、あの石像持って帰っちゃダメか?」

「…………」


 突然のジェスの発言に呆然とするアースは、みるみるその眼差しを変え、蔑む様にジェスを見据える。

 その眼差しにジェスは不思議そうに首を傾げた。


「どうした? その人を見下した様な眼差しは?」

「あの……状況分かってますか?」

「あっ? ……あぁ。石像だろ?」

「違います。アレですよ! アレ!」


 惚けるジェスへとそう言い放つアースは戦場を指差す。

 その指差す先へと目を向けたジェスは、目を細めると右手で頭を掻く。


「いや……アレって言われてもなぁ……」


 困り顔でジェスは戦場を見据える。

 ジェスがそんな顔をするのにはわけがあった。

 それは、あの戦場に二つの脅威があったからだ。

 一つはグランダース王国、竜王プルートの息子で、第二王子のグラド。龍魔族では珍しく長く強靭な槍を使う。龍魔族特有の肉弾戦も出来る為、多彩な戦闘スタイルを持つ男だ。

 そして、もう一つがヴェルモット王国、白銀の騎士団“魔導の貴公子”の異名を持つ男ディーマット。両腕共に魔導義手と呼ばれる超特殊素材で作られた義手で、肘から魔法石を取り込む事が出来、取り込んだ魔法石により、彼の腕も能力が変るのだ。それ故に魔道の貴公子と呼ばれているのだ。

 両者の激しい攻防が繰り広げられ、周囲は凄まじい衝撃で積雪は弾け茶色の土があらわとなっていた。

 そんな二人の打ち合いに目を向けるジェスは、半笑いを浮かべると、


「お前、俺にあの中に突っ込めって言うのか? 流石に手に負えないだろ……」


 そう静かに呟いた。

 確かにジェスの言う通りだった。とてもじゃないが、ジェスとアースが間へ入れるようなレベルの交戦ではなかった。

 激しく衝撃音が轟き、閃光が広がる。どれ程の戦いをしているのか、遠くでも分かる程だった。


「でも、こうしているわけにも行きませんよ?」

「だな。それに、どうやら敵さんもようやく姿を見せたようだしな」


 ジェスが静かに笑い、アースは首を傾げる。

 ジェスが何を言っているのか理解出来ていない。

 と、その時だった。積雪が盛り上がり、地面から一人の男が姿を見せる。


「なっ!」


 驚くアースは思わず腰の剣へと手を伸ばした。

 漆黒のローブを着た不気味なオーラをまとう男だった。深くフードを被る為、顔は見えない。だが、その奥に赤い瞳が輝いているのが分かった。

 張り詰めた空気が漂い、重圧のある圧倒的な威圧感が二人を押し潰す。


「ぐっ……この気配……やっぱり、あの時感じた……」

「何ですか! コイツのこの力は……化物じゃないですか!」


 アースですら感じる強大な力に、思わずそう口にする。

 この強大な力を目の当たりにすると、国境付近で戦うあの二人ですら可愛げがある様に思え、ジェスは思わず笑ってしまった。


「な、何、笑ってるんですか! この状況で!」

「いや……見てみろよ、あの二人を……」


 ジェスが振り返り、国境付近で戦う二人に目を向ける。

 そんなジェスに釣られアースもそこへと目を向け、小さく首を傾げた。


「アレが何ですか? 笑った理由になりませんよ?」

「いやー。あんなに必死に戦ってんのに、この化物と比べたら子供の遊びみたいに見えるだろ?」

「はぁ……」


 小さく頷くアースだったが、すぐに我に返る。


「な、何言ってるんですか! そんな冗談言ってる状況じゃないでしょ!」


 激怒するアースに、ジェスは苦笑した。


「落ち着けよ」

「落ち着いてる場合ですか!」


 二人の掛け合いを見据え、男は静かに笑う。


「くっ……くくくっ……」

「おい、笑われてるぞ?」

「誰の所為ですか!」


 アースが怒鳴ると、男は右手をスッと上げる。

 魔力の波動を感じ、ジェスはアースを突き飛ばし、同時に右方向へと飛ぶ。


「うわっ!」


 突き飛ばされたアースが声を上げ尻餅を着くと、その目の前を衝撃波が横切る。

 アースの前髪が僅かに揺れ、積雪は微かに抉れていた。

 一方、右へと跳んだジェスは剣を素早く抜き、その鋭い眼差しを男へと向ける。

 二人の視線が交錯し、口元に薄らと笑みが浮かぶ。


「疾風――」


 ジェスが右足を踏み込み、腰の位置に構えた剣へと精神力を練り込む。

 その動き、男も右手に魔力をまとう。


「属性硬化――」


 男の右腕が黒い光沢のある物質へと覆われる。


「――五月雨!」

「……鉄壁」


 目にも止まらぬジェスの連撃が、幾重にも重なるように男を襲う。

 しかし、男は硬化させて右腕で軽々とジェスのその太刀を全て防ぐ。

 虚しく鳴り響く金属音。

 激しく散る火花。

 表情を歪めるジェスだが、そこで手を止める事無く、体力が続く限り剣を振るう。

 関節が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。それでも尚加速していくジェスの太刀に、男の体が半歩下がった。

 その瞬間をアースは見逃さず、腰の剣を抜き、素早く背後へと回り込む。


「疾風!」


 ジェスから教わったその技をアースは二本の剣で放つ。

 完全に男の背後を突いたはずだった。だが、その剣は硬い手応えだけを感じ、その瞬間アースの体は後方へと吹き飛ぶ。


「ぐっ!」


 地面に剣を突き立て、勢いを殺すアースが顔を上げる。

 すると、その目の前に、男が立っていた。分裂したかの様に同じ容姿で、硬化した右腕を構えて。


(どうなってるんだ……)


 険しい表情を浮かべるアースに、男は静かに口を開く。


「ふふふっ……不思議か? なぜ、二人いるのか?」


 意味深にそう告げる男の足元にアースの目は向く。

 そして、理解する。今、自分の目の前に居る男は土から生えたただの土人形だと。

 だが、その強さは明らかにあの男と同等。故に、今のアースではとてもじゃないが手も足も出ない事は明白だった。

 険しい表情を浮かべるアースは、半歩下がる。その時、激しい金属音が響き、


「ぐあっ!」


 と、ジェスの声が聞こえた。

 

「マスター!」


 ジェスの声にアースが叫ぶ。

 剣を弾かれたジェスは、男の右手に喉元を掴まれていた。


「うっ! くっ……」

「終わりだ」


 男がそう告げ、不適に笑みを浮かべた瞬間だった。

 突如、巨大な氷のツブテが空より飛来する。


「チッ! まさか……奴か!」


 男が叫び、その手に掴んでいたジェスを放り投げ、その手を空へとかざす。


「ロッククラッシュ!」


 魔力を纏ったその手を今にも自分を押し潰そうとする氷のツブテに向かって振り抜いた。

 鋭い岩で作られたツララ状のものが、一直線にその氷のツブテへと衝突し、激しい衝撃が地上を襲った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ