聖女詐欺でしょ? 違うならあたしと結婚して
神様は平等なのか不平等なのか。
あたし達は神様から各々一つだけ才をもらって生まれてくるんだって。
どんな才をいただけるかは貴族も平民も関係なく、完全にランダム。
いいじゃん、運で成り上がれる機会がある。
ある意味平等じゃんって思うでしょ?
ところがそうじゃないんだなあ。
才の芽を出すためには、真聖教に莫大なお金を寄付しなくちゃいけなくてだね。
才ったってパンをおいしく焼けたり糸を上手に紡げたりする、役に立つ才ばかりじゃないんだ。
鼻歌とか片足立ちとかへその穴掃除の才を授かってもしょうがないでしょ?
だから平民は、よっぽどの富豪でもない限り、才を得ようなんて考えないわけさ。
もちろんあたしも、大金を払ってまで才を開花させようなんて考えてなかったんだ。
ただの平民の女に過ぎないしね。
だけど……。
「見つけた」
「えっ?」
いきなり従者連れの男に呼び止められた。
わあ、真面目顔が決まっているいい男。
従者連れってことは貴族かな?
身なりからしていいとこの坊っちゃんではありそう。
「僕はアレクシス、こちらは従者のチョビだ」
「はあ」
「僕達はヨシニアから来たんだ」
「ヨシニア?」
あたしの今住んでるブルビネ王国にちょこっと接触してるくらいの小国だ、確か。
王国じゃなくて平民の国だって聞いたことがある。
あれ? じゃあこの人貴族ではないのかな?
「で、ヨシニアからおいでになった方が何か? もらえるものさえもらえりゃ、都案内くらいはしてやってもいいよ」
「いや、そうじゃなくて。ヨシニアという国は、元々逃亡者や犯罪者が身を寄せ合ってできた国で」
全然興味ない他所の国の成り立ちを語られた上に、内容がちっとも心を震わせないという。
何これ?
あたしは何を聞かされてるんだろ?
「君にぜひともヨシニアに来てもらいたいんだ」
「行くわけないでしょう。犯罪者の巣窟になんか」
「誤解があったかもしれないけど、今のヨシニアはちゃんとした国だよ」
坊っちゃんはアタフタして、従者があちゃーって顔してるわ。
「せっかくだけど、あたしも暇じゃないから」
「待って! これを!」
えっ、銀貨?
三日分くらいの収入にはなるね。
「くれるの?」
「ああ、だから話を聞いてくれ!」
「わかった。今日は仕事休むって連絡入れてくるから、待ってておくれ」
◇
奢ってくれるって言うから、軽食屋で話をしている。
話を聞くだけで銀貨一枚+一食ってのは割がいいね。
「僕の従者のチョビは、人がどんな才の素を持っているか知る、という才を持っているんだ」
「ふうん」
そりゃ便利だね。
ろくでもない才なら発芽させる必要がない。
変な夢を見て真聖教に大層な金を払うことがないもん。
逆にもしいい才を持ってるとしたら、ムリしてでも発芽させる価値がある、か。
……言ってることが本当なら、だけどね。
この色男が真聖教の回し者で、甘いウソ吐いといて寄付させたいだけかもしれない。
いや、ヨシニアに来いって言ってたっけ?
じゃあどういうことだろう?
「話は変わるけど、ヨシニアには魔物がいてさ。まあ中原諸国がコストをかけてまで領地化する意味がないから、放置されてたエリアなんだ」
「だからあたしは魔物がいる場所なんかに行かないって」
「そんなヨシニアだから、人を大事にしている」
平民の国というのは惹かれなくもないけど。
「ここブルビネ王国では才を発芽させるために、真聖教に莫大な献金をしなきゃいけないだろう?」
「どこの国だって一緒でしょ? でないと神様に感謝が届かないらしいからね」
「ヨシニア教では違うんだ。同じ神様を信仰してるけど、献金なんか必要ない。一定期間以上ヨシニアで働いてくれれば、才を発芽させるよっていう教義なんだ」
「へえ、労働力が対価ってことか。悪くないね。魔物が出る国じゃなければ」
「街中に魔物なんか出ないよ。君の才が発芽さえすれば、魔物に襲われるわけがないし」
「どういうこと?」
「君の才は聖女なんだ。だから声をかけた」
聖女?
神様の力を借りて聖魔法を使い放題だという?
歴史上片手で数えられるくらいしかいない、大当たりの才じゃん。
だけど……。
「僕らと一緒にヨシニアに来て欲しい。聖女がいれば、ぐんと国を発展させることができるんだ」
「……」
坊っちゃんがすごく真剣な顔で見てくる。
顔面力があるなあ
でも……。
あたしが聖女なんて、心躍る話だ。
あんな身なりのいい坊っちゃんに口説かれると、騙されちゃう人も多いんじゃないか?
……多分、詐欺だ。
調子のいいことを言っておいて連れ去り、どこかに売り飛ばされるんだろう。
ブルビネ王国で人身売買は禁止されてるけど、奴隷制度が残る国なんていくらでもあるらしいし。
「どうだい?」
「面白い話だった。でもやめておくよ」
「「えっ?」」
何でポカンとしてるのかな?
「き、君は聖女なんだよ? 今の生活に満足してるわけじゃないだろう?」
「満足してるかって言われれば不満もあるけど。まあでも贅沢言うのは罰が当たるよ」
「よ、欲がない……さすが聖女……」
ふふっ、まだ聖女って言ってくれるんだな。
あたしをターゲットにしたのは、奇麗で売れそうだって思ったからだろう。
そこは嬉しいと思っておくよ。
「もういいかな?」
「ちょ、ちょっと待って! 何が不満なの?」
「何がって言われても」
あたしは進んで不幸になる趣味を持ち合わせていないだけなんだけど。
「どうすればヨシニアに来てくれるんだろうか?」
「随分あたしに拘るね」
「当たり前じゃないか。発芽前の聖女の才の持ち主を発見したんだ。ここで諦めたら、何しにブルビネまで来たんだかわからない!」
詐欺師の理屈ではそうかもしれんけど。
「条件があるなら聞くから!」
「え? じゃあ三つの条件を呑んでくれるなら」
「何だい?」
「聖女の才を今すぐ発芽させてくれること。坊っちゃんがあたしの旦那さんになってくれること。以上の二つを神様に誓うこと」
これが守れるならヨシニアに行ってもいい。
まさか本物の聖女を売り飛ばすなんてもったいないことはしないだろうし。
ニッコリする坊っちゃん。
「そんなことでいいの?」
「えっ? うん」
「可愛い聖女が僕のお嫁さんになってくれるなんて嬉しいなあ」
何だ何だ?
本当に喜んでるように見えるぞ?
「君の名前は何だっけ?」
「レーメだよ」
「神パルフ・デウスよ。僕アレクシス・ホーガンは、レーメの求めに応じて誓います」
思わず瞠目した。
げ、坊っちゃんったら神様の真名に誓ったぞ?
ウソ吐いたらどんな罰が当たるかわからんやつ!
「聖女の才を今すぐ発芽させます。レーメさん、これを触ってもらえるかな?」
「うん」
従者が恭しく取り出したオーブに触れる。
一瞬冷たいと思ったけど、すぐ温かみを感じた。
不思議な珠だな。
意思があるみたい。
「チョビ、どうだ?」
「問題なく発芽していますよ」
「レーメさん。もう自分が聖女だってわかるでしょう?」
「わかる」
何これ?
突然自分の中に力が流れ込んできたみたい。
才が発芽するってこういうことなの?
「僕はレーメさんを妻とします! 以上です」
そうだった。
自分が聖女になったことにビックリして忘れてた。
「これからよろしくね」
「こちらこそ、坊っちゃん」
「坊っちゃんはやめてよ。アレクシスって名前があるんだから」
「あ、アレクシス」
「何かな、レーメ」
抱きしめられた。
うはあ、頭が沸騰するわ。
結構なイケメンがいきなり旦那になったわ。
「話したいことはたくさんあるよ。のんびりヨシニアに行こうじゃないか。愛を深めながらね」
◇
――――――――――後日談。
ヨシニアは人口が一万人ちょっとしかない、国というより開拓民集落の集合体みたいな地域だった。
やっぱり魔物いるじゃん。
確かに大きい集落には出ないみたいだけど。
聖女の力で浄化して、どんどん魔物を駆逐してくれ?
任せろ。
あたしも魔物出現が日常茶飯事みたいな国は嫌だわ。
ガンガン浄化してたら魔王が出てきた。
知られていなかったけど、魔王がいたので瘴気で汚染されて魔物が多かったみたい。
魔王ったって世界を股にかけて大暴れするような大物じゃないから、適当な条件で手打ちにすりゃいいんじゃないの、と思った。
でも魔王のプライドなのか矜持なのか、人間風情と仲良くすることはできないんだって。
しょうがないから聖女デコピンで滅ぼした。
瘴気が全て払われて魔物がいなくなり、ヨシニアの躍進が始まる。
麦を栽培する才だのイモを栽培する才だのカボチャを栽培する才だの。
農業系の才を持ってる人は比較的いるんだ。
魔物がいなくなった広い土地で大規模生産が始まった。
商人や巡礼者などを介してヨシニアから魔物がいなくなったことが知られ始めると、才を発芽させるヨシニア教の恩恵を求めて移住者が多くなった。
交渉の才を持っている者もいる。
聖女のあたしの存在が大きいみたいで、近隣の国とはいい関係を築けている。
真聖教の教会もできたよ。
ヨシニア教とは兄弟みたいなもんだから仲良くしようぜ、ってことにしといた方が揉めなくていいんだって。
聖女のあたしも気を使って、時々真聖教の教会に足を運んでる。
アレクシスのホーガン家ってのは、元々どこやらの国の貴族だったみたい。
政争に巻き込まれてヨシニアに逃げてきたみたいで。
政治のことがわかるから、ヨシニアでは議長を務めているんだって。
私生活?
メッチャ幸せ。
一日一度はぎゅーすることにしている。
ヨシニアに来てよかった。
「ごめんね。あたしアレクシスに言ってないことがある」
「えっ? 何かな?」
「初めて会った日、人さらいだと思ってた」
苦笑しとるわ。
でも当然の反応だからね。
本当に降ってわいたような突然のロマンスだった。
だって会ったその日に結婚だったもんな。
一目で恋に落ちたとかではなく、ただの成り行きで。
印象に残る好みの顔だったから、何となく結婚を条件にしただけだった。
出会いはどうあれ、幸せってことはあるんだなあ。
心地良い結婚生活を送れている。
「アレクシスにも教えてもらいたいことがあるの」
「何だろう?」
「アレクシスの才って何なの?」
「シリアス顔が得意、ってやつだよ」
「あたしその顔好き」
最高の才だった。
『花さか天使テンテンくん』という漫画がありました。
サイダネと呼ばれる才能の素を授からなかった少年と、その原因となった天使の話です。
テンテン君を思い出したのでこういうお話を書いてみました。
『花さか天使テンテンくん』の作者小栗かずまた先生は、徳川埋蔵金で有名な小栗上野介の直系の子孫なんですって。
ちょっとビックリ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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