ガーデンウェディング
その日、レストラン「ガーデン・テラス 風の杜」の庭は、初夏の柔らかな風が吹き抜けていた。
木漏れ日が芝生にキラキラと揺れる光を落としている。
白いクロスを掛けたテーブルには、季節の草花で作ったアレンジメントフラワーが飾られていた。
真紀は控室の窓から庭を見下ろし、その美しいガーデンを見ながら、ふっと息を吐いた。
これから始まる時間を考えると胸の高まりを感じる。
そよ風が時折、白いカーテンをふわりと揺らしていた。
柔らかな光に包まれて、真紀はゆっくりと鏡の前に立つ。
彼女が選んだのは、
繊細なレースを全体にあしらった、上品で落ち着いた白のドレス。
胸元から肩にかけて細やかなレースが広がり、
肌にふれる部分は薄いチュールが重なって、控えめながらも気品のある印象を作っている。
スカートは体の線に沿ってすっと縦に落ちるシルエット。
歩くたびにレースの影が揺れて、光の粒を散らすように輝いた。
真紀は、自分の姿に驚いた。
「こんなふうに白いドレスを着る日が、自分に訪れるなんて……。」
その呟きは、胸の奥から自然にこぼれた感情だった。
扉をノックして入ってきた潤が、真紀をひと目見るなり、そのままそこに立ち尽くした--。
白いドレスの真紀は、まるで光を纏っているようだった。
「……綺麗だよ、真紀ちゃん。」
感激して潤は、それ以上言葉が出て来なかった。
長い年月を経て今ここに一緒にいることが、二人にとって奇跡に思えた。
真紀は照れくさそうに微笑み
「こんな歳でウェディングドレスなんて…って思ってたけれど、着てよかったわ。
やっぱり嬉しいものね。」
「そう思ってくれて良かった。
歳だなんて…今日の真紀ちゃんは、いつにも増して綺麗だよ。」
潤は、真紀の手を取ると家族と友人が待つガーデンへ歩き出した。
白いレースが風に揺れる。
花嫁の柔らかな笑顔が見る人を幸せな気持ちにした。
潤は、真紀からそっと離れると自分の招待客に会釈し、軽く言葉を交わし始めた。
「お母さん……凄く綺麗。」
沙耶が母親の美しさに目を見張り、うっとりとした様子で真紀に近づいた。
今日の沙耶は、清楚なブルーのワンピースに身をつつんでいた。
「今日はお招き頂きありがとうございます。」
沙耶の隣にいた佐織が真紀に挨拶した。
「佐織ちゃん、今日は来てくれてありがとう。」
真紀が微笑んだ。
「とってもお綺麗ですよ。
本当に素敵なドレスですね。」
真紀を憧れの眼差しで見つめる佐織。
「佐織ちゃんにそう言われたら、私も自信が持てるわ。」
真紀が嬉しそうに佐織を見た。
少し恥ずかしそうに佐織がうつむく。
クリーム色のワンピースを着た佐織はとても愛らしかった。
姉の由紀も涙ぐみながら、
「真紀ちゃん、やっとこの日を迎えたわね。」
と感慨深げに言った。
壮一と隼人が由紀の隣に立ち、真紀のことを嬉しそうに
眺めていた。
そこに
「隼人~っ、遅れてすまない。」
と勇太がやって来た。
「あっ、勇太、来てくれたんだ。」
隼人が勇太に近づく。
「おっ、隼人、スーツ似合ってるじゃん。
俺は着るもんないから、制服で来ちゃった。」
「ごめんな。急に頼んで……。
でも、勇太に来てもらって助かったよ。
何か俺、緊張しちゃって。」
「そうか?なら、良かった。
大丈夫だって、俺がついてるからさ。」
勇太は、隼人の背中を軽く叩いた。
「痛っ。」
「まさか……俺、軽くしか叩いてないよ。」
隼人と勇太が笑う。
少し離れたところで二人を見守っていた壮一と由紀。
「あの子にも良い友だちができて、良かったな。
オーストラリアから帰ってきて、日本の学校に馴染めるか心配したけど、そんな心配もいらなかったな。」
壮一が目を細める。
庭に設けられたバージンロードは、白い小花とユーカリの葉で彩られている。
両脇の椅子には家族とごく親しい友人だけが座っていた。
人前式の司会は、レストランのオーナー夫妻が務めた。
小さな庭に響く声は柔らかく、
まるで家族の一員のような、親密で温かい空気が漂う。
「ここにいる皆さまが、お二人の証人です。
これから交わされる誓いを胸に、
どうか末永く見守ってあげてください。」
グレーのタキシード姿の潤は深く息を吸い、真紀を見つめた。
「真紀さん。
離れていた時間もあったけれど、
あなたと再び出会えたことは、僕の人生で一番大きな奇跡です。
これからの日々を、あなたと共に生きていきたい。」
真紀の目に涙が揺れる。
続いて、真紀。
「潤さん……。
あなたといると、心が静かに満たされていくのを感じます。
もう一度出会えたことを、大事にしたい。
これから先、どんな時も隣にいてください。」
周囲から自然と拍手が起こり、
庭の空気がふわりと温かさに包まれた。
二人が指輪を交換すると……
ちょうどその瞬間、
庭の木々の隙間から光が差し込み、
指先を白く照らした。
光に包まれた二人は、誰よりも幸せそうだった。
式が終わると、テラスでのガーデンパーティーが始まった。
ハーブの香りがする風。
シェフ特製の料理が並ぶテーブル。
スパークリングワインのグラスに光が揺れる。
沙耶は満面の笑みで写真を撮りながら、
「二人とも、すごく幸せそう」
と呟いた。
由紀はワインが入って少し酔いが回ったのか
「やっと真紀ちゃんは、潤さんと一緒になれたのね。」
と何度も言いながら、涙している。
潤からは、「お姉さん、そんな泣かないで。」と心配されていた。
壮一も「由紀、飲み過ぎだよ。少し休んで。」と妻を席に座らせ、介抱し始めた。
夕暮れが近づくにつれ、庭のライトが灯りはじめ、
真紀と潤はテラスの端でそっと寄り添った。
「ねぇ、潤さん」
「ん?」
「結婚式って……
こんなに温かいものなのね。」
「そうだね。皆が僕たちのために集まってくれて……
こんなに幸せなことはないよね。」
「えぇ。」
風が二人の間をやわらかく通り抜け、夫婦としての新たな時間が静かに始まっていった。
その頃、ガーデンに置かれたベンチで勇太が佐織と話していた。
「何かさぁ。
隼人たちの親父さんたち、二人ともイケメンだな。
お母さんたちは、美人だし……。」
「本当に……。
そもそも沙耶と隼人君も二人揃って綺麗な顔立ちしてるわよね。
あのクラスでも評判みたい。
皆、二人が双子だって知らないしね。」
佐織がクスッと笑う。
「うん、知ってるの、俺たちだけだし。
まさに今日は、芸能人の結婚式みたいだな~。
俺たち、ここにいて、良いのかな?」
「良いのよ、私たちは、あの二人の親友なんだし。
私、ちゃんとお洒落もしてきたしね。」
「そっか。」
勇太がドレス姿の佐織を少し眩しそうに見た。
一方、沙耶と隼人は仲良さそうに話している勇太と佐織を見て
「いつの間にか、あの二人、仲良くなったよな。」
「そうそう。」
「二人……付き合ったりして。」
「あるかも……。」
フフフ……と笑い出す沙耶と隼人。
そこに佐織と勇太がやって来た。
「ちょっと、二人とも何の話をして笑ってるの?」
佐織の問に
「いや、別になんでもないよな、沙耶。」
「うん、何でもない、ない。」
と答えて二人は顔を見合わせてまた、笑った。
「おい、秘密はなしだぞ。」
「私たち、親友でしょ。話しなさいよ。」
佐織も沙耶に絡み始めた。
そんな賑やかな四人を見て、真紀も
「仲良さそうね。
楽しんでくれているみたい。」
と満足そうに微笑んだ。
「そうだね。」
潤も沙耶と隼人を優しく見つめていた。
空が茜色に染まり、雲がオレンジ色に輝き始めている。
そこには温かで幸せな時間がゆったりと流れていた。




