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耳をすませて聞くということ


大学に入学した隼人は、公認心理師という国家資格があることを知り、その資格取得を夢見て地道な日々を送っていた。


心理学概論、発達心理学、社会福祉論、精神医学――

教科書の厚さに、最初は少しだけたじろいだ。


人の心を扱う学問は、簡単な言葉では語れなかった。

講義を受けながら、隼人は何度も思った。


知識を詰め込むだけじゃ足りないよな。

わかったつもりになるのが、一番怖いし……。


実際に色々な人と接して学ぶことが大事なんだろうと隼人は感じていた。


三年生になると、福祉施設での実習が始まった。

高齢者施設、障害者支援施設……。


利用者さんの話を聞く時間は、想像以上に神経を使った。


言葉に詰まる人。


同じ話を何度も繰り返す人。


怒りをぶつけてくる人。

――それでも、話を遮らず、否定せず、ただ耳を傾ける。


帰り道、何もできなかった自分に落ち込む日もあったが、

「今日は来てくれてありがとう。また、来てちょうだいね。」

利用者さんのそんな一言に救われることもあった。


途中、海外への短期留学で現地の福祉施設に足を運び、どんな福祉がなされているのかを肌で感じ取った。


四年生の終わりには、隼人は迷いなく大学院進学を選んだ。

資格取得には大学院での学びが必須だったからだが、父の壮一も背中を押してくれた。


「父さん、俺、大学院に進んで学び続けたいんだけれど。」


「うん。隼人が取りたい資格があるのなら、ちゃんと大学院には行った方が良い。

少し時間がかかっても、僕は良いと思うよ。」


「ありがとう、父さん。」

隼人は、父が理解を示してくれたことが嬉しかった。


進学費用を稼ぐために塾で講師のバイトをしたりしたが、そこで生徒たちと触れ合うことも隼人にとっては、良い経験になった。


「先生の教え方、わかりやすいよ。」

中学生にそう言われて、教える姿勢にも力が入った。


「私、好きな人がいるんだけど……。

どうやって告白したら良いと思う?

先生だったらどうする?」


時には恋愛相談に乗ることまで、あったりして……。


恋愛経験がそれほど豊富とは言えない隼人には、何と答えたら良いのか迷うこともあった。


教科書で学ぶこと以外にも世の中には、学ぶことがたくさんあるーー。


自分の行く道を考えた時に人と人が交われる場所はどこなんだろう?と隼人は考え始めていた。


大学院に進むと、学びは一気に専門的になった。


病院や学校での研修。


学校では、スクールカウンセラーが、生徒と面談する場を見学させてもらったりする機会もあり、生徒から言葉を引き出す難しさを感じたりもした。


なかなか話出せない生徒の気持ちを和らげたり、生徒が黙っていたい日は無理に聞き出そうとはしない。


友人関係、家族関係、担任との関係……生徒の問題は一つだけではなく、多岐に及んだ。


そして、生徒から話を聞いた後、カウンセラーが教師への橋渡し役となるが、どう教師に伝えればうまくいくのか……。


隼人にはまだまだわからないことばかりだった。


大学院後半では、就労支援施設 、地域包括センター等を回って研修を受けた。


大学院を修了する頃、隼人は人の話を聞く姿勢が自然に身に付いたような気がしていた。


様々な現場を回りながら、

人を支える仕事は、簡単じゃない。

でも、その人の思いに耳を傾け、生活していく上で役に立てたら……。


隼人はそうした思いを改めて強く胸に抱くようになった。


大学院を卒業した後、隼人は国家試験の勉強を始めた。


その時間は静かで孤独だった。


けれど、この資格を取った上でやりたいことが何となく見えてきた隼人には、不思議と不安はなかった。


段々と具体性を帯びてきた隼人の夢。


無事に公認心理師に合格した隼人が向かった先はーー。


住宅街を抜けた先に建つ丘の上のホーム。


そこには、隼人が心を許していた陽子さんがいた。


隼人は、ホームの入り口に向かってしっかりとした足取りで歩いていった。






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