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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
フィンク大陸編
118/300

第118話 ヴェリリースの予言

 冬華達はヴェルモット王国の王都へと向かって馬車を走らせていた。

 手綱を握るのはヴェリリースの最高傑作ぬいぐるみのクマだった。ぬいぐるみの為、寒さなど感じずのん気に鼻歌を歌い続けていた。


「クマッ、クマッ、クマッ! クーマは賢い執事さん」


 そんなクマの歌声を屋根つきの土で作られた荷台で、冬華達は聞いていた。

 土で作られている為か、荷台は暖かく、落ち着いた雰囲気で冬華達三人は話し合いをしていた。

 話し合う内容は、ヴェリリースに告げられた、冬華が元の世界へと戻る方法についてだった。


「場所はルーガス大陸でしょうね」


 そう言ったクリスは、隣りに座る冬華へと視線を向ける。


「世界の中心だから、そうだと思う」

「じゃあ、白き力と黒き力ってのは何だろうな?」


 シオが金色の獣耳をピクッと動かし、真剣な顔で呟く。その言葉に冬華は唸り声を上げ、首を傾げた。すると、腕を組むクリスが僅かに俯き、右手の人差し指を下唇へと添える。


「恐らくだが、白き力と言うのは、冬華の事じゃないか?」


 真剣な表情でクリスがそう言うと、冬華は「そうなのかな?」と不安げな声をあげた。

 ヴェリリースから告げられた冬華が帰還する方法、それは――


“世界の中心。白き力と黒き力。拮抗する二つの力がぶつかり合う時、異界を繋ぐ一筋の光が昇る”


 と、言うモノだった。

 世界の中心がルーガス大陸とするなら、白き力と黒き力は何なのか、その考えで三人は悩んでいた。


「クリスが言う通り、白き力が冬華の事とするなら、その前にヴェリリースが予言した災厄に出てくる白い力も冬華を示す事になるだろ?」


 シオが思い出した様にそう告げる。すると、クリスはヴェリリースが述べた予言を思い出し、口にする。


「災厄はすでに動き出している。光はやがて闇にへと染まり、世界は混沌へと包まれる。

 黒き破壊者の目覚めにより、白き力は失われ、世界は崩壊へと進む……だったな」

「白き力は失われ……て、事は、冬華が死ぬって事か?」

「エッ? そ、それって……」


 シオの言葉に冬華は目を丸くする。流石にそれは極端じゃないか、そう言おうとしたが、すぐにヴェリリースの言葉を思い出す。


“この大陸でこの中の誰かが死ぬ”


 その言葉が脳裏を過ぎり、冬華は唇を噛み締めた。

 ヴェリリースの予言が確かで、白き力が冬華を指すなら、間違いなくこの地で死ぬのは冬華だ。そして、その死は同時にこの世界の崩壊を示す事になる。

 その為、冬華は険しい表情を浮かべ、拳を握り締め俯く。自分が死ぬとこの世界が終わる。それが、英雄として召喚された自分に背負わされた運命だと、冬華は改めて理解した。

 俯く冬華に、クリスは複雑そうな表情を浮かべる。自分が「白き力は冬華」と、言ってしまった手前、冬華に掛ける言葉が見つからなかった。

 クリスへとジト目を向けるシオは、呆れた様にため息を吐き頭を左右に振った。シオの態度にクリスはムッとした表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべ冬華へと顔を向ける。


「冬華が死ぬと決まったわけじゃありませんよ。もしかすると、白き力を失ったと言うのは、冬華が元の世界に戻ったと――」


 と、そこでクリスが言葉を呑む。

 そう。気付いたのだ。世界が崩壊すると言う事実は変らない。冬華が生きていようが死んでいようが、白き力が冬華を指すなら、冬華が居なくなればこの世界の崩壊が始まる。言わば冬華の所為で世界が終わると言う事を示していた。

 勝手に呼び出して、その命運を握らされる冬華の気持ちを考えると居た堪れなくなった。

 複雑そうな表情をする冬華は、ふっと息を吐き困った様に笑う。


「結局、私が居なくなっちゃうと、この世界は崩壊しちゃうんだよね……」

「そう決まったわけじゃ……」


 申し訳なさそうなクリスに、冬華は微笑する。


「ありがとう。大丈夫だよ。私は。だから、気にしないで」

「まぁ、冬華がそう言うなら、話を戻すけど、黒き力ってのは誰の事だ? 黒き力イコール黒き破壊者でいいのか?」


 強引に逸れた話を戻すシオに、クリスは半ば呆れたが、それと同時に感謝する。空気を読まないシオだからこそ、こうして話を変える事が出来たのだ。

 シオの問いに、冬華は腕を組み頭を捻る。シオの言う通り、黒き力がそのまま黒き破壊者となるのは、違う気がした。


「私は、違う気がする。黒き力は黒き破壊者とは別物だと。それに、同一のモノならワザワザ違う呼び方で呼んだりしないと思うし……」


 自信なさげな冬華を援護する様にクリスが告げる。


「それに、黒き破壊者の目覚めで、白き力が失われる、と言っていたんだ。違うモノと過程していた方がいいだろう」

「そっか。じゃあ、今はまだ黒き破壊者は存在していない。そう言う事でいいのか?」


 一度頷いたシオがまた複雑そうな表情でそう尋ねる。確かに、予言では黒き破壊者が目覚めて、白き力――現状、冬華が失われると言う事になる。今、ここに冬華が居ると言う事は、まだ目を覚ましていないと言う事。

 そして、この大陸でこの中の誰かが死ぬ。その予言が冬華を指しているなら、この大陸でその黒き破壊者が目覚める。それは、世界の崩壊を意味する。

 その答えに三人の表情は曇る。


「でも、ご主人様は言ってましたよ? 抗えば未来は変えられる。運命は不透明で不確かなモノ。

 クマには難しくてよく分からなかったんですが、歯車はほんの些細な傷で崩壊する事もあり、ただ一つの歯車で大きく動きを変える事もあるそうですよ」


 荷台の前から聞こえたクマの声に、冬華も、クリスも、シオも、顔を上げる。クマの言っている事が何となくだが分かった。

 ヴェリリースは伝えたかった。運命は定まっているものではない。抗い続ければ、結果は変る。些細な出来事一つだけでも、最悪の未来に堕ちる事もあるが、明るい未来へと続く事もある。彼女の真意に気付き、三人はほぼ同時に息を吐く。


「まぁ、オイラ達は諦めず、抗い続けろって事だな」

「ああ。私は最後まで冬華を守る」

「ありがとう。私も、全力で頑張る。この世界が崩壊しないように!」


 胸の前で拳を握り、気合を入れる冬華に、クリスとシオは自然と笑みを零した。久しぶりに冬華のこんな姿を見た気がした。



 場所は変り――悪魔の洋館。

 ヴェリリースは自室の豪勢な椅子に腰掛、キセルを吹かせていた。輪を描く煙を何度も吹くヴェリリースに、紅茶をトレイに乗せやってきたデュークが困った様な笑みを浮かべる。


「お師匠様。もうお歳なのですから、もう少しお体に気を使ってください」


 不衛生に伸ばされた長い髪で目が覆われている為、その表情は詳しく読み取れない。

 ヴェリリースは銜えたキセルを口から離すと、静かにリング型の煙を吐いた。


「まぁ、いいじゃないか。長く生き過ぎた。私の教え子達も、皆立派になった。私もそろそろ――」

「何を言ってるんですか? まだまだ生きてもらわないと、僕が困ります」


 弱気な発言をするヴェリリースに、困り顔でデュークが告げる。また、何かの冗談だと、そう思っていたのだ。

 しかし、ヴェリリースの表情には陰りが見え、デュークもそれが冗談で無い事を悟る。そして、僅かに目を伏せると、静かに口を開く。


「よかったのですか?」

「何がだい?」

「予言の事です。もっと詳しく教えてあげた方が――」


 デュークの言葉をヴェリリースは穏やかな笑みで制すると、落ち着いた口調で語る。


「確かに、私が彼らに教える事は簡単だ。何をどうすべきなのか。けどね。若人は悩むべきだ。

 悩み苦しみ、手探りで自らの道を探し歩むべきなんだよ。人に与えられた道を行くのは簡単だが、至極つまらないものさ」

「しかし……十五年前は、それで失敗したじゃないですか。同じ過ちを――」

「アレは失敗なんかじゃない」


 ヴェリリースがまたキセルを口へと銜え、やがてリング型の煙は吐き出す。


「あの二人は運命を変えた。大きく結果が変る事はなかったけどね。彼は彼女に記憶を刻み込み、彼女は失っていた記憶を取り戻した。

 それは、ほんの些細な事かも知れない。しかし、全く意味の無い事ではないんだよ」


 穏やかな表情を向けるヴェリリースに、デュークは深く頭を下げる。


「申し訳ありませんでした。お師匠様に口答えをしてしまって」

「いいさ。気にする事は無い。お前は私の最後の弟子になるだろう。だからこそ、疑問があればぶつけてきなさい。

 私はお前の疑問に全て答えてあげよう。そして、私の全てをお前に託そう」

「ありがたきお言葉です」


 デュークが顔をあげ、今度は軽く頭を下げた。

 微笑するヴェリリースは窓の外へと目を向けると、静かに椅子から立ち上がる。


「さて、そろそろだね。行くとするかい」

「はい。では、準備の方を――」

「ああ。全く……一番出来の悪かった弟子のクセに……人使いの荒い奴だよ」


 ヴェリリースは不満げにそう口にするも、何処か嬉しそうな表情で、静かに部屋を後にした。

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