第50話 矜持と謀略の行き止まり (2)
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リン、ワルツ、サル・ケルアック、アフマド・サルマンもまた、<楽園>に好奇心を燃やしていた。目の前の脅威に対する恐れは勿論あるが、彼らにはそれ以上に商機が眩しく輝いていた。
ワルツとアフマド・サルマンは可能ならば<楽園>の資源を買い叩き、帝国主義なき時代の次なる植民地にしようと考えていた。しかし、その目論見は魔物の隊列を前に崩れ去った。<楽園>と対立すれば我々は滅ぼされるという脅威は、彼らこそが植民地になり得るのだと悟ったのだ。
この未知の文明を前に、四人のビジネスマンは各々の理想の交渉結果とそこに至るまでの道を計算していた。
秋野アンナと小野寺ミカは世界冒険者協会として喉から手が出るほど欲しいものを要求した。誰でも魔法を行使できる魔法のタクトとダンジョン内部を映像として記録できるカメラ、これがあれば冒険者たちの生存確率は劇的に向上する。
元SSランク冒険者としての経歴を持つアンナと現役Sランク冒険者であるミカは<楽園>を冷静に分析していた。しかし、二人は目を合わせて、この一階層すらも攻略不可能であるという結論に達する。冒険者はクランやギルド、協会に所属していても、あくまで個人の安全を最優先する個人事業主、もはや二人には<楽園>に逆らう術はなかった。
蛮勇のシグルドは自身と<Bee Hive>の仲間が持つ力だけを考えていた。傭兵稼業とは敗北が許されない世界だ。己と仲間の命を危険に晒すだけでなく、仕事を失うことになる。大金を積んでまで敗北を依頼する変わり者はいないのだ。<楽園>が持つ力は彼の想像以上だった。もし魔物を統制する力があるならば、世界の情勢を一変させることができる。彼は<楽園>が脅威でなければ、魔物たちを滅ぼしてダンジョンを占領しようとすら思っていたが、それが不可能なのは明らかだった。人間同士の争いも仕事としている<Bee Hive>はダンジョン内での戦力が心許ない。彼はこのダンジョンへの期待を高めていくのだった。
この一団で唯一、<楽園>に興味を示さなかったのはカール・ミュラー卿ただ一人だった。彼は普段、教会でのお勤めや公務を行なっているだけの宗教家だ。ダンジョンのことなど何も分からない。しかし、列を成す魔物の中にいる法衣を纏った骸骨たちが、神の福音を聞く者なのか、それとも世界に火を放つ悪魔なのか。主の教えを体現する存在なのか、西洋の信仰世界を破滅へと導く存在なのか。それだけが彼の頭の中に暗い雨雲として浮かんでいた。
彼らが客室に辿り着くと、そこには地上の如何なる古代文明にも属さないであろう異色で、美しい工芸品が輝いていた。そして、上座には一人の少女と、荘厳な法衣に身を包む骸骨が座っていた。二人を分つのは絶対王政を象徴するかの様な玉座、出席者たちは息を呑み、覚悟する。今夜、この場で今後の世界における秩序が確立する。誰が覇権を握り、誰が国際社会の奴隷となるのか。全員が席につくと、遂に<楽園の主>がやって来た...
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