第43話 楽園の休日
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サトリワシの占いがあった日から一週間。私はニコとバステトと<楽園>の暮らしを満喫していた。この三日間でシードルの研究は凄まじい結果を挙げていた。
一つ目の成果はヤマイクイのイムさんや不死の賢者のヘルメスが協力して、コケイワヤギの苔から<楽園の秘薬>という薬を作り出した。その薬はどんな人間にも効果があり、小瓶一本で全ての病も癒すことができる。問題は<楽園の秘薬>を小瓶一本作るのにコケイワヤギの苔が一頭分必要なことだ。コケイワヤギは15頭おり、苔は半年かけて成長する。余り多くは生産できないだろう。
二つ目の成果はマジナイヘラサギの羽の加工だ。マジナイヘラサギは六階層を飛び回っており、その羽は頻繁に生え変わる。精霊たちが集めてきたその羽から、シードルはタクトを作り出した。そのタクトを手にして念じると、五回だけ羽の色に応じた属性の魔法を放つことができる。冒険者の中でも魔法適性が発現する者は非常に少ない。これは冒険者にとって革命に近い発明だろう。
三つ目の成果はヒカリミツバチの蜜とドロクイサンショウウオの泥団子をエネルギー資源として活用する技術の確立だ。これは売る相手がいれば確実に大きな資金源となるだろう。
四つ目の成果はデルタドラゴンの鱗の研究だ。デルタドラゴンの鱗は一年ごとに生え変わると予測されているが、鱗の生え変わる時期が部位によって異なる。要は毎日どこかしらの鱗が生え変わるのだ。水中の獲物を感知するために、その鱗は魔力や電波の感受性に長けている。シードルはそれを活かして、ダンジョン内での電波通信を可能にしてしまったのだ。
しかし、課題もあった。従来の電子機器にそのアンテナを接続しても、約20秒のラグが生じるのだ。そこでサブテラニアンたちにカメラやテレビ、コンピューターのサンプルを見せて、作らせてみた。サブテラニアンたちは卓越した鍛治の腕で基板や部品の構造を模倣したが、音声と映像を記録し、インターネット上にデータをアップロードできるカメラ以外はまともに機能しなかった。
それでもそのカメラは約7秒のラグで地上との通信を可能にした。ダンジョン内部の情報を文字以外でも記録できる様になったのは大きな一歩だ。迷宮開拓作業員の時にこれがあればどれだけよかったことか。
五つ目の成果はヘルメスが言葉を話せる様になったことだ。彼はシードルとの交流で人間がどの様にして声を出しているのかを知り、<魔力波>という魔法で声帯を再現したらしい。
それ以外にも精霊たちが価値のある資源を選んで集めてくれるので、食べれるものと食べられないもの、薬効があるものとないものを一々研究せずに把握できた。特に四階層の鉱物資源は多様で、精霊たちが持ってきたものの中に新しい金属があった。それは<テューレ>というもので、ミスリルにも優るものだった。シードルの研究では武具に最適で、テューレ製の武具には不思議な力が宿るという。しかし、性質は未だ謎に包まれており、加工もサブテラニアンの鍛治技術なしでは不可能だった。
シードルとしては科学的な証拠と共に全ての資源の有用性を検証したい様だが、それは時間がかかる。今は精霊たちの大雑把な仕分けで十分だろう。
資源が保管されている倉庫では何故か腐敗も熟成も乾燥も不可能なため、幾つかの資源はシードルの研究所で乾燥させたりしている。<ベルペッパー>という鈴の様な見た目の胡椒や、<ハネサンショウ>という果実に羽のような若葉が付いた山椒の果実がそうだ。
何故ここまで順調に研究しているかというと、シードルたちは<楽園>の環境に魅せられていた。精霊たちが資源のサンプルを次々に運んできて、シードルがそこから研究対象を定めると、研究所は24時間体制で稼働する。朝から約14時間はシードルが研究に没頭する。シードルが寝ると、ヘルメスやイムさんが研究を引き継ぎ、アリスちゃんも気まぐれに手伝いに来る。ヘルメスたちもまた地上の科学に魅せられているのだ。研究は最大効率で回っていた。
私とニコはバステトのもふもふな背中に寝っ転がって一階層で日向ぼっこをしたり、二階層の湖や六階層の大河でアリスと釣りをしたり、とにかくまったりとした日常を過ごしていた。
そんなある日のこと。
『トモちゃん、明日遊びに行かない?この前のメールの件で色々話したいことがあるの。』
元同僚のキョウコから連絡が来た。しばらく人間とまともに関わっていなかったので、了承した。
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