大学生になって ーそれぞれの歩みー
「すみません、この商品はどこに運んだら良いでしょう?」
「あっ、この棚の上に置いてもらえる?」
日下部さんに言われ、沙耶はアウトドア用品を慎重に棚まで運んだ。
軽そうに見えるが、布地やパーツの重みでバランスを崩さないように気をつけなければいけない。
「これ、新製品ですよね。」
「うん。出来立てのほやほやだよ。」
「そうですか。このランタン、色が綺麗ですね。」
「そうだね。社長も気に入ってたみたいだよ。」
沙耶はランタンを手に取り、点灯確認をする。
小さなスイッチを押すと柔らかな光が灯り、金属のひんやりとした感触が手に伝わった。
明るさや色味を確かめ、丁寧に棚に戻す。
「上手だね。新品だから丁寧に扱ってくれて助かるよ。」
日下部さんの一言に、沙耶は褒められた嬉しさを素直に感じた。
棚出しの次は、在庫チェックの仕事だ。
棚の裏に回り、商品の型番や数量をリストと照らし合わせる。
間違いがないか、何度も確認する。
こういう地味な作業も、会社の仕事には欠かせない。
「柚木さん、この小物は陳列する時、色順に並べると見栄えがいいよ。」
教わった通りに、ランタンやグリル用品を色ごとに整理して並べる。
並べ終わった瞬間、棚全体が華やかに整い、沙耶は達成感を覚えた。
「置き方ひとつで、商品が見違えるんだ。慣れてくると、仕事ももっと楽しくなるよ。」
日下部さんが仕事のコツを少しずつ教えてくれる。
沙耶はその一つ一つを頷きながら聞いていた。
その後も、棚の整理や商品の点灯チェック、在庫確認などを手際よくこなしながら、沙耶は仕事のリズムを掴んでいった。
沙耶は、私もこの会社の一員として役に立っているんだなと段々と仕事のやりがいも感じられるようになってきた。
「柚木さんって社長のお嬢さんなんでしょ?」
「えっ? あぁ、ご存知でしたか。」
「うん。社長から聞いてたよ。
名字は社長と違うけど……。」
「私は、ずっと母の姓を名乗ってきたので。
両親が結婚したのは、数年前なんですよ。」
「なるほど、そういうことか。
でも、沙耶さんは社長と同じ瞳をしているから、親子だって言われてすぐに納得したよ。」
「よく言われます。」
沙耶はそう言って微笑んだ。
沙耶は、父が自分のことを社員に話しているんだと意外に思った。
日下部は、30代に入ったばかりの男性社員だ。
沙耶は大学の夏休みや春休みに父の会社でアルバイトをしてきた。
今は大学3年生の夏休み。
沙耶は父の会社に勤めたいと具体的に動き始めていた。
今回もインターンに応募して、働いていたのである。
時々、佐織や勇太、隼人とはグループラインを通じて会っていた。
隼人とは兄妹だから、叔母や叔父から何をしているのかはすぐに情報が入ってきた。
隼人は、夏休みを使って、かつて住んでいたオーストリアの大学に短期留学し、海外の福祉の現場も見に行っているようだった。
佐織は、大学の学園祭でファッションショーを催していた時に自分で作った服を披露した。
佐織のドレスを着るはずだったモデルが急に舞台に立てなくなり、代わりに佐織自身がドレスを着て登場した時には、その華やかさに圧倒された。
一緒にファッションショーを見に行っていた勇太は、
「あれが佐織かよ……。」
と目を丸くして見とれていたのが思い出される。
「勇太君って多分、佐織のこと好きだよ。」
と沙耶が佐織に言うと
「まさか……。」
と佐織は笑っていたが、この勘は恐らく当たっている。
「俺もそう思う。」
と隼人もこっそり、沙耶に耳打ちしていた。
すでに就職活動を始める時期に入っていたが、お互い、そのことには触れず、自分の進む道を自分なりに探している最中だった。
沙耶は語学にも力を入れていた。
大学2年生の時には、イギリスでのホームステイも経験していた。
父の会社で将来、海外とも取引きしたいと考えていたからだ。
夢は大きく膨らんでいくーー。
勇太は、大学対抗の駅伝の選手に選ばれ、練習に励んでいた。
勇太君のこと、たまには佐織と応援に行きたいな……。
そんなことを考えていた時にラインの通知が来た。
例のグループラインからだ。
午後の休憩時間にライン画面を開くと……
「みんな、たまには息抜きしようよ。
私、お店予約するから、皆が集まれる日、教えて。」
佐織のメッセージを読んで沙耶の顔が笑顔で綻んだ。
今は、もう、集合場所はファミレスではない。
飲み屋さんかな……
或いはお洒落なレストランもあり?
沙耶が期待に胸を踊らせていると……
「柚木さ~ん、休憩そろそろ終わりして、こっちを手伝ってもらえる?」
日下部さんの声がした。
「は~い。」
沙耶は我に返り、仕事モードに入った。
みんな頑張っているだろうから、私も頑張らなきゃ。
沙耶は心の中で呟いた。




