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ゲート ~白き英雄~  作者: 閃天
クレリンス大陸編
104/300

第104話 光り輝く剣 ―各地の戦い―

 不気味なオーラを放つ巨大な門。

 それを、苦しげに見上げる冬華は、背筋に嫌な汗を掻いていた。本能的にその門が自分にとって危険なモノだと分かったのだ。

 奥歯を噛み締め、意識を集中する冬華は、激しい頭痛と吐き気に表情をしかめた。目を細め、噛み締めた歯の合間から熱気の篭った吐息を漏らす。

 あの門が何にしろ、今、冬華に出来るのは、この場にいる人数分の光の剣を生み出す事だけだった。だから、意識を集中し、全ての神力を注ぐ。

 次々と輝く剣が空を彩る。美しいその剣を見上げ、魔術師の少女は不適な笑みを浮かべ、召喚した羅生門へと歩み寄る。ゆっくりとした静かな足音が冬華にはハッキリ聞こえた。それは、神力により五感が研ぎ澄まされた所為だろう。

 鋭い眼差しを向ける冬華に、魔術師は静かに羅生門の柱に手を着き告げる。


「開門まで十分。さぁ、それまでに、どれだけ剣を生み出せるかな」

「ぐっ……」


 声を漏らす冬華の表情は苦悶に歪む。直感的にあの門が開門する前に、全てを終わらせなければならないと、冬華は思った。だから、冬華は全神経を光の剣を生み出す事に集中し、堅く瞼を閉じた。



 静けさ漂う東の森林で、クリス、龍馬、秋雨の三人は足を止め、空に浮かぶ光の剣を見据えていた。


「な、何だアレ……」


 龍馬が驚愕し、思わずもらした言葉に、クリスは表情をしかめた。それが何を意味するのか、クリスは分かっていたからだ。

 険しい表情を見せるクリスだが、すぐにその視線は魔人族、長のレオルへと向く。冬華の事は気になるが、クリスには余裕がなかった。

 すでに、龍馬、秋雨の部隊の半数以上が戦闘不能にされていた。それに比べ、魔人族は一向に減る兆しが見えない。主力であるクリス、龍馬、秋雨の三人が、レオル一人に抑え込まれていると言うのがその原因だった。

 すでにどれ程魔力を消費させたかは定かではない。だが、それでも、レオルの顔に疲れなど一切見えなかった。

 一方で、クリス達三人はすでに呼吸が上がっていた。レオルの強力な魔術を相殺する為に、三人も大分精神力を消費していたのだ。

 肩で息をするクリスは、白銀の髪を揺らし肩を激しく上下させる。目の前にいるレオルをどうにかして、冬華の下へと急がなくてはと、クリスに焦りが見えていた。


「何を焦ってるんだ?」


 肩を上下させる龍馬が、灰色の長い髪を掻き揚げクリスへと尋ねる。龍馬の黒い瞳が斜め前に立つクリスの背へと向けられていた。

 呼吸を乱す秋雨は、そんな二人の声に耳を傾けつつも、レオルへと真っ直ぐに目を向ける。自分が口を出す事ではないと分かっていたのだ。

 そんな三人へとレオルが右手を向け、その手の平に魔力を圧縮した。


「来ます!」


 秋雨の叫び声に、龍馬は舌打ちをしレオルへと目を向ける。

 圧縮された魔力を風の属性へと変化させ、レオルは静かに口を開く。


「ウィングカッター」

「風なら、俺がやる!」


 踏み出した龍馬がそう叫び、長刀を頭上に構える。


「紅蓮一刀――」


 精神力を刃へと集めると、その刃を炎が包む。そして、迫る風の刃へとその剣を振り下ろす。


「火斬!」


 燃え上がる剣が風の刃と衝突し、激しい爆発が起きる。炎は風の刃を焼き払い、風の刃は長刀ごと龍馬の体を弾き返した。

 後方へと大きく弾かれた龍馬は、両足を地面に踏ん張り、吹き飛ぶのを堪える。

 何とか相殺したが、威力が格段に上がっていた。その為、龍馬の腕は痺れ、長刀の刃も震えていた。

 表情を強張らせる龍馬に対し、クリスは唇を噛み締め静かに告げる。


「あの剣は冬華が出した、神の力によるものだ」

「冬華? 神の力? いきなり何を――」

「冬華と言うのは英雄の事だ。神の力は、その英雄のみが使えると言う力の事」


 秋雨がそう返答すると、龍馬は複雑そうな表情を浮かべ、「し、知ってたから!」と、強がった。

 そんな二人にクリスは更に告げる。この力のリスクを。


「なっ! んな危険な力を使用してるってのか?」

「しかも、ここに居る魔族達全員を助けるつもりと? 幾らなんでも無謀だ」


 驚く龍馬に、冷静に秋雨がそう言う。もちろん、クリスも分かっている。それがどれだけ無謀で、どれだけ危険なモノかと言う事を。

 だからこそ、二人に深く頭を下げる。その行動に龍馬は驚き、秋雨は訝しげな表情を浮かべた。


「お、お前が頭を下げるなんて、不気味だな」

「黙れ。今は、お前と言い争っている場合じゃない」


 そうクリスは告げた後、更に言葉を続ける。


「私は、冬華の所へ行く。すまんが、ここは任せる」


 クリスの言葉に、龍馬と秋雨はキョトンとした表情を浮かべる。やがて、龍馬は爆笑し、秋雨も小さく笑った。

 二人の行動にクリスは訝しげに顔をあげ、二人へとジト目を向ける。


「な、何だ?」

「いやな。まさか、んな事で頭を下げられるとは思ってなかったからな」

「そうですね。元々、ここを任されたのは私達ですから、あなたが頭を下げる必要は無いんですよ」


 龍馬と秋雨の二人の言葉に、クリスは複雑そうな表情を浮かべる。

 すると、龍馬はクリスへと真剣な顔を向けた。


「行って来いよ。ここは俺達が何とかする」


 そんな真剣な龍馬の顔に、クリスは鼻から静かに息を吐き、口元に薄らと笑みを浮かべた。


「…………ああ。任せる」


 いつに無く頼りになる龍馬へとそう告げ、クリスは走り出した。それに反応する様にレオンも動き出す。だが、その前に龍馬と秋雨が立ちはだかる。


「わりぃーな。ここから先は通せねぇ」

「あなたの相手はもとより私達ですよ」


 道を塞ぐ二人に対し、レオンは鼻筋にシワを寄せ咆哮を轟かせた。



 西の砂浜で獣魔族と戦うレッド、葉泉、雪夜の三人も、空に突如として現れた光り輝く剣に、目を向けていた。

 両刃の剣を片手に握るレッドは、その剣の出現に嫌な予感を覚え奥歯を噛み締める。

 一方で、葉泉と雪夜は突然出現した刃を警戒していた。魔族側のなんらかの攻撃呪文。そう考えていたのだ。

 リボルバー式の銃を空へと向けた雪夜は引き金を引いた。銃声が轟き、弾丸が空へと昇る。だが、それが光り輝く剣へと届く事はなかった。それ程、高い位置に剣は浮かんでいるのだ。


「あかん……。弾丸一発無駄にしてしもうた……」


 雪夜がそう呟くと、葉泉が呆れた様な眼差しを彼女へと向けた。


「雪夜。リボルバーの弾丸は数が限られてるんだ。無駄に使うなよ」


 黒髪を揺らし静かにそう言う葉泉に、「せやな」と雪夜は穏やかに微笑する。

 妙に和む二人に対し、レッドだけが真剣な表情で辺りを警戒していた。

 こっちもすでに軍の半数がやれていた。しかも、獣魔族の長、ガウル一人に。

 何故か、ガウルはレッド、葉泉、雪夜とは直接戦わず、他の兵を次々を襲っていた。一体、何が目的なのか良く分からないが、三人はその動きに翻弄されていた。

 赤紫の髪を潮風に揺らすレッドは、眉間にシワを寄せる。その瞳は往来し、砂浜を駆けるガウルの動きを追う。

 黙りこむレッドの姿に、葉泉は訝しげな表情を浮かべた。


「おい。さっきからずっとそうしているが、何か策でもあるのか?」

「策は無い。ただ、今、ガウルの動きを止めれるのは僕だけだから――」


 レッドがそう言い放ち駆ける。ガウルへ向かって。

 その動きにガウルも気付き、すぐにレッドから距離を取る。


「くっ!」


 この繰り返しだった。まるで、時間を稼いでいる様にも感じる。何を企んでいるのか分からず、レッドは僅かながら焦りを見せていた。

 リボルバー式の銃を構える雪夜は、静かに息を吐き、引き金へと指を掛ける。その動きに葉泉はジト目を向け吐息を漏らした。


「雪夜」

「わかっとるよ。でもなぁ、いつ隙が出来るかわからへんやろ?」


 ふふっと、艶かしく微笑む雪夜に、葉泉は吐息を漏らす。


「そうだな……ジッとしていても仕方ないしな」


 葉泉も矢を弓へと掛け構えた。



 北の密林で和服の男と交戦するシオもまた、その現象に空を見上げていた。拳を握り、険しい表情を浮かべるシオは、「くっ」と声を漏らす。


「あのバカ! 何考えてんだ!」


 声を荒げるシオに、和服の男は肩に刀を担ぎ不適に笑う。


「どうやら、計画は第二段階に移行したみたいだな」

「第二段階?」


 衣服の所々が裂け、血を流すシオが眉間にシワを寄せ呟く。

 すると、和服の男は左手を腰にあて肩を揺らし笑った。


「くくくっ……下手したら死ぬかもな」

「死ぬ? 何の話だ?」

「テメェーらの大切な――」


 男が全てを言い終える前に、シオも気付く。そして、その拳で横に並ぶ大木を殴打し、真っ二つにへし折った。

 大木が崩れ落ちる音だけが森の中へと響き、男は鋭い眼差しをシオへと向ける。二人の視線が交錯し、数秒が過ぎた。


「冬華に何をした」

「残念だが、俺は何もしてねぇよ。まぁ、してる奴は知ってる奴だけどな」


 肩を軽く竦めると、和服の男は不適な笑みを見せる。そんな男に、シオは表情一つ変えず、拳だけを強く握り締める。

 奥歯を噛み締め、怒りを鎮めようとシオは深く息を吐く。冷静に状況を判断し、行動しなければならないと、シオ自身分かっていた。だが、何故だか脳裏に過ぎる嫌な予感。冬華の苦しむ顔だけが頭を巡る。

 瞼を閉じ、小さく俯くシオの奥歯が軋む。それ程まで強い力で噛み締めていた。


「さぁ、どうした? 早く続きをやろうぜ?」

「くっ!」


 身を翻すシオが男へと背を向け走り出す。だが、その瞬間にシオの右足脹脛に激痛が走り、鮮血が散る。


「ぐっ!」


 表情を歪め、シオは地面へと倒れた。鋭利な刃物に裂かれた様に裂けた脹脛は、鮮血を流し痙攣を起こしていた。


「逃げるなよ。俺の相手はテメェだろ」


 不適に笑みを浮かべ、和服の男は刀に付いた血を払う。そして、冷めたその目でシオを見下し、薄気味悪い笑みを浮かべた。

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