表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
ゼバーリック大陸編
11/300

第11話 クリス対魔族の少年

 沈黙が続く。

 突然のクリスの言葉に、周囲には緊迫した空気が流れる。

 若い兵士は腰の剣を静かに抜き、震えながらもその柄を両手で握りクリスを見据える。幾ら国王であるザビットのめいでも、人を殺すなどその若い兵士には無理だった。それに、彼もクリスには世話になり、恩義を感じている。いや、彼だけではない。現在、城内に残る全ての兵がクリスを尊敬し、恩義を感じている。それほどまで、クリスはこの国の為に尽くしていたのだ。

 だから、兵士は剣を下ろすと、そのまま剣を床へと落とした。


「す、すいません。私には出来ません……」

「なっ! 貴様!」


 ザビットが若い兵士を殴り飛ばし、床に転がった剣を拾い上げ、切っ先をクリスへと向けた。だが、クリスは顔色一つ変えず、ただザビットの目を真っ直ぐに睨む。あまりの迫力に後退り、ザビットは息を呑む。

 圧倒的な威圧感に、クリスの真横に立つ冬華も後退り、壁に背中をぶつけた。それ程まで、クリスは本気だった。

 静寂の中、冬華にだけ聞こえる声が、窓の向こうから響く。


『と、冬華様! こんな所で何してるんですか! 急いでください!』


 せかす様に窓の外で声を上げるセルフィーユに、冬華が窓の外へ目を向けると、一人の少年と視線がぶつかった。金色の髪をなびかせ、金色の眼光を輝かせる少年。その口元が僅かに緩み、小さな牙が見えた。


(もしかして……)


 冬華は気付く。あの少年が魔族だと。だが、殆ど人間と変わらぬその容姿に、冬華は戸惑う。魔族と言うからもっと化物じみた容姿を想像していたからだ。

 魔族の少年は、襲い来る兵士達をなぎ払う様に拳を振るう。一撃で鉄の鎧が砕け、兵士達は血を吐き倒れる。圧倒的な力の前にひれ伏すしかなかった。


「嘘ッ!」


 冬華が叫び窓から離れると、セルフィーユは壁をすり抜け冬華の前へと出て両手を前に出す。それから数秒遅れ、窓の外に影が映る。刹那、クリスがそれに気付き体を反転させ、何処からとも無く一本の剣を抜く。刃の両面の中心に赤い一本線が描かれた片刃の剣を、横一線に振りぬくと同時に、窓ガラスが砕かれ、破片が廊下へと転がる。

 刃は空を切り、熱風が廊下を抜きぬけ、砕けた窓から冷風が流れ込む。ガラス片がクリスの頬を裂き血が滲み、突然の事にザビットは腰を抜かしていた。


「あんたは、中々やるみたいだな」


 窓枠の上の方を掴み、体を浮かせクリスの一撃を避けた少年が、廊下に散らばったガラス片の上へと飛び降りた。ガラス片が砕ける音が僅かに聞こえ、靴底がそれをすり潰す。ジリッと右足を退いたクリスは、振り抜いた剣を構え直し、静止する。

 鋭い眼光が少年を見据え、構えた剣の刃が熱気を帯びる。僅かな湯気が周囲に漂い、静止していたクリスの体が僅かに動く。

 その僅かな動きに合わせる様に少年はその場に屈み込んだ。


「なっ!」


 驚きの声を上げるクリスの放った一閃は、少年の髪を掠め周囲にまたも熱風だけを広げた。

 そして、剣を振り抜いた直後のがら空きになった左脇腹に、少年は屈んだ体制から鋭い蹴りを見舞う。甲高い金属音が響き、その衝撃でクリスの体が後方へとよろめく。


「チッ! やっぱ、あんたつえぇ奴だな」


 蹴ったと同時に後方へと飛び退き、窓枠へと着地した少年がそう呟き、頬から流れる血を左手で拭った。蹴りを受け後方へとよろめきながらも、クリスは少年に対し突きを見舞っていた。少年もその意表を突いた攻撃に反応が遅れ、刃が頬を掠めたのだった。

 互いに間合いを取り、睨み合う。冬華はそんな二人の戦いぶりを見てあたふたしていた。これ程まで次元が違う戦いなのかと、正直驚きを隠せなかった。

 身体能力では完全にクリスを上回る少年。これが、魔族の力なのだろう。突きを避けようとして、威力が弱まったはずの蹴りで、クリスの赤い鎧には亀裂が走っていた。


「ど、ど、どうしよう? セルフィーユ?」

『わ、私に言われましても……今は、様子を見ましょう!』


 力強くそう言いながらもいつでも絶対防壁が、使える様にと、両手を前に出すセルフィーユに、冬華は「そ、そうだね」と、苦笑した。今の自分には何も出来ないとわかっていたからだ。

 きっと戦いに参加しても、クリスの足を引っ張る事になる。だから、握った拳を震わせながら、ジッとその戦況を見守る事にした。

 続く沈黙。

 クリスと少年の動きが止まり数分が過ぎようとしていた。

 割れた窓から入り込む冷たい風と、クリスの剣から発せられる熱が混ざり合い廊下を吹き抜ける。あまりの緊迫した空気に、冬華は思わず息を呑む。その瞬間、クリスが動く。

 突如として、刃が炎を纏い、それがクリスの頭上へとかざされる。


「紅蓮一刀!」

「――!?」


 クリスの声に反応する様に更に火力を増す。少年も流石にヤバイと思ったのか、クリスを見たまま硬直していた。だが、それは恐怖のあまり硬直したのではない。これ程までの使い手と出会えた事を、心の底から嬉しかったからだった。


「その一撃で、オイラを殺す気で来い!」


 口元に笑みを浮かべ、叫び窓枠を蹴りクリスへと突っ込む。自ら突っ込んできた少年に、クリスは奥歯を噛み締め、右足を踏み込むと、叫ぶ。


火斬かざん!」


 地面に刃を叩きつける様に振り下ろす。炎を纏った刃が突っ込んできた少年へと一気に襲い掛かるが、その刃は僅かに逸れ、切っ先が床を叩いた。刹那、とぐろを巻きながら火柱が吹き上がり、床と天井を突き破った。

 剣を振り下ろしたままのクリスの赤い鎧が砕けて散った。右膝が床に落ち、右手を床に着いた。


「一直線に振り下ろされた刃って、側面を叩くと簡単に軌道を変えられるんだぜ。まぁ、その代償も大きいけどな」


 と、少年は焼け爛れた右拳を震わせる。

 あの瞬間、少年は高熱の炎を纏ったクリスの剣の側面を右拳で殴り、軌道を逸らしたのだった。その時右拳は炎の熱で完全に焼け爛れてしまったと言うわけだ。

 右拳に息を吹き掛ける少年は、クリスから距離を取り、冬華とセルフィーユの方に目を向ける。


「あんたが、召喚されたって言う英雄か?」

「そ、そうだけど……何?」


 少年の言葉に、堂々と胸を張り答えると、少年は鼻をヒクヒクさせ、


「あんたは、臭い」


 と、眉間にシワを寄せた。

 その言葉にみるみる顔を赤くした冬華は、両拳を突き上げると、


「なっ! ちゃ、ちゃんとお風呂入ってるわよ! 失礼じゃない!」


 と、大声で怒鳴った。だが、少年はその声を無視し、指を差す。冬華の少し前に立つセルフィーユに対して。


「お前は、何も匂わない。けど、何か変な感じがする」

『えっ?』

「何を……」


 驚きの声を上げるセルフィーユだが、ザビットと若い兵士は少年の言葉に対し、不思議そうな表情を浮かべる。彼らには、セルフィーユの姿は見えていないからだ。ゆえに、少年の指は冬華を指差している様に映っているのだ。

 冬華もセルフィーユもその少年の言葉に驚いたが、一番驚いたのはクリスだった。


「貴様には、見えてるのか!」

「……はぁ? 何言ってんだ? 見えるに決まってるだろ。そこに存在してるんだから」


 クリスの言葉に、当然じゃないかと言わんばかりにそう返答した少年は、馬鹿にしてるのかと、言いたげな目をクリスへと向けた。と、怒る少年は足元への注意がおろそかになり、窓枠から左足が滑った。


「あっ!」


 思わず上げた声だけを残し、窓の外へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ