第53話 覇権への鍵
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出席者たちは<楽園>の謀略に恐怖しながらも、この会合における峠は超えたと思い、どこか安堵した。しかしヘルメスの策略は単純な構造は持ち合わせていなかった。
「さて、話題を今回貴殿らに与える資源へと移そう。特徴や性能に関しては全く通達していなかったし、気になるだろう。」
そのヘルメスの一言で、出席者たちはこの会合にはまだ何かあることを感じ取った。
「まずは吉田タケル殿とリン殿が要求したテューレ製の武具からだ。テューレとは<楽園>から産出される鉱石だ。シードルの研究では現在、人類の技術で加工することは不可能だ。これを<楽園>に伝わる鍛治技術で加工すると、ミスリルを超える力を発揮する。具体的に言うならば、武具にスキルに類似した能力が付与される。現在確認されているのは剣撃を飛ばすものや、魔法が対象を追尾するものだ。」
「次に魔法のタクトだが、これは魔法適性を持たない者でも魔法を扱うことができるものだ。一本につき五回までの消耗品だが、大量生産も不可能ではないだろう。」
「迷宮用カメラはダンジョン内部でも映像記録ができるものだ。インターネットに接続することも可能で、リアルタイムでの映像の共有も可能だ。」
「<楽園の秘薬>は万病を癒す薬だ。魔物は病に罹らないため、臨床試験はできていないが、効果は保証しよう。」
「指南書と魔導書は巻物だ。指南書を読めばスキルを、魔導書を読めば魔法適性を獲得できる。」
「最後に<楽園>のエネルギー資源なのだが、これは魔石とは少し違う。一つはヒカリミツバチという魔物の蜜で魔石の三倍ほどのエネルギーを内包している。もう一つはドロクイサンショウという魔物が濾過した後の泥炭だ。こちらは魔石の五倍ほどのエネルギーを蓄えている。」
ヘルメスによる一連の説明に出席者たちの理性は崩れ去った。この場にいる誰もが『話が違う!』と叫びたくなる程、<楽園>の資源は規格外だったのだ。ある者は期待を大きく上回ったことに歓喜し、またある者は絶望した。特にエネルギー資源を過小評価したアフマド・サルマンは失神しそうな程であった。しかし、彼のプライドはこの場で再び友好関係を提案することを許さなかった。それ程に非現実的だったのだ。
「では貴殿らに今回の資源を渡すとしよう。」
すると精霊たちが木箱を持ってくる。
「ではここで、<楽園>の初めての朋友である貴殿らには特別に、より深い関係を提案しよう。今手元にある資源の独占権を半年間だ。他の出席者と重複している資源に関してはオークションの形態を取ることとする。対価は1億円かそれに値する価値とする。」
その瞬間、客室の緊張は限界を突破する形で高まり、最早殺伐としていた。
「ではまずテューレ製の武具から。吉田殿、リン殿、この独占権に幾らの価値を見出す?」
「二億万。」
リンが提示した額は政治家タケルが選挙を前に動かせる額ではなかった。
「ではテューレ製の武具は半年間、リン殿とのみ取引することとしよう。エネルギー資源の独占はどうする?」
「そっちも一億円払いましょう。」
「では次にアンナ殿は魔法のタクトの独占を望むかね?」
「一億円、払いましょう。」
「よろしい。」
「ミカ殿、迷宮用カメラだが、どうする?」
「私も一億円払います。」
「シェリー殿。秘薬の独占権を望むかね?」
「いいえ。私はビジネスには興味がない。」
「よろしい。」
「ではワルツ殿。指南書の独占を望むかね?」
「一億円、すぐに用意しましょう。」
「シグルド殿はどの様にお考えか?」
「用意しよう。」
「よろしい。ではこれで全員かな?」
「それだとサル・ケルアックさんが不平等じゃない?半年間、エマちゃんの研究成果を共有してあげたら?」
私は何となく言う。しかし、出席者はその余りに大きな利益を平然と提供したトモに驚愕した。
「主がそう言うならばそうしよう。」
そしてヘルメスはそれを平然と受け入れる。この瞬間、出席者たちは眼前の強大な存在、<楽園>が一人の少女の意思次第で簡単に動くことを悟り、恐怖した。小田原トモと敵対したら、利害など関係なしに報復され得る。その事実は彼ら全員を恐怖させるには十分すぎたのだった。
こうして会合は幕を閉じた、地上世界の要人たちに絶大な恐怖を植え付けて。
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