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体育祭前の出来事

隼人が春に転校してきてから、数ヶ月が経った。


いつの間にか季節は秋に……。


もうすぐ体育祭が行われるため、生徒たちは放課後、競技の練習をしていた。


隼人もクラスのリレー選手に選ばれ、練習に参加していた。


今日は、沙耶も佐織に誘われて校庭に練習を見に来ている。


「隼人君、足が速いんだね。」

佐織が沙耶に話しかけた。


「そうみたい。リレー選手に選ばれて隼人君、張り切っていたよ。」


「そうなんだ。

転校してきたばかりなのに凄いね。

それにしても……暑いね。」

佐織が真っ青な空を見上げる。


秋の陽射しはじりじりと照りつけて、走る生徒たちの額にも汗が光っている。


「本当に。

もう、9月も末なのにいつまでも暑くて選手の皆、大変だよね。」


「うん、後で飲み物、隼人君に買ってきてあげようよ。」


「そうしよう。」


「あっ、勇太君もいる。」


「二人ともリレー、一緒に走るみたいだよ。」


「へぇ。

隣のクラスだけど、こっそり応援したくなっちゃうね。」


「うん、うちのクラス皆には内緒でね。」

二人は、顔を見合わせてくすくすと笑った。


隼人が勇太からバトンを受け取って走り出した。


アンカーの隼人は、コーナーを回り、ゴールを目指して走っていた。


いよいよゴールという瞬間に隼人の足がもつれて体がぐらついた。


そのまま地面に倒れ込んた隼人。


バトンが手から離れてコロコロと転がる。


一部始終を見守っていた沙耶は、

「隼人君!」と思わず叫んだ。


彼の周りに何人かの生徒が走り寄った。


「隼人、大丈夫か?」

勇太が心配そうに聞く。


「うん、何とか……。」


隼人は、上体を起こしてよろよろと立ち上がった。


右足を少し引き摺っている。


「お前、足捻ったんじゃないのか?」

勇太の言葉に


「うん、そうみたいだ。」

と隼人が答えた。


沙耶が隼人に近寄り

「隼人君、保健室に行こう。」

と促した。


「柚木さん、隼人を頼んだよ。

俺たち、もう少し練習するから。」


「うん、勇太君、大丈夫。

私に任せて。」


隼人と沙耶の後ろに佐織も着いて保健室に向かった。


沙耶が保健室の扉を開けると保健教諭の高橋先生が椅子から立ち上がった。


「どうしたの?

確かリレーの練習中だったわよね。」


隼人の足を見て、高橋先生は、

「少し腫れてきてるわね。

骨折はしていないと思うけれど捻挫してるかもしれない。

湿布して、包帯を巻きましょう。」

と言ってすぐに処置してくれた。


「ありがとうございます。」

隼人もホッとしたような笑みを浮かべた。


「たいしたことなさそうで良かったよ。」

佐織も安心したように沙耶と隼人を見た。


「私……これから塾に行かなきゃならなくて。

沙耶、隼人君を家まで送れる?」


「うん。私が送っていくよ。」


「一緒に帰れなくてごめんね。じゃあ、お先に。

隼人君、お大事にね。」

佐織が申し訳なさそうにしながら、帰っていった。


「えっ、俺、大丈夫だから……。」と遠慮する隼人を尻目に


「私、隼人君の荷物、持ってあげるから。」

と沙耶が言い、隼人の教室から荷物をまとめて持ってきて、一緒に家まで帰ることになった。


「お大事にね。

二人とも気を付けて帰りなさいよ。」


高橋先生に見送られて二人は保健室を後にした。


沙耶が隼人の横に立ち、ゆっくりと歩き出す。


「隼人君の家は、この近所?」


「うん、ここから10分ぐらい。

悪いね、何だか……。」


「困った時はお互い様だよ。

気にしないで。」


校門をくぐり、行き交う車を見ながら二人は歩道を歩いた。


「隼人君の足……、体育祭までに治ると良いね。」

沙耶の言葉に


「うん。」と隼人が頷く。


しばらくすると白い壁のマンションが見えてきた。


「あのマンション?」


「うん。」


隼人がマンションのエントランスで鍵を差し込むとオートロックの扉が開いた。


「ここで大丈夫だから。」

隼人が振り返って沙耶に笑顔を向けた。


「うん。

じゃあ、これ。」

と言って沙耶が隼人に荷物を渡す。



そこに奥のエレベーターが開き、中年の女性が降り立った。


女性がこちらを見て口を開いた。


「あら、隼人、今帰り?」


「あっ、母さん。」


「足、どうかしたの?」

隼人の母親、竹村由紀は、包帯を巻いた隼人の足にすぐに気がついた。


「ちょっと捻挫しちゃって……。」


「それは大変だったわね。

あら、そちらのお嬢さんは、隼人のお友だち?」


由紀は扉をくぐり、玄関ホールまでやってきた。


「あの……。

私、隼人君の友人で柚木沙耶と言います。」

沙耶が頭を下げた。


「柚木……沙耶さん?」


驚いたような目をした由紀が沙耶をまじまじと見た。


しかし、すぐに表情を変え、

「今日は息子がお世話になりましたね。

ありがとうございます。」

とにこやかに挨拶した。


沙耶は、そんな由紀の笑顔にかすかな違和感を覚えた。


今、隼人のお母さんが私を驚いたような目で見たのは、どういう意味だったのか……。


沙耶には、初対面であるはずの由紀の態度がよくわからなかった。


一方、隼人はそんな二人のやり取りには全く気がついていないようだった。


たまたま母親を沙耶に紹介できて良かったなと思い、二人の姿を穏やかに見守っていた。



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