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卒業前のひと時


夏休みのキャンプが過ぎ去り、楽しく賑やかだった時間は遠のいていった。


その後、沙耶たちは必死に受験勉強に向かう日々を過ごし……

気がつけば、私立大学の結果が出揃う3月初旬を迎えていた。


沙耶、隼人、佐織、勇太は、制服姿のままいつものファミレスに集まっていた。


緊張の糸がほどけたような空気の中、テーブルにはドリンクバーのカップが並び、笑顔の4人の会話が弾んでいた。


「勇太君はもう、秋には大学、決まってたんだよね?」と佐織がオレンジジュースを飲みながら、勇太の方を見て言った。


「うん、去年の11月にはスポーツ推薦で決まってた。

大学でも陸上選手として頑張るよ。

あ~っ、一応体育教師になれる資格も取るつもり。」


「そうなんだ。

じゃあ、もしかしたら、将来勇太は学校の体育の先生になるかもしれないんだ?」

隼人が感心して勇太を見る。


「いやいや、まだわかんないよ。そんなこと。

ただ、一応取ろうかなと考えてるだけだよ。」

勇太が少し照れ臭そうに答えた。


「勇太君、ちゃんと色々考えていて偉いよ。」

沙耶も隼人と同じように感心している。


「で、隼人は?どんなところに行くの?」

勇太が隼人の方を向く。


「俺は福祉を学べる大学に行くんだ。

福祉を学びながら、心理学も勉強したい。

誰かの役に立てたら良いなと思って。」



「へぇ~、隼人君らしいね。」

佐織が隼人をじっと見た。


「そう?俺らしいのかな。」


「うん、すっごくそう思う。」

佐織のまっすぐな言葉に隼人は少し戸惑って視線をそらした。


「隼人、優しいからな。

俺も良いと思うよ、隼人の進路。」

勇太も佐織に同意して言った。


「佐織は服飾を学ぶのよね。」


沙耶の問いに

「うん、実際に服を作ったり、デザインしたり……。

あとはどんな服が今、求められているかも知りたくて。

大学か専門学校かで悩んだんだけど、結局大学に進学することにしたんだ。」

佐織が一気に話した。


「どんな服が求められているか、かぁ……。

私は経営や商業を学べる学部にしたんだけど、将来はお父さんの会社で働きたいから、やっとスタートラインに立てた感じ。

佐織の学ぶことを私も知りたいな。」


「本当に?

嬉しいな~、もしも将来、沙耶の役に立てたら……。」


「その時は、是非よろしくお願いします。」

頭を下げる沙耶に佐織は驚いて


「ちょっと、沙耶、まだ早いよ。

頭なんか下げて。」

とくすくすと笑った。


「いや~、何だかいよいよ皆と離れるとなると寂しいな。」


勇太が嘆くのを聞いて

「うん、もう、朝学校で会えないんだものね。」

と沙耶も悲しそうに答えた。


「私、毎日ラインしちゃうかも。皆に。

寂しくなったら、呼び出しちゃうからね。

グループライン作って、集合場所伝えるよ。

その時は、できる限り集まることっ。」

佐織が元気に言うと


「そうだな。そうしようぜ。」

と勇太も嬉しそうに隼人を見た。


「わかったよ。そうしよう。」

隼人も満更でもない様子で笑っていた。


明日はいよいよ卒業式を迎える。

名残惜しいような気持ちと春から始まる新生活への期待が同時に沙耶たちの胸に押し寄せてくる。



今、ここで4人が一緒にいる時間がどんなに大切かをそれぞれが感じていた。


外に出ると春の暖かな風が頬を撫でていく。


「明日、二人とも寝坊すんなよ。じゃあな。」


勇太が手を振って佐織と歩いて行くのを沙耶と隼人が見送っていた。


「私たちも行こうか。」


沙耶の言葉に頷いて隼人が歩き出す。


午後の日差しが少し傾いて、二人の後ろに長く影が落ちていた。

沈丁花の香りがどこからか漂ってきて、春の訪れをそっと知らせている。


黙って歩く沙耶と隼人。

言葉にならない想いを抱きながら……

長かった二人の高校生活が間もなく終わろうとしていた。





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