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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
フィンク大陸編
120/300

第120話 白銀の騎士団 “静かなる殺人鬼”

 冬華達一行は更に一週間ほど掛け、ヴェルモット王国の王都へと辿り着いていた。

 王都内は物々しい雰囲気が漂い、武装した者達が集結してた。有名どころのギルドから、暗殺を請け負う闇のギルドまで集められていた。

 個人で参加する者、ギルドとして集団で参加する者、即席パーティーを組み参加する者と、多くの者達が街を往来する。

 宿はすでに満室だった為、冬華達は渋々ボロボロの馬車で寝泊りしていた。


 物騒な空気が漂う街をクリスはジェスと二人で探索していた。英雄である冬華の存在を、この場に居る誰にも知られたくは無いと、冬華は荷台に留守番となった。シオも冬華とほぼ同じ理由で馬車に残り、クマは問題外、アースは何かあった時の為の護衛として馬車に残された。

 シオとアースがぶつかり合わないか、クリスは心配だったが、ジェスは能天気に「大丈夫だろ?」と笑っていた。その為、クリスとジェスの間には少々ピリついた空気が流れていた。

 街に降り注ぐ粉雪。しかし、街道には雪は積もっていない。この街だけではない。ここヴェルモット王国の王都近郊の町は大抵、街道に雪が積もらない。その理由として、地熱が使用されていると言う事だが、それに異議を唱える者も多い。その為、それが事実であるかは不明だった。

 靴の踵を鳴らし道を歩むクリスは、白銀の髪を揺らし、辺りを警戒する様に瞳を動かす。注意深く観察すればする程、集まっている面々が有名どころだと分かる。

 実力者ばかり集められ、本当に戦争を起こす気なのだと、改めて理解する。

 沈黙し歩みを進めるクリスの様子に、ジェスは頭の後ろで手を組み静かに尋ねる。


「そう言えば、お前ら派手にやったらしいな」


 突然のジェスの発言に、クリスは訝しげな表情を向けた。


「何の事だ?」


 静かに答えるクリスに、ジェスは微笑する。


「クレリンスでの事だ。大分、噂になってるぞ」

「あぁ……。その事か……」


 不機嫌そうに表情をしかめるクリスは、鼻から息を吐き出し視線を逸らした。その行動にジェスは右の眉を吊り上げ、首を傾げる。


「何だ? 不満そうな顔をして? 噂されるのがそんなに嫌なのか?」

「いや……別に」


 やはりクリスは何処か不満そうな表情で答える。何故、そんな不機嫌そうなのか分からず、ジェスは首を傾げ、息を吐いた。とりあえず、この話は触れて欲しくないと理解したジェスは口を噤む。

 静かに足を進める二人。そんな二人の前に一人の巨漢が立ちはだかった。


「おい。ちょっと待て」


 巨漢の男の野太い声に、クリスとジェスは足を止め、顔を見上げる。少々前へと飛び出した腹を揺らす巨漢の男は、頬の肉を揺らし笑う。


「何で、お前がここに居るんだ? ヘッポコ盗賊ギルドのマスタージェス」


 その男の言葉にジェスは右の眉をピクッと動かす。だが、問題を起こすわけには行かないと、穏やかに微笑する。

 思わず溢れそうになった殺気を腹の底へと押し込み、微笑するジェスに対し、巨漢の男は背負っていた巨大アックスを持ち上げる。好戦的な眼差しに、クリスは呆れ顔を向け、フッと息を吐いた。そして、ジェスを横目で睨み、肩の力を抜く。


「私は関係ないぞ」

「ははっ……俺も関係ねぇーよ」


 小声で話す二人に、巨漢の男は片手で軽々と持ち上げたアックスを振り下ろす。クリスとジェスを分断する様に刃は間へと落ちた。衝撃音が広がり、土煙が激しく舞う。しかし、クリスとジェスの二人は表情を一つ変えず、二人してため息を吐く。

 困り顔で俯くクリスは眉間にシワを寄せ、ジェスは肩の力を抜きジト目を向ける。正直な所、自分がバカにされる事はどうでも良かった。しかし、自分のギルドをバカにされたのには怒りを覚えていた。

 それは、ギルドのメンバー、自分の家族をバカにされた。そんな気になったからだ。

 その為、ジェスはその手に剣を転送する。騒ぎは起こしたくないが、こうなってしまったのは致し方ないと。

 ジェスの雰囲気が変った事に直感的に気付いたクリスは、その場を離れ道の端へと移動する。そして、腕を組み傍観する。ジェスをヘッポコ呼ばわりする巨漢の実力を測るかの様に。

 ジェスの雰囲気の変化に巨漢の男も気付き、舌なめずりをし口元に笑みを見せる。アックスが静かに持ち上がり、パラパラと微量の砕石が零れ落ちた。

 ただ図体がでかいだけの怪力バカでは無いと、ジェスは警戒心を強め、辺りを一瞥する。辺りを囲むのは恐らく、この巨漢のギルドのメンバーで、コイツは間違いなくそのギルドの幹部だろう。

 そう判断し、ジェスは初めから本気で行く事にした。ギルドのマスターと言っても、ジェスのギルドは小規模。その為、大手のギルドからすれば弱小と言われても仕方ないのだ。

 しかし、ジェスの実力は大手ギルドの幹部と同等かそれ以上ある。その為、クリスは全く持って心配などしていなかった。


(さて、ジェスが戦う所をジックリと見るのは初めてか……)


 腕を組むクリスはふっと息を吐いた。

 剣を構え腰を僅かに落としたジェスは、真剣な眼差しで巨漢を見据える。巨漢の男も不適な笑みを浮かべ、ジェスを見下す。そして、静かに冷たい風が吹き抜けると同時に、二人は動き出す。


「疾風!」


 踏み込んだ右足へと力を込めたジェスが、腰の位置から剣を振り抜く。その速度は目にも止まらぬ速さ。だが、巨漢の男はお構いなしにその手に持ったアックスを振り下ろす。そのアックスの刃が、放たれた光速の太刀を弾く。


「チッ!」


 疾風は基本的に速度と連撃重視で、一撃一撃は非常に軽い。重い一撃で相手を沈める力技と違い、何発も重ねて始めて威力を発揮するタイプの技。故に受け止められると言う事を想定していないのだ。

 刃を弾かれたジェスはその場をすぐに飛び退く。遅れてアックスが先程までジェスの居た場所へと落ちる。地面が砕かれ、衝撃が広がる。

 両足を地面へと着け、衝撃に耐えるジェスは、奥歯を噛み締め巨漢の男を睨む。


(どうやら、口だけではなさそうだな……)


 静かに体を起こし、ジェスは剣を構えなおす。流石に一筋縄ではいかないと気を引き締めたジェスは、静かに息を吐き出した。そして、いつも以上に真剣な表情で、巨漢の男を見据え、神経を研ぎ澄ます。

 言葉を語らず意識を集中するジェスの姿に、巨漢の男は不適に笑いアックスを持ち上げる。


「どうした? あまりの破壊力に、言葉もでねぇーか!」

「気をつけろよ。次は斬る」


 ジェスが静かに呟き腰を落とす。空気が張り詰める中、巨漢の男も静かにアックスを振り上げる。


「チャージアタック!」


 アックスの刃が光を放ち、一気に振り下ろされる。その動きを見据え、ジェスもすり足で右足を踏み出すと放つ。


「疾風! 太刀――!」


 と、そこで、ジェスは驚愕する。いつそこに現れたのか、白い軍服を着た一人の少年がジェスと巨漢の男の間に直立していた。気配もその存在すらも感じさせず、一瞬で現れたその少年の姿に誰もが驚愕する。


「どけぇぇぇっ!」


 巨漢の男が野太い声で叫ぶ。振り下ろしたアックスは止まらない。もちろん、それはジェスも同じ。予備動作からすでに放たれた刃を止める事は出来ず、横一線に刃は閃く。誰もが直撃、最悪の光景をイメージする。

 しかし、その場に響いたのは甲高い金属音。ジェスの放った剣は彼の右手に握られたシルバーの銃の銃身で受け止められ、巨漢の男の放ったアックスは左手の漆黒の手甲で受け止められていた。

 僅かに広がった衝撃は土煙を巻き上げ、静まり返ったギャラリーは、その衝撃でようやく我に返る。そして、起きる。大きな歓声が。

 一帯を呑み込むその声に、白い軍服を着た少年は、ゆっくりと頭を下げる。


「申し訳ありません。私はケリオス。ヴェルモット王国、白銀の騎士団の名において、この場での殺人行為を鎮圧します」

「け、ケリオス……て……」


 驚く巨漢の男。そして、ジェスもその表情を険しくする。白銀の騎士団と言えば、ヴェルモット王国最強の騎士団で、六人の異名を持つ騎士が各々小隊を率いている。その中でもケリオスと言えば、“静かなる殺人鬼”と呼ばれ、最も多くの実力者を葬ってきた男だった。

 童顔の幼い顔立ち、何処にでもいる様な体型。そして、何よりその存在の薄さは生まれ持った才能と言うしかなかった。

 息を呑むジェスは剣を納め、巨漢の男は引きつった笑みを浮かべアックスを背負いなおす。集まっていた見物客は、皆散り散りに散って行った。

 童顔の幼い顔に、ニコニコと笑みを浮かべるケリオスは、静かにジェスへと顔を向ける。


「争いの原因は追究しません。しかし、次は死ぬ事になりますよ? 良いですね」


 笑顔で恐ろしい事を告げるケリオスに、ジェスの背筋は凍りつく。とても同じ人間とは思えない程、彼は冷めていた。なにより、アレほどまでに恐ろしい笑顔は初めてだった。

 これが、最強と謳われる白銀の騎士団の六強の一人なのだと、ジェスは脳裏へと焼き付けた。

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