第24話 情報売りのワルツ
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オモチに乗った私たちは倉敷ダンジョンに向かう。ダンジョン巡りの旅も遂におしまいだ。15分の空の旅を終えると倉敷ダンジョンが見えてきた。最後の保護対象は<ジメジメスライム>、倉敷ダンジョンの一階層にいるらしい。
スライムはどのダンジョンにも生息する小さな魔物で、謎が多い魔物だ。攻撃能力が皆無で、何を食べるかも分かっておらず、いつもダンジョンを彷徨っているだけの存在だ。一部の研究者は死肉や落ち葉、微生物を分解しているのではないかと予測している。
私はバステトに乗って一階層の草原を隈なく探索するがジメジメスライムどころか、ただのスライムさえ見つけることができなかった。
夕暮れになり、私が街道の辺りを歩いていると、荷物を載せたトプスが三頭現れた。頑丈な綱に繋がれた三頭は一人の商人と四人の冒険者が連れていた。商人はフードを深く被っている。ダンジョン内では不足した食料や水に加えて、自衛隊や大手運送会社が運搬しない嗜好品の数々、そして高級品は商人ギルドに依存している。
「こんなところで冒険者と会うとは、何かご入用のものはありますか?」
「いや、特にないよ。」
「にしては随分身軽ですね。」
「それは企業秘密だよ。」
冒険者は基本、スキルを秘匿する。商売道具だし、人間と敵対することもある。自然なことだ。
「私はワルツ。こういう者です。」
そう言って彼は黒い短剣を見せた。これはブラックダガーと言って、アイルランドに本部を置く<商人ギルド>に信頼と実力を承認されたごく一部の商人にのみ与えられるものだ。その短剣一つでダンジョンへの入場やダンジョン居住区の検問をほぼ顔パス状態で通ることができる。ブラックダガー保持者の多くは仮名を使い、顔を隠して素性を秘匿するのだ。
「情報は取り扱ってるの?」
「多少は用意がございますが、何の情報でしょう?」
「とある魔物の生息地よ。」
「そういった類でしたら、お客様のご希望にお答えできるかと。」
「この階層にいるジメジメスライムなんだけど。」
「それでしたら第三居住区ですね。先日、迷宮庁が大規模な捕獲作戦を行い、殆どのジメジメスライムはそこに捉えられているかと。」
「そう。ありがとう。支払いは現金で大丈夫?」
「いえ、支払いには及びません。これは今後の商売への手付金とでも思っていただければ結構です。」
「そう?ではありがたく受け取っておくわ。」
「商人がご入用の際はこちらにご連絡ください。」
そう言ってワルツは頑丈な黒いカードを差し出してきた。そこには彼の連絡先が書かれている。
「ありがとう。それじゃあ行くわ。」
「またのご利用、お待ちしております。」
私は第三居住区へと向かった。
私、ワルツは天性の商才がある。出会った人にどれだけの商業的価値があるか、見抜くことができた。5歳の頃に起きたダンジョン出現によって失業者が続出し、犯罪組織が結成したクランが台頭する様になった。私の故郷でも闇市ができて、力無い一般人であった私は様々な商品の真贋を見抜き、その価値を見切らなければならなかった。この商才はその経験の産物だろう。
今まで、どんな人間の価値も見抜いてきたし、どんな資源の価値も見切ってきた。その結果、表社会ではブラックダガー持ちの商人、裏社会では闇クラン<毒蛇>の総長にまで成り上がった。闇クランとはダンジョン発生の混乱期の闇市などから発展したもので、正規の市場には出回らない危険な資源を取り扱ったり、ギルドには回らない非合法の依頼を扱う反社会組織だ。ダンジョンの影響で権威を失った法律に価値を見出さなかった私にとって、<毒蛇>もまた一つの商売でしかなかった。
しかし、今目の前にいた冒険者は全く価値が見えなかった。私の経験ではそんなことはあり得ない。どんなに貧しく、無能な人間でもその肉体の価値があるからだ。価値が見えない、それは私ではその価値を理解できないということだ。もしくはその価値が使い方次第では国家予算を優に凌ぐものにも、道端の石ころ程度にもなり得るのかもしれない。私はこの出会いに何かを確かに感じていた。
「面白いことになりそうですね。異世界ごっこもこれで終わりにしましょうか。」
私はこれから起こり得ることについて考え始めた。
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