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手相占いと隼人の夢

受付当番を終えた隼人が、沙耶のクラスの前にやってきた。


「あっ、隼人君、早かったね。

まずは、うちのクラスのクレープ食べる?」


「うん、食べたい。

今、勇太も来るよ。」


「あっ、そうなんだ。」


隼人の後ろから息を切らしながら勇太が走ってやってきた。


「ごめん、待った?」


「ううん、全然待ってないよ。大丈夫!

じゃあ、勇太君も一緒に行こう。」


沙耶が自分のクラスに二人を招き入れた。


扉をくぐるとカラフルな飾り付けをした室内が見えた。


揃いのTシャツやエプロンを着た生徒たちが、忙しく立ち働いている。


「いらっしゃいませ!」

隼人たちに元気な声がかかる。


佐織は、ホットプレートでクレープを焼いていた。


「佐織、隼人君と勇太君、連れてきたよ。」


「あっ、沙耶、隼人君、来たんだ。

あれ?勇太君も来たのね。」


作業する手を止めて、佐織は顔を上げた。


「俺が来ちゃいけなかった?」

勇太が怪訝そうに言うと


「別にそんなつもりで言ってないよ。」

と佐織は少し吹き出しそうになりながら、答えた。


「そうだよ、勇太君、考えすぎだよ。」

沙耶も佐織を庇うように言った。


「なら、良いけどさ。」

勇太も沙耶に言われて大人しくなった。


「三人とも……クレープには何を入れる?」

佐織にそう聞かれて


直ぐ様、勇太が

「そうだな……俺はホイップクリームにマンゴー入れて!」

と注文した。


隼人は、

「じゃあ、俺はチョコクリームにバナナで。」

と言うと……


「あっ、私も隼人君と同じで。

ちょうど私もそう言おうと思ってたんだ。」

と沙耶が続ける。


「また、沙耶と隼人君は同じか。

承知しました。

只今、お作りしますね!」


佐織がクレープにホイップクリーム、チョコクリーム、果物等を次々と入れて綺麗に巻いてくれた。


「わぁ、美味しそう。佐織、ありがとね。」

沙耶がそう言うと……


「特別に三人にはクリーム多めにしておいたからね!」

と佐織がニコニコしている。


沙耶たちは、クレープを佐織から受けとると外で食べようと話し合った。


「じゃあ、また、後でね。」 

沙耶が手を振って佐織に挨拶し、教室を後にした。



教室を出ると、校庭の隅にあるベンチに三人は腰を下ろした。


手にしたクレープをひと口かじると、ふわりと甘い香りが口いっぱいに広がり、思わず笑みがこぼれる。


「おいしい……やっぱり佐織が言ってた通りだね。」


「うん。クリーム多めだしね。」


沙耶と隼人がそう言い合っていると……


勇太は、無言でパクパクと頬張っている。


「勇太君、食べるの凄く早いね。」

沙耶がびっくりして勇太を眺めた。


クレープを食べ終わると勇太がおもむろに立ち上がり、

「ごめん、俺、この後体育館でのライブイベント手伝いに行くからさ、お前ら、ゆっくり見て廻れよ。」

と言っていなくなった。


「あいつ、忙しいな~。」

隼人も驚きながら、勇太を見送った。


クレープを楽しんだ後、隼人と沙耶は屋台の並ぶ通りへ向かう。


「じゃあ、次はヨーヨー釣りに挑戦しようか。」

沙耶が誘うと、隼人は少し張り切った表情で列に並ぶ。


「えっと……こういうの、結構難しいんだよな。」

隼人は慎重に鍵のついた針を動かすが、なかなかヨーヨーが取れない。


「隼人君、頑張れ~!」

沙耶が応援すると、隼人は真剣な顔でさらに力を込め、ついには二つも釣り上げた。


「やった!沙耶、 見て!」

得意気な隼人の表情を見て、沙耶は思わず拍手して笑った。


「隼人君、凄い!本気出すと上手いんだね。」


笑いながらヨーヨーを手にした二人は、次に手相占いのコーナーに足を運ぶことにした。


小さなテントの中に入ると、優しげな眼鏡をかけた手品師に扮した生徒が笑顔で迎えてくれる。


「さあ、お二人とも、手を出してくださいね。」


沙耶と隼人が手を差し出すと、彼女はじっと見つめ、しばらく黙って指先をたどった。


「お二人には、不思議な縁がありますね。」

その言葉に二人は顔を見合わせる。


「え、不思議な縁……?」

沙耶と隼人の声が重なった。


「ええ。幼い頃から、お互いを引き寄せる力があるようです。」


彼女は微笑みながら続ける。

「一緒にいると安心できる、すでにそんな関係になっているのではないですか?」


沙耶も隼人もその言葉には、心当たりがあった。


でも、幼い頃からというのは、どういう意味だろうか?


賑やかな学園祭の中で、二人だけの時間がここでは静かに流れていた。


手相を占ってもらった後、隼人はしばらく考えていたようだが、ふと口を開いた。


「俺……時々見る夢があるんだけれど……

凄く小さな俺の隣に誰かがいる夢。

その子も小さくて二人でいると凄く安心するんだ。」


「えっ?そうなの?」 


「それは夢なんだけれど

目が覚めた後にとても幸せな気持ちになって……

何だか古い記憶のようにも感じるんだよ。」 


「古い記憶……。

その子は誰なんだろうね。」


「さぁ。わからない。」 

隼人は頭を振った。


「その子に会えるのなら、また会ってみたいよ。」

隼人は、そう言うとじっと沙耶を見つめた。


沙耶も隼人の瞳を見つめた。


二人の手相--

隼人の夢--


不思議なこととは言いきれない何かを二人は感じていた。



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