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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
フィンク大陸編
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第122話 連盟の犬

 睨み合うアオと青年。

 場の空気は緊迫し、集まった者達は固唾を呑む。今にも二人が戦うのではないか、そんな空気が流れていた。

 しかし、そんな空気を一変する様に、青年はふっと息を漏らす。そして、アオへと微笑しその手に持った銃をホルダーへとしまった。それを見届け、アオも静かに剣をしまう。

 あまりにあっさりと武器をしまった二人に、周囲に集まった者達は拍子抜けしていた。だが、空気は変わらず、重苦しかった。

 険しい表情を向けるアースは淡い蒼の髪を揺らし、静かに息を吐く。この重々しい空気に耐え切れなかった。

 そんな折だった。集まった者達を掻き分けクリスとジェスがその場に姿を見せる。


「一体、何の騒ぎだ?」


 能天気にジェスがそう発言すると、童顔の青年は黒髪を揺らし穏やかに笑う。


「おや。また、お会いしましたね?」

「ケリオス! な、何でお前が!」


 驚きの声を上げるジェスに対し、ケリオスと呼ばれた青年は肩を竦める。


「私は騒ぎを治めに来ただけですよ」

「騒ぎ?」

「えぇ。あなたも気をつけた方がいいですよ。彼ら連盟の犬には」


 不適に笑みを浮かべたケリオスは静かに会釈した。その言葉にジェスは訝しげな表情を浮かべる。しかし、ケリオスはそれ以上何も答えず、静かにその場を後にした。まるで消滅したかの様に一瞬で気配を断ち、煙の様に姿は消えた。

 それ程、実力のある相手なのだと、ジェスは不満そうな顔をしていた。

 しかし、クリスは気にした様子は無く、静かに息を吐くと、呆然と立ち尽くすアースの下へと足を進める。


「大丈夫か? まさか、騒ぎの中心に居たのは、アイツじゃないだろうな?」


 クリスがアースの左肩に左手を置き、静かに尋ねる。その言葉でようやく我に返ったアースは、目を伏せると小さく頭を左右へと振った。


「いえ……今回の件は、自分が原因です……すみません」

「そうか……。いや、アイツの事がバレていないなら、それで――」

「それが……恐らくですが、すでに感づかれている、そんな気がします」


 アースが険しい表情でそう述べた。その言葉にクリスは「そうか」と静かに答えた。何となくだが、そんな気がしていた。クリスが英雄と行動を共にしている事は恐らく知られている。そして、獣王の息子であるシオが一緒に居る事も。

 故に、クリスが街に居る時点で、この街の者達には気付かれたはずだった。魔族が居る事が。その偵察に来たのが、あのグラスだったのだ。

 この国で――いや、全ての人間達の国の中で、最強と言われる白銀の騎士団。しかも、異名持ちがうろついている事から、やはり戦争は行われると言う事だと、クリスは判断した。

 不満そうな表情のジェスは、アースへと歩み寄り、短い蒼い髪を乱暴に撫でた。


「まぁ、上出来だ。よくやった」

「いえ……自分は何も……」


 悔しげに唇を噛み締めるアースにジェスは微笑する。


「まぁ、相手は白銀の騎士団の異名持ちだ。俺に勝てない今のお前じゃ、相手にならないだろうな」

「それ、慰めてくれてるんですか? 貶してるんですか?」


 アースがジェスへとジト目を向けた。すると、ジェスは豪快に笑いアースの頭を二度叩いた。ムッとした表情のアースは、納得はしなかったが、これもジェスなりの励ましなのだろうと、肩の力を抜いた。

 散り散りに散っていく野次馬を尻目に、ジェスの目は一人の男へと向けられる。傷だらけの胸当てをした黒髪の男、アオへだった。ジェスもギルドマスターを務める為、連盟の犬と呼ばれる存在を知っている。

 それは、個人を指し、雉、猿と呼ばれる者も居る。その中で、最も表舞台に姿を見せるのが、連盟の犬、アオだ。猿は隠密潜入調査、雉は内部調査と、役割が決まっている。皆、それぞれ特殊な能力を持ち、実力も折り紙つきの者達だ。

 しかし、その三人の中で顔を知られているのはアオだけ。他の二人がどんな者なのか知る者は居ない。

 ジェスも色々なツテを使い、探ろうとはしたが結局無駄に終わっていた。

 そんなジェスの眼差しに、アオは気付く。そして、穏やかに笑むと右手を顔の横まであげる。


「やぁ。キミがジェスだね? 色々と話は聞いているよ」

「…………」


 親しげに話しかけるアオへと、沈黙を守るジェスは鋭い眼差しを向ける。すると、小柄な幼さの残る青年が、茶色の髪を揺らしアオの隣りへと並ぶ。


「リーダー。滅茶苦茶警戒されてるぞ」

「やっぱり、そう思うか? ライ」


 腕を組み不思議そうに首をかしげたアオに対し、ライと呼ばれた青年は、右手で額を押さえ大きくため息を吐く。当然だろうと言いたげなライの表情に、アオは聊か困り顔だった。

 不快そうな表情を浮かべるジェスは、ジッとアオの顔を見据え、やがて静かに息を吐く。


「俺に何か用か?」


 アオに敵意がない事を確認した上で、静かに低い声で尋ねる。僅かに冷たい風が吹き抜け、ジェスの真紅の髪が揺れる。

 そんなジェスを横目で見据えるクリスは、係わり合いにならない様にと、アオの目に付かぬ様に静かに馬車へと向かった。

 ジェスの問いに対し、アオはキョトンとした表情を浮かべ、隣りに並ぶライと顔を見合す。


「いや、特に用はないよ? それに、キミの事は信用しているよ。あの冬華の知り合いみたいだからな」


 アオが大らかに笑いそう言う。その言葉にクリスは動きを止め、ジェスも警戒心を更に強めた。

 二人の明らかな動揺にアオは一層不思議そうな表情を浮かべる。そして、右手で頭を掻く。


「な、何だ? 俺、何か変な事……言ったか?」

「いや……少なくとも俺は変な事を言った様には聞こえなかったけど?」


 アオの隣りでライは苦笑する。そんな二人へと白銀の髪を揺らし振り返ったクリスは、鋭い眼差しを向けた。異様な空気を作り出すクリスに、アオは訝しげな表情を向ける。何故、そんなに張り詰めた空気を作り出しているのか、全く分からなかった。

 その為、アオはぎこちなく笑みを浮かべ、クリスの目を真っ直ぐに見据える。


「な、何かな? 俺、気に障る事したかな?」


 鋭い眼差しを向けるクリスにそう尋ねる。すると、クリスはその手にひび割れた剣を取り出し、切っ先をアオへと向けた。だが、その瞬間、ライが一歩踏み出し、素早く右手で腰のナイフを抜き刃を切り上げ、続けざまに左手で抜いたナイフの刃をクリスの喉元へと向けた。

 僅かに響いた金属音の後、静寂が周囲を支配する。

 鋭い眼差しがクリスの顔を見上げ、幼さの残る声が静かに告げる。


「何のマネだ? 俺らのリーダーに」

「くっ!」


 表情を険しくするクリスを、ライは上目遣いに睨み付けた。緊迫した空気の中、ジェスとアオが二人を割る様に間に入った。


「止めろ! ライ!」

「よせ、クリス」


 二人の声に、クリスもライも武器を納める。だが、ライは明らかにクリスへと敵意を向けていた。それ程、アオを信頼していると言う事の表れだった。

 深く息を吐き出すアオは、呆れた様子でライの肩を叩く。


「落ち着け」

「けど、アイツ、明らかに敵意を――」

「本気じゃない。ただの威嚇だ。それに、アレ位なら俺でも対処出来た」

「そう言う問題じゃねぇーだろ!」


 宥めるアオへと怒鳴り散らすライ。どっちがリーダーなのか分からない状況になりつつあった。

 そんな状況の中、奥歯を噛み締めるクリスは、険しい表情を浮かべていた。全く反応出来なかった。それ程、ライと呼ばれる青年の動きは素早かった。

 悔しげなクリスに対し、ジェスは小声で告げる。


「気にするな。アイツはアオの右腕だ。実力は確かだ」

「分かっている……実際、私は……」


 険しい表情を浮かべるクリスが俯き瞼を閉じる。それと、ほぼ同時だった。荷台のドアが開かれ、冬華が驚きの声を上げた。


「あ、アオ! それに、ライも! ど、どうしてここに!」


 外の騒ぎが気になり顔を出したが、まさかそこにアオが居るとは思わなかった。驚いた様子の冬華へとアオは右手を軽く上げる。そして、ライも先ほどまでの険しい表情が一変し、無邪気な笑顔を浮かべ声を上げた。


「おう! 冬華! ひっさしぶりだな!」


 右腕をブンブンと振るライに、冬華は苦笑し軽く右手を振った。

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