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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
フィンク大陸編
129/300

第129話 混乱

 進軍を開始し、二週間ほどが過ぎようとしていた。

 すでにヴェルモット王国とグランダース王国の国境付近まで近付いてた。

 雪は大分激しくなり、寒さは一層厳しいモノとへと変る。その所為もあり、兵達の足取りが重く、行進が大分遅れ始めていた。


「ふむっ……ここに来ての吹雪か……」


 冬華の後ろで、そう呟いたのは国王ヴァルガだった。その静かな呟きに、冬華は苦笑する。

 分厚いコートを羽織った冬華は、白い息を漏らし黒い手袋をした手で手綱を握り、馬を歩かせる。乗馬の経験はなかったが、何とか乗りこなす事が出来た。

 これも、冬華の運動神経が良いから出来る芸当だった。

 この国でも珍しい真っ白な肢体の美しい馬が、冬華の専用馬となった。これも、先の英雄が白馬に乗り戦場を駆け抜けたから、と言う理由からだ。

 冬華はそれ程気にはならないが、この積雪の中でその真っ白な馬の姿は中々見え辛く、目くらましにもなる。そう言う理由もあるとケリオスから笑顔で説明された。

 その為、冬華の着てるコートも真っ白なモノで、フードを被れば手袋以外全てが真っ白になってしまう程だった。

 深く息を吐き出した冬華は、吹雪が激しくなった為、頭にフードを被ると、眉間にシワを寄せる。何か嫌な予感がしてならなかった。

 ゆっくりとながら足を進めていく中で、突如前方で爆音が轟く。激しく雪が舞い上がり、霧状に辺りに広がる。

 突然の事に行進が止まり、同時に声が響く。


「何事だ!」


 国王ヴァルガの怒声に、前方に陣取る部隊の一兵士が声をあげる。


「敵襲です!」

「敵襲! まさか、龍魔族から打って出てくるとは――」

「いえ! 敵は――」


 兵が言い終える前に、爆音が轟き激しい蒸気と積雪が舞い上がる。何が起こっているのか分からぬ中で、突如、隊列の中に居た一人の兵に異変が起きた。


「な、何をして――ぐああっ!」


 悲鳴がこだまし、鮮血が迸る。剣を抜いた一人の兵士が突如、隣りに並ぶ兵を切りつけたのだ。鮮血を刃から滴らせる兵士の白眼が黒ずみ、瞳が金色に輝く。

 明らかに異様な空気を走らせるその兵を囲む様に、周囲の兵達は武器を構える。

 だが、次の瞬間、また何処かで悲鳴が上がり、爆音が轟いた。今度は魔導部隊に所属する兵士の一人が魔法を放ったのだ。

 それにより、今度は多くの兵の被害が出ていた。そして、隊列は明らかに乱れた。



 前衛、第二部隊を率いるジェスは、兵達の統率を取ろうと、声を張り上げる。


「落ち着け! 周囲の者達の顔を確認しろ!」


 ジェスがそう言ったのには理由があった。ジェスが率いる第二部隊は基本的に徴兵で集められたメンバーで構成されている為、知らない顔があれば分かるはずだと判断したのだ。

 しかし、そのジェスの考えは無駄に終わる。直後に起きたのだ。他の兵達と同じ現象が――。

 白眼が漆黒に染まり、ジェスの周囲に居た兵達全てが金色の瞳をジェスへと向けた。その瞬間にアースが四本の剣の内二本を抜き空へと投げると、瞬時更に二本の剣を抜き叫ぶ。


「マスター! ここは自分が!」


 そう言い、アースは駆ける。そして、武器を構えた異様な空気をかもし出す大多数へと向けて突っ込んだ。

 金属音が響き、激しい火花が散る。二本の剣で、五人の剣を受け止め、アースは踏み込んだ右足へと力を込める。

 だが、そんなアースへと、後方から巨体を揺らす男がアックスを振り上げる。しかし、ジェスは手を出す事はせず、ただその光景を見守っていた。

 そして、アースもそんなジェスの気持ちに応える様に、前方の五人の兵を腕の力で弾く。衝撃で後方へと兵が弾かれたのを確認し、アースは手に持った二本の剣を地面へと突き刺し、跳躍すると体を反転させ宙に舞う二本の剣を手に取る。そして、アックスを振り上げる巨体の男へと、右手に握った剣を投げつけた。


「がああああっ!」


 雄たけびを上げ、巨体の男は振り上げたアックスを空中のアースへと振り下ろす。だが、その刹那にアースの投げた剣が男の眉間を貫き、後頭部から切っ先が突き出した。しかし、血は全く噴出さず、、巨体の男はゆっくりと後方へと倒れ込む。大きな物音と共に僅かに雪が舞った。

 音も無く静かに着地したアースは、右手で先程地面に突き立てた剣を抜き、更に振り向き様に後方に居た男達を斬りつける。先ほどの巨体の男同様、彼らもまた血を噴出すこと無く地面へと崩れ落ちた。

 大混乱に陥る第二部隊。その中で冷静さを保つジェスは剣を抜くと、周囲を警戒する。

 と、その時、同じく第一部隊でも騒ぎが起こった。


「た、隊長! み、味方の兵が――ぐあっ!」


 若い兵が隊長であるウィルヴィスへと叫ぶが、その刹那、背中を切り付けられ絶命する。

 黒馬に乗っていたウィルヴィスは、馬から飛び降りるとメガネを右手で上げ、フッと息を吐いた。


「一体、何が起きているって言うんですか? 急に同士討ちなんて……」


 ウィルヴィスは困り顔でそう言いながらも、右手に抜いた剣で躊躇い無く襲い来る自軍の兵を切り裂いた。鎧ごと真っ二つに左肩口から右脇腹まで深く切り裂かれた兵は、深い傷にも関わらず血を噴出すこと無く倒れる。だが、ウィルヴィスはそんな兵を見る事無く、次に襲い掛かってきた男を斬りつける。


「どうやら、徴兵が裏目に出た様ですね」


 冷静にそう分析したウィルヴィスは左手にももう一本の剣を抜き、後ろから迫る兵に向かって後ろ向きのまま切っ先を突き立てた。切っ先が兵士の胸を貫き、背中から飛び出す。そして、剣を抜くと同時に兵士の体は崩れ落ちた。またしても、血を一滴も流す事無く。

 訝しげな表情を浮かべるウィルヴィスは奇妙な違和感を感じていた。そして、左手でメガネを上げ、静かに後衛部隊の方へとその顔を向けた。



 後衛でも同じ現象が勃発し、混乱がおきていた。

 特に後衛部隊は魔導兵も居る為、被害は大きく前衛よりも激しいモノとなっていた。

 そんな中で、第二部隊を率いるクリスも、その被害を被っていた。


「くっ! 何が起こってるんだ!」


 声を上げるクリスが、右手に剣を転送する。結局、剣を買う事が出来なかった為、ひび割れた剣を渋々転送していた。

 そんなクリスに目掛け、十センチ程の大きさの紅蓮の玉が空から落ちる。


(魔術か! この剣で防げるか?)


 迫る炎を見据えたクリスは、躊躇う。だが、この場でやられるわけには行かないと、右足を踏み込むとその剣を振り抜いた。

 閃光が閃き、刃が僅かに軋む。それでも、何とか迫る炎の玉を切り裂き、クリスの背後で激しい火柱を噴き上げた。と、同時に剣は真ん中から砕け、その切っ先が地面へと突き刺さった。


「くっ!」


 僅かに声を漏らしたクリスは、表情をしかめた。そして、その手に持った剣を消すと、顔を上げ辺りを見回す。すでに多くの兵が倒れ、残骸だけが散らばっていた。

 その中で、異質な空気を放っていたのは、クリスの隣りの部隊である、第一部隊だった。まるで何も起こっていない様に静まり返っているが、次々と悲鳴が上がり、時折銃声らしき乾いた音が響いていた。

 だが、他の兵達は全く動く気配は無く、ただ一つの薄い気配だけが動き回っていた。もちろん、その動き回っているのは――。


「はい。キミ、偽者ね」


 静かな声と共に一発の銃声。

 額を撃ち抜かれた兵士は、反動で後方へと弾かれ地面へと背中から倒れ込んだ。

 左手に付けた漆黒の手甲が煌き、右手に持った銃の銃口からは硝煙が上がっていた。


「さて、次かな」


 静かな口調でそう呟いたケリオスは、穏やかな笑みを浮かべ、辺りの兵を見回した。そして、銃を構えると躊躇い無く一人の兵のコメカミを撃ち抜く。


「はい。キミも偽者。全く……手の込んだマネを……」


 ふっと息を漏らし、ケリオスは歩き出す。死んだ者、殺した者など気にした様子も無く、単発の銃声だけが何度もその場には響き渡った。

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