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語られぬ真実


学園祭が終わった翌日は休校日だった。


朝早く、沙耶は隼人にLINEを送った。


『話したいことがあるんだけれど隼人君、今日会える?』


すぐに既読がつき、

『わかった。午前中なら大丈夫』という返事が返ってきた。


沙耶は朝食を終えると、母に「ちょっと出かけてくるね」とだけ告げて家を出た。

待ち合わせ場所に選んだのは、駅前の小さな公園だった。


先に公園に着いた沙耶は、木陰のベンチに腰を下ろし、青空を見上げた。


白い雲がゆっくりと流れている。


昨日の後夜祭での出来事がまるで夢のように思えた。


「おはよう、沙耶。」


「あっ、隼人君……おはよう。」


隼人は笑顔で隣に座ったが、沙耶の表情が硬いのに気づき、首を傾げた。


「どうしたの? なんか、深刻そうだね。」


沙耶は一呼吸おいてから、思い切って口を開いた。


「隼人君のお母さん、この前会ったとき、凄く驚いた顔をしてたよね。

私を見た時に……。」


「この前?

あぁ、俺が体育祭の練習中に捻挫しちゃって沙耶が家まで送ってくれた日?」


「うん。」


「それでね……昨日、私のお母さんが、学園祭で私と隼人君が一緒にいるのを見ていたみたいで……。

私が家に帰ってから、あれは誰なのって聞いてきたのよ。」


「うん、それで?」


「だから、隼人君の名前を言ったら、お母さんがびっくりした顔をして、その後しばらく黙ってしまって……。」


沙耶の声は少し震えていた。


「その驚いた顔が隼人君のお母さんとそっくりだったの。」


「そう……なんだ。」


「隼人君。……お母さん、何か言ってなかった? 

私のこと、前から知っていたような感じはしなかった?」


「う~ん。」

隼人は考えるようにしばらく沈黙し、空を仰いだ。


木の葉が風に揺れてさわさわと鳴っている。


「実はさ……。俺も、ちょっと気になってたんだ、そのこと。

母さんに後で沙耶のこと、もしかして知ってるのって聞いたらさ……。」


「そうしたら?」

沙耶が真剣な顔で隼人を見る。


「一瞬、知り合いのお嬢さんに似ている気がしたんだけど……よく見たら、違ってたわって言ったんだよ。」


「そうなんだ。」


「でも、母さん、何となく誤魔化したような口振りだったから、俺は変だなぁと思った。」


「やっぱり……。

うちのお母さんも、驚いていたと思ったら、急に普段の表情に戻って、夕御飯の支度を始めたのよ。」


「沙耶もお母さんの態度に違和感を感じたんだよね。」


「うん、そうなの。

私たち……親に何か隠されているのかもしれない。」


沙耶の瞳が不安で曇っていた。


隼人はそんな沙耶の顔を心配そうに覗いた。


「そうだとして……どうしようか?

直接、母親に聞いてみる?」


「それも、何だか怖いなぁ。」


「でも、こうやっていても埒空かないし……。

俺が近いうちに聞いてみるよ。」


「そう?

わかった。私も考えてみる。」


二人は、決心したよう目を見合わせて頷いた。



その頃……

沙耶の祖母、柚木光恵のスマホの呼び出し音が鳴った。


「もしもし……。」

光恵が電話に出た。


「お母さん、私。

そこに真紀、いる?」


「今は、買い物に行っていていないけど……

どうしたの?」


「沙耶と隼人、出会ってしまったみたいで……

お母さん、知ってた?」


「夕べ、沙耶の口からきいたわ。

隼人の名前を。

真紀はかなり動揺していたみたい。」


「そうよね……。

沙耶は、今日、お休みよね。」


「そうなんだけど、朝早くに出かけたのよ。」


「沙耶も?

隼人も出かけたんだけど……。」


「えっ。」

光恵が驚いたようにスマホを握り直した。


「それって、お母さん。

二人は今、一緒にいるかもね。」


「そうかもしれない……。

もう、そろそろ、ちゃんと二人に伝えた方が良いんじゃ……。」


そう光恵が言いかけた時に玄関の鍵を開ける音がした。


「お母さん、ただいま~。

沙耶、もう、帰ってる?」


光恵の顔色が変わった。

「真紀が帰ってきたから、切るわね。」


「わかった。」


光恵が急いで会話を終えて、電源をオフにしたスマホをテーブルに置いた。


「お母さん、今、誰かと話してなかった?」


真紀がリビングに入ってきて、テーブルに荷物を置いた。


真紀と光恵の目が合った。


「お帰りなさい。」


光恵の瞳には、決心したような色が滲んだ。


「真紀、今、由紀から電話があったのよ。」


真紀は、母をじっと見つめた。


「そうなんだ、何となくそんな気がした。

姉さんたち、帰ってきてるのよね。」


光恵はこくんと頷いた。


「あの子たちが同じ学校で出会うなんてね……。

考えてもみなかった。」


真紀はそう言うと、静かに椅子に座った。


秋の日差しがリビングに届き、薔薇を飾ったガラスの花瓶を照らしていた。


キラキラと光を放つ花瓶をじっと見つめながら、真紀はこれからのことを考えるように押し黙ったままだった。






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