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四人で歩く春の道

季節が巡り春がやってきた。


沙耶も隼人も進級し、高校三年生に……。


クラス替えがあり、二人は同じクラスで学ぶようになっていた。



夕焼けが差し込む教室には、ゆったりとした静けさが流れている。


机の上には配られたばかりの 進路調査票。


放課後のざわめきはすでになく、残っているのは沙耶と隼人だけだった。


「……隼人はもう、進路、決まってるの?」

沙耶が控えめに口を開く。


隼人は少しだけためらってから、答えた。

「俺は……福祉を学びたいと思ってる。

陽子さんを訪ねてホームに行くようになって、色んな人が働いているのを間近で見るようになったんだ。」


「うん。」


「陽子さんや貴史さんは、介護士の人にお世話されているんだけど、介護士の人たちも陽子さんたちの話を聞きながら色々学んだり、勇気づけられているんだ。

自分も……陽子さんに話を聞いてもらって救われたところもあるし。」


「それは、よくわかる。

私も陽子さんに話を聞いてもらったから。」


「沙耶も?」


「うん。陽子さんは、優しいから何でも話したくなるよね。」


「そうなんだよ。

俺も……ホームで働く人や陽子さんを見て自分も誰かの助けになれたらなって思うようになったんだ。

人の話を聞いたり、相談に乗ったり……。

具体的にどんな職業があるのか、調べてみないとわからないんだけど。」


「そうかぁ。隼人に凄く合ってると思うよ。

そういう仕事。」


隼人は自分の考えを沙耶に明かすと少し恥ずかしくなってきた。


「まだ……漠然と考えているだけなんだけれどね。

沙耶は? 進路、もう決めてる?」


沙耶は少し迷うように進路調査票を指先でなぞり、ゆっくり顔を上げた。


「……経営学部、それとも商学部なのかな?

私は、商品を企画開発するような分野に興味があるの。」


隼人が驚いたように瞬きをする。

「えっ、そうなの?」


沙耶は頷いた。

「最近、お父さんの会社に時々行かせてもらって……

アウトドア用品を直に見る機会があるんだけど、とっても面白くて。」


隼人は、楽しそうに話す沙耶の様子に目を見張った。


「ただ……まだお父さんの会社では女性向けのアウトドアの服は、扱ってないのよ。

女の人だって山や海に行くし、屋外で作業することだってあるのに……。

もしも、丈夫で動きやすくて、ちょっぴり可愛さもあるような服を作ったら売れるんじゃないかなって思ったの。」


言葉にしてみると、その思いが胸の奥で静かに形になっていくのを感じた。


「だから……いつか作ってみたい。

女の人がこれなら着てみたいって思えるようなアウトドアの服を。」


隼人はしばらく黙って彼女を見つめていたが、やがて少し興奮気味に話し出した。


「……沙耶、凄いよ。

まだ扱ってない分野だからこそ、沙耶の出番なんじゃないかな。

そういう服、絶対必要だと思う。」


「ほんとに……? そう思ってくれる?」

沙耶の顔が明るく輝いた。


「うん。沙耶が作った服を着たら、女の人たちがもっと自由にのびのびと過ごせる気がする。」


夕日が深まり、教室のオレンジは徐々に柔らかな金色へと変わっていく。


二人は、進路調査票をじっと見つめた。


進む道は違う。

だけど――

誰かの背中をそっと押したい……という思いは、二人の間で静かに響きあっていた。



その時……

「あっ、ここにいたんだ!」という元気な声がして教室の扉が開いた。


「佐織、隼人と沙耶ちゃん、教室にいるよ。」

勇太がそう言うと佐織もやって来て、二人が揃って教室に入ってきた。


「あれ?

二人ともまだ、学校にいたの?」

沙耶が驚いたように声をあげる。


「私たち、進路指導室で大学の本、見てたのよ。」

佐織が勇太の方を見る。


「そうなんだよ。

佐織が一緒に来てくれって言うからさぁ。」


「だって、進路調査票渡されたから、私も考えなきゃなって思って……

でも、沙耶とクラスが離れちゃってどこにいるかわからないから、同じクラスになった勇太君を誘ったんだよ。」


「なるほどね。」

沙耶が佐織と勇太の顔を見ながら、ちょっと嬉しそうに微笑んだ。


「あっ、何?沙耶のその顔……。」

佐織が沙耶に文句を言う。


「二人は、仲が良いんだね。俺、勇太とクラス離れちゃったからどうしているかと思ってたけど……何だか安心したよ。」

隼人もホッとしたように言った。


「おい、隼人、勘違いすんなよ。

俺は佐織に頼まれてついて行っただけだからな。

別に仲が良いわけじゃないし……。」

勇太が慌てて否定している。


「わかったよ、そんなにむきにならなくても……。

帰り道に皆で美味しいものでも食べに行こうよ。」

そんな隼人の提案に……


「良いね~、行こうよ!

いつか皆で行った駅前のファミレスにする?」

佐織がすかさず答える。


「良いな、俺も行きたい。」


「私も。」


「よし、じゃあ、決まり。」


四人は、連れだって学校を出て、ファミレスに向かった。


「あと一年で卒業かぁ。」

皆で並んで歩きながら、佐織のポツリと言う。


「そうだね、何だかあっという間に三年生になっちゃったね。」

沙耶も夕空を眺めた。


「まだ、一年もあるんだから、それなりに楽しもうぜ。」

勇太の言葉に


「そうだな。」

隼人も頷いてゆっくりと歩く。

今、皆で過ごしているこの時間をずっと忘れたくないな……と思いながら。


やがて、ファミレスの窓から漏れる明るい光が見えてきた。


「よ~し、美味しいもん、いっぱい食べるぞ~!」


勇太の明るい声に沙耶たちも笑い声をたてた。


まだ見ぬ未来を胸に抱きながら、隼人たちは、ファミレスの扉を開けた--。


街には、春の淡い夕暮れの光がわずかに残り、街路樹のハナミズキの花を優しく染めていた。




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