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星降る場所で ー夏のキャンプー


山あいのキャンプ場に車が並んで停まったのは、昼過ぎだった。

澄んだ空気の中、木々の葉が風に揺れ、遠くで川の音がかすかに聞こえる。


「やっと着いたね。佐織、降りよう。」

沙耶が車から降りて、大きく伸びをする。


佐織も沙耶に続いて車を降りた。


「わぁ~っ、綺麗なところ。」

佐織は感激したように周りを見回した。


荷台からテントを下ろしていた潤も

「思ったより涼しいな。」と少しひんやりとした空気を楽しんでいるようだった。


「そうね、ここまで来ると都会の暑さが嘘のようね。」

真紀も山からの風に吹かれながら気持ち良さそうに答えた。


壮一の運転していた車からは、隼人と勇太が降り立った。


「勇太君、疲れなかった?」

由紀が勇太を気遣った。


「あっ、大丈夫です。」

勇太が遠慮がちに答える。


運転してきた壮一も

「朝早かったからな。勇太君、疲れてたら、言ってね。」と声をかけた。


「いえ、俺、車の中でちょっと寝ていたんで……本当に大丈夫です。」


勇太の隣に立っていた隼人が少し笑いながら

「勇太、大丈夫らしいから、二人とも心配しないで。」

と両親に告げた。


「ごめんな、うちの両親、心配性でさ。」

小声で隼人が勇太に言うと


「いや、俺なんかを心配してもらって悪いな。」

と勇太がますます恐縮している。


佐織と沙耶が隼人と勇太の所に近づいてきた。


どこか落ち着かない様子の勇太を、佐織はさりげなく隣に呼ぶ。

「勇太君、タープ張るの手伝って。」


「う、うん。

タープってこれか。」

大きな日除けになる布を広げ、テントを張る。


家族総出でテントを張った後、テーブルや椅子を並べていくうちに、場の空気は自然と和んでいった。


昼食は簡単なサンドイッチとスープ。


佐織と沙耶は、紙皿を並べたり、カップにスープを注ぐのを手伝った。


「うまいな、このサンドイッチ!」

勇太が思わず声に出し、皆が笑った。


「外で食べるって気持ち良いし、何だか更に美味しく感じられるね。」

佐織も嬉しそうに沙耶に言った。


鳥の囀ずりも聞こえ、沙耶も今日は凄く気持ちが良いなと思っていた。


「おばあちゃんも一緒に来たら良かったよね。」

と沙耶が真紀に言うと


真紀は、

「そうね……。

でも、もう、おばあちゃんは夏バテ気味だったから、今回はお留守番してもらうことにしたのよ。」とゆっくりと話した。


「うん、そうだよね。」


「後でおばあちゃんには、写真を見せようよ。」

隼人の発案に沙耶も嬉しそうに頷いた。


佐織は、

「沙耶たちの家族って本当に仲が良いよね。」と感心したように隣に座っていた勇太に言うと


「本当だな。すげえや。」と勇太もサンドイッチを頬張りながら答えた。



午後は、それぞれが思い思いに過ごした。


沙耶と隼人は川辺を少し散歩し、佐織と勇太は焚き火台の準備をする。


佐織が手際よく薪を組むのを、勇太は感心したように見ていた。

「慣れてるね。」


「昔、私も家族でキャンプに来たことがあってね。

やったことあるんだ。」


「そうなんだ……佐織って器用なんだな。」


「いや、それほどのことではないよ。」


そんな佐織との短い言葉のやりとりで、少し緊張していた勇太の肩の力は少しずつ抜けていった。


夕方になると、空は橙色に染まり、涼しさが増してくる。

簡単な夕食を終え、焚き火に火が入れられた。


ぱちぱちと薪がはぜる音。

炎の揺らぎに照らされて、皆の顔が柔らかく浮かび上がる。

「珈琲、入れますね」

潤がドリップポットを手にし、ゆっくりと湯を注ぐ。


立ちのぼる香りが、夜の空気に溶けていく。


それぞれがマグカップを手に、焚き火を囲んで腰を下ろした。


ふと誰かが空を見上げる。


「……星、すごいな!」

勇太の声だった。


街では見えない数の星が、夜空いっぱいに散らばっている。


天の川がうっすらと帯になり、焚き火の炎とは別の光で世界を満たしていた。


「凄く静かだね。」

佐織が星空を見ながら、感慨深げに呟いた。


「こういうの、久しぶりだな。」

隼人がそう言って、珈琲を一口飲む。


会話は多くはなかった。


それでも、沈黙は心地よく、誰もそれを破ろうとしなかった。


夜が深まるにつれ、焚き火は小さくなり、肌寒さが増していく。


「そろそろ寝ますか……。」

壮一の言葉に星を名残惜しそうに見上げながら、各自テントへと戻っていった。


テントで夫婦二人きりになった時に由紀は壮一に話しかけた。

「壮一さん、もう、あなたは大丈夫?」


「えっ?」


「いえ、潤さんと真紀が結婚して……

隼人と潤さんが親子として出会ったから、あなた、内心、複雑だったんじゃないかと思って。」 


「いや、最初は変な感じだったよ。

でも、今はもう、慣れたというか……

隼人はやっぱり俺の息子だからさ。

その気持ちは変わらないよ。」  


「そう?そう思ってくれてたなら良かったわ。」


「潤さんと真紀さん、幸せそうだし。

沙耶ちゃんも嬉しそうだしな。

良かったよ、本当に。」


「そうよね。真紀が幸せそうなのは、見ていて嬉しいわ。

隼人も私たちに優しくしてくれるし……

私たちも隼人を育てられて幸せよね。」


「うん。そうだね。」

しみじみとそう答える壮一の姿に由紀も心底ほっとしていた。



隼人と勇太は二人でテントに寝ていた。


「勇太、もう、寝た?」


「う…ん、まだ眠いけど寝てない。」


「そっか。俺、勇太と一緒にキャンプに来られて嬉しいよ。」


「そう?そんな風に言ってもらったら、何だか照れるな。

でも、俺もこんな経験したことなかったから、すっげえ楽しい。」


「ほんと?じゃあさ、明日一緒に釣りしない?」


「いいね。俺、釣りなんてあんまやったことないけど……教えてくれる?」


「もちろん、任せて。」

勇太と隼人は顔を見合わせて微笑んだ。



一方、沙耶と佐織も二人でテントに横になっていた。


外からは、虫の声が聞こえる。


「今日、楽しかったなぁ。」

佐織が呟く。


「私も。」


「沙耶の家族って本当に仲良しだよね。」


「そう?」


「うん。お父さんもお母さんもおじさん、おばさんも皆素敵だし、優しいし……

これって凄いことだよ。」


「そうかな?」


「そうだよ。」


「佐織は、将来の夢ってある?」


「夢かぁ。私ね、実は服飾関係に進みたくなったんだ。」


「えっ、そうなの?」


「うん。きっかけは、沙耶のご両親の結婚式なんだ。」


「どういうこと?」


「沙耶のお母さんの着ていたドレス。

凄く綺麗で美しくて……。

私もあんなドレスが作ってみたいな~って思っちゃったの。」


「本当に?お母さんのドレスがきっかけだなんて……。

びっくりだよ。」


「ふふふ……。」

佐織の幸せそうな笑顔に沙耶もつられて自然と笑っていた。




翌朝、鳥の声で勇太は目を覚ました。


「よ~し、今日は釣りに行くぞ!」


勇太の元気な声に隼人も目をうっすらと開けた。


「わかったから、もうちょっと寝かせて。」


「いや、時間なくなっちゃうから、もう起きようぜ。」


勇太の勢いに起こされた形の隼人。


二人がテントの外に出ると明るい朝の光が降り注いでいた。


鳥の囀ずりに混じって蝉の賑やかな声も聞こえる。


早くも潤と真紀、壮一と由紀、二組の夫婦が朝食の準備に取りかかっていた。


その楽しそうな姿に隼人も気持ちが和むのを感じた。


「ほんと、お前の家族、仲が良いな。」


勇太の声に振り向いた隼人。


「だな。」

隼人の笑顔が輝いているのに勇太も気付き、良かったなと思う。


親友の笑顔って良いよなーー。

隼人、やっと心から笑えるようになったんだ。


勇太も内心ほっとしながら、同時に嬉しくなった。


「おい、沙耶と佐織、起こして来ようぜ。」


「そうだな。」


二人は沙耶と佐織のテントに向かった。


「お前たち、もう、起きてる?」


勇太が声をかけるとテントが開き、佐織が出てきた。


「言われなくても起きてるわよ。

女子は、朝の支度が色々あるの。」


「あっ、勇太君、おはよう。」

のんびりとした声が佐織の後ろから響く。


「早いね、二人とも……。」


「沙耶、別に早くないぞ。

お前の親たち、もう、朝ご飯の支度してんぞ。」


「え~っ。」


沙耶も佐織も慌てて外に出て、皆の支度を手伝った。


次第に陽も高く上り、明るい1日がまた、始まろうとしていた。


釣りに行く者、小川を散歩する者……。

緑の中で自由に過ごす時間は都会では味わえない貴重なひと時であった。


こうして、1泊2日という短いキャンプだったが、各々の胸に温かな思い出を残すことになったのである。



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