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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
108/300

第108話 情報

 アレから五日が過ぎた。

 クレリンス大陸、リックバード島は静まり返っていた。

 この島の領主である天鎧の葬儀が、三日三晩続いていた。

 国民は皆黒の衣服に身を包み、涙を流す。それ程、人々に慕われ、愛された人物だった。

 島のいたる所に冬華の放ったゴッドブレスの傷跡が残され、一層重苦しい空気をかもし出していた。

 暗く静けさ漂うその町を、クリスは見回っていた。現在、このリックバードには四十万近い人が集まっていた。空間転移でこの島に来た魔族と、元々この島で暮らしていた人達合わせた数だ。船は全て破壊されていた為、移動する手段がなかった。

 それに、魔族達も操られていたとは言え、この島を襲った事実と自分達を救ってくれた冬華への感謝から、天鎧の葬儀に参加していた。いや、それだけでは無い。八会団の人間の中では最も魔族から信頼されていた天鎧の死を、魔族も皆悲しんでいたのだ。

 漂う空気にクリスの足取りは自然と重くなる。結局、何も出来なかった。そうクリスは思い、後悔していた。あの日、クリスが港へと辿り着いたのは、光の剣が降り注いだ後だった。砕かれ滅茶苦茶になった地面に横たわる冬華に、クリスはただ駆け寄り抱き上げる事しか出来なかった。小さくか弱い彼女の体は、傷だけでボロボロだった。鼻から、口から、至る所に残された傷から血を流し、弱々しい呼吸を繰り返す冬華の姿に、クリスは唇を噛み締めるだけ。その後、何もする事は出来なかった。

 結局、冬華の治療を行ったのは、このリックバードの聖女達によって。ただ、その傷は酷く、十人掛りで二十四時間体制で癒し続けた。

 治療を始めた当初、冬華の悲鳴の様な声が屋敷中――いや、島中に響き渡っていた。痛々しいその声に、町の人々はただ息を呑んでいた。そして、魔族は皆唇を噛み締め、悔しさを滲ませる。冬華が華奢な女の子だと知り、そんな彼女が自分達を助ける為に今こんな状態になっているのだと分かっていたからだ。

 その冬華の声も一日経つと嗄れ、屋敷にだけ獣の様な呻き声だけが響いていた。今もまだ目を覚まさない冬華の姿を見ていられなくて、クリスはこうして見回りをしていたのだ。


 ゆっくりと町を見回るクリスは、不意に足を止めた。その視線の先に映るのはレッドだった。赤紫色の髪を揺らし、何か小さな機械を耳に当て話をしていた。

 ただ、話している相手の姿は無く、壁に向かって独り言の様にレッドは声を上げる。その姿にクリスは訝しげな表情を浮かべ、足音を立てず近付く。


「えぇ。分かりました。そちらも、お気をつけて」


 レッドがそう告げ、耳に当てていた機械を閉じた。そして、深く吐息を漏らす。


「ふぅ……全く、彼には困ったモノです……」


 疲れた様子のレッドの背後に忍び寄ったクリスは、その背にジト目を向け、静かに口を開く。


「何をしているんだ? 貴様は?」

「ぬわっ!」


 驚き声を上げたレッドが飛び上がり、クリスへと振り返った。驚き目を見開くレッドは、機械を持った右手を胸にあて、荒い呼吸を繰り返す。

 レッドの心臓は張り裂けそうな程鼓動を打つ。呼吸を乱しクリスの顔をマジマジと見据えるレッドは、数秒ほど硬直していた。

 そんなレッドへとジト目を向けるクリスは、右手を腰にあて左手で白銀の髪を掻き揚げる。


「で、何をしていたんだ?」


 澄んだ黒い瞳を向けるクリスに、レッドはようやく落ち着きを取り戻し、苦笑し答えた。


「い、いえ、ちょっと、知人に連絡を……」

「連絡? その小さい機械でか?」

「え、えぇ……」


 戸惑いながらそう告げるレッドに、クリスは鼻から息を吐いた。クリスのあからさまな疑いの眼差しに、レッドは左手で頭を掻く。

 暫し沈黙が漂った後、クリスは深くため息を吐き、肩の力を抜いた。ここでレッドを疑っても仕方ないと、クリスは思ったのだ。


「それで、その機械は何だ?」


 少々、疲れた声でそう尋ねるクリスに、レッドは右手に持った小型の機械を見せる。


「これですか?」

「ああ。何でそんな小さな機械で通信が出来るんだ?」


 レッドの右手に握られた小型機械へとジト目を向けるクリス。どうにも信じがたかった。こんな小さなモノで通信が出来ると言う事が。

 その為、クリスの目はやはり何処か疑念を抱いていた。

 しかし、レッドもこれを知人に渡されただけで、詳しい原理を知らない。ただ、ちゃんと通信出来るのはつい先程実証済みな為、レッドは困り顔で告げる。


「原理は分かりませんが、一応、通信は出来る様ですよ」


 苦笑するレッドに、クリスは腕を組む。


「でも、そんな機械、今までなかっただろ? 一体、何処で開発されたんだ?」


 腕を組んだクリスが横目でレッドを見据える。クリスがそう尋ねたのには理由があった。こう言う機器を作るのは最先端の技術力を誇るミラージュ王国だが、国王が変り色々と変化を見せるあの王国ではこの様なモノを開発する事はないだろうと、クリスは考えていたのだ。

 レッドもクリスと同じ考えだったのだろう。腕を組み首を傾げる。


「それが、僕にも分からないんですよ。この大陸に来る前に寄ったギルドに届いていたんです。使い方と注意書きを添えて」

「ギルドに? と、言う事は……お前の知り合いはギルド関係者か?」

「えっ? あぁ……ま、まぁ、そう……なる……んですかね?」


 何処かぎこちなくそう返答したレッドに、クリスは怪訝そうな表情を向ける。何か隠している様に思えて仕方なかったが、クリスは何も聞かなかった。何となく面倒臭い事になりそうだと、思ったのだ。

 何も聞かないクリスに、レッドも苦笑し左手で頭を掻いた。


「す、すみません。詳しいことは話せなくて……」

「いや、いい。私もそこまで気になっているわけじゃないから」

「そ、そうですか?」

「ああ。それより、一体、何の話をしたんだ?」


 機器の事よりも、話した内容の事を気にし、クリスがそう尋ねた。

 すると、レッドは小さく息を吐き、真剣な顔で口を開く。


「実は、五日前に、西のバレリア大陸でも事件が起きたそうです」

「バレリアで? 一体、何があったんだ?」


 一瞬、驚きの表情を見せたクリスだったが、すぐにいつもの表情へと戻っていた。ほんの一瞬の事だった為、レッドがそれに気付く事は無く話を進める。


「ラフト王国の国王バルバスが死んだそうです」

「暴君バルバスが……死んだ? 何かの冗談か?」


 目を細めるクリスに、レッドは肩を竦めた。


「冗談でも何でも無いですよ。ある男の弾丸で頭を撃ち抜かれた様ですから」

「弾丸を頭に……まぁ、それじゃあ確実か……」


 腕を組み小さく頷くクリスは渋い表情を浮かべる。


「幾ら暴君と呼ばれた最強の男でも、頭を撃たれたらな……」

「そういえば、クリスさんは、バレリアの出身でしたね」

「ああ……まぁ、あんまりいい思い出は無いがな」


 クリスは複雑そうな表情だった。

 クリスは西のバレリア出身で、あの地で母は亡くなった。だから、思い出したくない場所だった。もちろん、暴君であるバルバスの事も良く知っている。その独裁振りも、その強さも。

 その暴君が死んだと言う事が、クリスには信じがたかった。


「しかし……あの暴君が死んだとは……」


 ボソリと呟いたクリスに、レッドも小さく頷く。


「確かに、殺しても死にそうに無い人でしたね」

「……知ってるのか? 暴君を?」


 レッドの言葉に、クリスがそう尋ねた。すると、レッドは苦笑し頭を掻く。


「まぁ、僕も旅人ですから……何度かバレリアにも足を運んでまして……」


 その引きつった笑みに、クリスは悟る。彼も相当嫌な目にあったのだと。

 あの暴君の事だ来る者は嫌な思いをさせられる。クリスがあの国に対しいい思い出が無いのは、それも影響していた。

 その事を知っている為、クリスは小さくため息を吐き、レッドの肩を叩いた。


「お前も、大変だな」

「は、はは……ま、まぁ、お互いあの大陸には良い思い出が無いみたいですね」


 苦笑しそう告げたレッドに、クリスも苦笑し大きなため息を吐いた。

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