魔の追憶
下書きに埋もれて投稿忘れてた短編です
『魔獣発生。魔獣発生。近隣住民の皆様は自衛隊の指示に従い、速やかに避難してください』
けたたましいサイレンと共に避難指示音声が崩壊し燃え盛る町中に鳴り響く。炎の中心にいるのは20mはありそうな化物だ。超高温の空気は空高くまで昇ってきて肺の奥を鋭く焼き、我々討伐隊の戦意を削ぐ。しかし、私の心に恐怖はない。あるのは民間人を守ろうとする責任感と、化物をこの手で殺せる喜びだけだ。
昂る感情を抑えて無線機に手をかけた。
「総員、覚悟はいいな?」
「「「「「は!!!!!」」」」」
「討伐開始だ」
宣言と同時に奴の脳天へと飛び降りた。
「ご苦労だった。皆のおかげでまた一体魔獣の討伐に成功した。感謝する。今日はゆっくり休むといい」
「「「「「了!」」」」」
隊員たちに労いの言葉をかけて自室へと戻る。隊長になってもう3年ほど経つが、やはり隊員達の前に立つのは慣れない。それにしても…
「あれから17年、か……」
***
今から20年前2月19日、小型隕石が都内某所に落下した。幸い都心への被害はほぼなく、ちょっとしたニュース程度で終わるはずだった。しかし、隕石の調査に向かった隊員が全員行方不明になったことで事態は急変した。すぐさま調査用のドローンが派遣され、現場で映像に映ったのは一人の男だった。
『縺ェ繧薙□縺薙l?溽┌邱壼シ上?譏?蜒丞女菫。讖溘°縺ェ?滄浹螢ー縺悟?縺」縺ヲ繧九?縺九?繧上°繧薙↑縺?¢縺ゥ縺ィ繧翫≠縺医★縺?>縺九?ゅ○縺」縺九¥縺薙%縺ョ險?隱槭r繝ゥ繝シ繝九Φ繧ー縺励◆繧上¢縺?縺励?こんにちは。僕の名前は邱玖牡縺ョ譛。あれ?うまく発音されないな。この世界の言語じゃ僕の名前を認識できないらしい。まあそれはどうでもいいかな。今日は君たちにお知らせがあって来たんだ。僕はこの世界の進化度を調査する為に来たんだ。進化度はその名の通り文明の発展度を示すものだよ。それを測るためにこれから2000種類の魔獣を1体ずつ放出する。全ての怪獣を倒すことができたらこの世界は守られる。できなければこの世界は消滅する。調査の開始は3年後から。場所はこの国のどこかで。皆生きたかったら頑張ってね。それじゃ』
無機質なその言葉と共に男は突如として消え去り、直後に隕石が爆発して辺り一帯は焦土と化した。
この出来事はすぐに世界中に拡散され、各国で様々な憶測が飛び交い、世界は混沌という言葉でしか表せない状態に陥った。
そして、それと同時に世界各地で不可解な現象が発生した。突然人が発光し、小さな爆発が起きるという事件が世界各地で報告された。これらの事件には共通していることがあった。それは、発光して爆発の中心になった人達は全員無事だったことと、発光の瞬間に強い感情を持っていたことだった。各国はこれらの事件と観測された通称「ある男」に関係があるとして協力して調査に取り掛かった。その結果、感情の発露と共にエネルギーが発生していることが分かった。そのエネルギーは感情によって性質を変え様々な事象を引き起こす。この夢のような力は「魔力」と呼ばれ、それらによって起きる事象を「魔法」と名付けられた。
世界は魔法の力に可能性を見出し、迫りくる危機に向けて準備を進めていった。魔力と魔法をさらに研究して漫画やアニメのような力を生み出し、世界各地から魔力を持つ者を日本に集めて魔法を使えるように鍛えた。
そして来たる17年前の2月19日、ついにその日が来た。かつて隕石が落下した場所の空間が割れ、中から巨大な化物が現れた。待機していた自衛隊のヘリが化物に向けてミサイルを放つが、欠片も傷がつく様子がない。「ある男」が魔獣と呼んだそれはしばらく静止した後突然走り出し、一瞬のうちに都市を瓦礫の山に変えた。
事前に避難していた市民達は、モニターに映し出される怪物を前にして絶望の表情を浮かべた。しかし
そんな市民達の目に一筋の光が輝いた。今日この日のために訓練を続けてきた戦士達「魔導隊」が到着したのだ。彼らが目の前に手を翳すと光が迸り、瞬きの間にそれが炎に変わって魔獣目掛けて放たれた。着弾した瞬間に魔獣が大きくよろめき、いくらビルにぶつかっても傷のつかなかったその鱗に初めて傷がつき、明確にダメージが入ったのが確認できた。
現場で戦っている魔導隊員達も、自分達の攻撃が通用していることで心に余裕を感じていた。だが、そんな彼らの見えない部分で二つの命が消えようとしていた。
「どうしよう…みんないなくなっちゃったし……このままだと怪獣に殺されちゃうよ……。」
「大丈夫だよ、ヒーローがきっと助けてくれるから」
幼い私は不安で泣きじゃくることしかできなかったが、幼馴染の蓮君に慰められてなんとか意志を強く持っていた。
「ほら、危なくないところまで一緒に行こう?」
「うん……」
そうして蓮君の手を取ろうとした瞬間、
「流渚!後ろ!!」
言葉と同時に振り向くと怪獣の足がこちらに向かって物凄い速さで迫っていた。
だめだ…体が動かない……死んじゃう……!!
その瞬間、突然体が横に飛ばされて瓦礫の山に転がった。
「んん、痛いよ……。蓮君…ど……こ………」
起き上がって最初に目に入ったのは、体の下半分がなくなった蓮君だった。
「え……うそ………れん…くん………?」
嘘だ。そんなはずない。だって、だってさっきまで一緒にお話してたじゃん!一緒に逃げようって!!
目の前の光景が受け入れられなくて私は思わず嘔吐してしまった。そして胃液のにおいが鼻を刺したままに蓮君に駆け寄って体に触れる。体は生温くて、心臓の音はゆっくり。それもだんだんと遅くなっていって今にも止まりそう。
「れんくん…そんな……」
「る…な……いき…て………」
その言葉を最期に蓮君は二度と声を発することはなかった。
なんで?どうしてれんくんなの?ほかのひとじゃだめだったの?わたしじゃだめだったの?ねぇなんで??わかんない。ヒーローがたすけてくれるんじゃなかったの?どうして?どうして?どうして?
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして?
その瞬間、私の中で何かがプツンと音を立てて切れ、瞬きのうちに世界が白く染まった。
それからのことはあまり覚えていない。聞いた話によれば、怪獣と戦っているときに突如として巨大な爆発が発生して怪獣の体を吹き飛ばしたらしい。そして爆発の中心には私がいたそうで、調査と保護のために身寄りのない私は魔導隊の研究施設に送られた。調査の結果、私には他の人よりも魔法の才能があるらしいことが分かった。ノブレスオブリージュじゃないけど私はあの怪獣達、魔獣を殺すべきだと思ったから魔導隊の人達に魔法を教えてもらいながら暮らすことにした。魔導隊の人達は皆優しくて子供の私を快く受け入れてくれた。心のどこかで救ってもらえなかったという感情が湧いてくることもあったが、それも日が経つにつれて薄れていった。
魔導隊に来てから10年が経って私は15歳になり、後衛部隊で戦うことが許された。前線の援護で多くの功績をあげ程なくして前線部隊に異動になった。
「今回もお前のおかげで随分と楽に仕留められた!次もよろしく頼むぞ」
「流渚、お前はうちの隊の誇りだ。これからも頑張ってくれよ」
「流渚さんの様な皆を守れる隊員になりたいです!」
「お疲れ様、これからも一緒に頑張ろう!」
「先輩の助けになれるよう精一杯努力します!」
「こりゃ次期隊長も夢じゃないな!」
皆から敬意の籠った眼差しと言葉を向けられる度に自分の居場所が確かに存在することを感じて安心する。けれど同時に目の前で幼馴染が死んだあの日のことを思い出してやり場のない気持ちに心を蝕まれることも多々あった。
そんな複雑な感情に振り回されたまま魔獣を討伐していく日々の中でとうとう事件が起こる。それは5年前、1513体目の魔獣の討伐での出来事だった。小型魔獣の討伐要請を受け現場に向かった私達は、速やかな対応で魔獣をあと一撃というところまで追いつめた。しかし
「なんだ?急に霧が……ッ!?奴がいない…どこ行きやがった」
なぜだか魔力探知による位置把握もうまく機能しなかったので仕方なく走って探すことにした。
「にしても魔獣だけじゃなく、隊員達まで消えている……いったいどうなってるんだ?」
闇雲に辺りを探しているとふと目の前に人影が見えた。巻き込まれた一般市民かもしれないと思った私は急いで人影に向かって走り出した。
「こんなところで何してる!早くここから逃げ…るん…だ………え?」
声に反応し、ゆっくりと後ろへ向き直った少年に私は見覚えがあった。
「れん、くん……」
「久しぶりだね、流渚」
意味が分からなかった。なんで?なんで蓮君が生きてるの?あり得ない。蓮君は確かに私の前で死んだはず……。じゃあ目の前にいるのは一体誰?
「いっぱい頑張って来たんだね。辛い思いもしてきたんだね。分かるよ、だって俺は流渚の親友だから」
その発言の一つ一つが、声が、吐息が、あのときのままの優しさを内包している。
「でももう大丈夫。これ以上無理して頑張らなくてもいいんだよ。俺がそばにいるから」
それ以上やめて。今まで必死に耐えてきたものが今にも崩れて泣いてしまいそうになる。
「ほら泣かないで。おいで?ぎゅっとしてあげるから。ね?」
両手を広げて微笑みかけ来る蓮君を前についに感情が崩れ、何もかも忘れて蓮君の元へ走って行ってしまった。
そして蓮君の体に抱き着いたとき私は目を見開いた。温度がないのだ。先程まであれほど温かそうに見えていたものはいつの間にか灰の塊へと変わっていた。それが崩れていくと同時に霧が晴れていき、気づけば私は魔獣に胴体を大きく貫かれていた。その一瞬ですべてを理解した。目の前の塵は私の大切な記憶に土足で立ち入り、自分のために嬉々として踏みにじったということを。
「殺す…絶対に殺す!!」
その瞬間、体が一瞬眩しく輝き、瞬きする間に世界が白く染まった。
目を覚ましたのは、病院に運ばれて暫く経った後だった。見舞いに来ていた隊長に話を聞いたところ、あのときのようにまた爆発を起こしたらしい。しかも爆発に巻き込まれて何人かけが人が出たらしい。
「申し訳ない、私のせいで皆に迷惑をかけた。私がしくじらなければ、けが人なんてでなかったのに……本当にすまない」
「謝るな、俺達は皆で一つの家族だ。これくらいのことでどうこう言ったりしねぇよ。ただ、どうしても皆に謝りたいってんなら、その手で魔獣を殺し続けろ。仕事でミスした分は仕事で取り返すんだ。それか酒を奢ってくれてもいいんだぞ?あいつ等はよく飲むからなぁ」
自分の言いたいことを言いたいだけ言った後、隊長は豪快に笑って病室を去っていった。全く適当な人だと思ったが、その言葉と陽気さに少し心が救われた。
***
『C-12地区に魔獣の魔力波を確認。総員直ちに出動準備を開始せよ』
けたたましいサイレンと共に魔獣発生の放送が流れる。感傷に耽る頭を切り替えすぐさま戦闘準備を整える。
「総員、準備はいいか!」
「「「「「は!」」」」」
たとえその身に何が起きようとも、私達はその職務を全うしなければならない。皆の両肩には多くの人の命が乗せられているのだから。
「それでは行くぞ!」
全ての魔獣を殺すまで、私達の責務は続く。
「魔獣討伐の時間だ」
もういない彼に、応えるために。
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