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珈琲の香りの中で ー受け継がれる場所ー

カフェ・エスポワールの大きな窓から明るい日差しが店内に届いていた。


昨日の嵐が嘘のように晴れ渡った空。

街路樹の緑が日に照らされてゆらゆらと揺らめきながら、テーブルや椅子に淡い光を落としている。


雨上がりの少し潤いを帯びた空気が心地好く感じられる朝だった。


扉が開く音がした。

カウンターから顔を上げて音がする方を向いた隼人。


「いらっしゃいま……」


そう声をかけた瞬間、隼人は驚いたようにその人を見た。


「隼人君、こんにちは。」


姿を現したのは、陽子さんだった。 


「やっと来られたわ。」

ニコニコしながら、陽子さんの軽やかな声が響いた。


陽子さんの後ろからは、潤と真紀が連れだって現れた。


「陽子さん……。

潤さん、真紀さんも。」

隼人は、嬉しそうに声をあげ、三人を空いている席に案内した。


「まぁ~。

お洒落なお店じゃない。私たちがカフェをやっていた時とも少し違って明るい感じがするわ。

あの大きな窓のせいかしら?」

椅子に腰をかけた陽子さんが歩道に向かって広く開いた窓を眺めて言った。


「そうかもしれませんね。

改装して、窓を大きくしたので。

でも、古い家具は残しましたよ。」

潤の説明に頷く陽子。


「クラシカルな雰囲気はそのまま残っているのかもしれませんね。」

真紀が店内を見回しながら言った。


しばらくすると隼人がブレンドコーヒーを運んできた。


「うちのブレンドです。どうぞ、召し上がってください。」

隼人が三人に勧める。


ひとくち、珈琲を口に含んだ潤が目を輝かせた。

「これは……美味しいよ。

とてもバランスの良い味わいだ。」


「本当ですか?」

隼人が嬉しさを隠しきれない感じで側に立っていた。


「隼人君、本当に美味しいわ。

コクもあるし、香りも良くて私は、好きよ。」

陽子さんもブレンドコーヒーを心から味わっているようだ。


「このコーヒー豆は、壮一さんが仕入れているんでしょ?」

真紀が隼人に尋ねる。


「はい。父が仕入れています。

何種類か僕がブレンドしてみました。」


「お義兄さん、良い豆を仕入れてくれているのね。」

真紀が感心したようにコーヒーを見つめている。


「あっ、今日はチーズケーキがお勧めです。

ごいっしょにいかがですか?」


「じゃあ、もらおうかな。

3つお願いします。」

潤が答える。


三人はチーズケーキも食べ始めた。

「姉さん、チーズケーキも上手ね。どのケーキを食べても美味しいけど……。

このチーズケーキは絶品だわ。」

真紀はひとくち、ひとくち愛おしそうにケーキを口に運ぶ。

姉の手作りケーキは、優しい味がした。


「このお店に来た人はホッとするでしょうね。

香り高い珈琲と美味しいケーキ、そして隼人君がいるんだもの。」

陽子さんが微笑みながら言う。


「貴史さんにも来てもらいたかったなぁ。」

潤がぽつりと言った。


「そうね……。でも、きっと主人も喜んでいるわよ。 

自分が長年続けてきた喫茶店がこんなに風に甦って。

隼人君と出会えて本当に良かったわ。」


「陽子さん……。

ありがとうございます。

僕にお店を任せてくださって。」


「私、不思議な縁を感じているのよ。

まず、潤さんと出会って、そして隼人君でしょ。

今では、二人とも私や貴史さんにとって大切な人よ。」


潤が少し照れたように陽子を見た。


その言葉を受け止めるように、隼人もまた潤を優しく見つめている。


真紀は、嬉しそうにそんな三人の様子を見守っていた。



今日もカフェには、次々とお客さんが入ってきて、思い思いの過ごし方をしている。


隼人は、ゆっくりと珈琲を淹れている。

珈琲の香りが店内を満たし、穏やかな時間が流れていた。


ーーこんな時間を守っていけたらいい。

隼人はそう思いながら、ゆっくりとドリップを続けていた。




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