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聖夜


四人がカフェを出ると、辺りはすっかり暗くなり、クリスマスのイルミネーションが通りを明るく照らしていた。


夜の空気は澄んでいて、冷たくもあったが、気持ちが良かった。


「ここから駅までは、別々に歩こうか。」

沙耶が言い出す。


「別々って……?」

真紀が娘の顔をのぞいた。


「私と隼人、お母さんとお父さん、別々に歩くってこと。

はい、先に私たちが行くね!」

沙耶が隼人の背中を押して、歩き出した。


「あの子ったら、何を言うかと思えば……

さっさと二人で行っちゃって。

気を利かせているつもりかしら?」

笑いながら、真紀が潤を見た。


「沙耶ちゃんって可愛いんだな。」

潤も笑っている。


「沙耶はね、ずっとお父さんが欲しかったのよ。

私にそれを言うことはなかったんだけど、見てればわかるわ。

だから、あなたに出会えて凄く嬉しかったみたい。」


「そうなんだ……。

お父さんって沙耶ちゃんに言われるとちょっとドキッとするけれど……でも、嬉しいよ。」


「そう?」


「うん。」


「それなら、良かった。突然、お父さんって呼ばれても面食らうわよね。

でも、あなたがそれを受け入れてくれて安心したわ。

私……あの子たちがお腹にいるってわかった時はどうしようって思ったのよ。不安で不安で……。

でもね、産んだら凄く可愛くて、大変だけど、幸せだった。」


潤が真紀をじっと見つめた。

「……ごめんね。そんな思いをさせて。

でも、僕も二人に会ったら、君の気持ちが理解できる気がする。

あんなに優しくて良い子たち、なかなかいないよ。

一緒にいたら、幸せだと思えるよね。」


「わかってくれる?」


「うん。」

二人は立ち止まった。


「隼人君もしっかりしていて、人の気持ちを思いやれる人に育ってる。

由紀さんと壮一さんのお陰だね。」


「私も、最近、隼人に会ってそう思ったわ。」


「君も由紀さんも本当に素敵な姉妹だね。

僕がもう少し勇気を出していたら……。

もっと早くに何か手伝えていたかもしれない……。」


「それは、もう、言っても仕方がないことだし、過ぎたことよ。

これからは、一緒にあの子たちのことを見守ってくれる?」


「勿論だよ。

そして……君のことも大切にしたいと思ってる。」

潤は、真紀の手を取った。


「……変わらないね、潤さんは。」

真紀が優しく潤を見上げた。


潤は小さく息を吐き、真剣な眼差しで真紀を見た。


「そうかな?

多分、変わったところもたくさんあると思う。

でも……変わらないでいたいと思ったものも、あったんだ。

君のことを思い出してからは、ずっと想っていたよ。

君が幸せに笑っていてくれたら、それで良いと……。」


「ありがとう。

私のことを覚えていてくれて……。

こうして、また会えたのも何かの縁ね。

あの子たちが、結んでくれた縁を私は、大事にしたい。」


「うん。」

潤は、真紀の言葉に深く頷いた。


二人は手を繋いだまま、またゆっくりと歩き出した。

足元には落ち葉が柔らかく音を立てる。


「潤さん、ゆっくりでいいからね。

今まで会えなかった時間を少しずつ取り戻していけたらと……私は、そう思ってる。」


「うん、そうだね。

ゆっくりやっていこうよ。今は、こうして君に会えたことだけで、もう、いっぱいいっぱいだよ。

凄く嬉しくてね。」


駅へ向かう道--

並んで歩く二人の影が、街灯の光を受けて長く伸びて優しく交わった。



先に歩いていた沙耶と隼人は、無事に両親を再会させることができて、安堵していた。


「今日は……本当に良かったね。」

沙耶が感慨深げに呟いた。


「うん。

なんか……ずっと止まってた時計が、動き出したような感じだったね。」


「お母さん、泣いていたけど……

あれは、嬉し涙もあったのかな?」


「そうだろうね。

でも、嬉しいだけじゃなかったかも。

真紀さん、苦労したからやっと流せた涙だったんだと思う。」

隼人が言った。


「そうだね。

色んな涙だよね--。」


二人は同時にふうっと息を吐いた。

胸の奥に溜まっていたものが、ようやく少しだけ軽くなった気がした。


沙耶が空を見上げる。


「ねえ、私、思ったの。

家族って、一度離れたからって終わりじゃないんだね。」


隼人はその言葉を受け止めてから、ゆっくりと話し出した。


「うん。

繋げようとする人がいる限り、終わらないんだと思う。

僕たちもきっと終わらない。

これが、新しい始まりだよ。

ちょっと変わった家族かもしれないけどね。」


二人はクスッと笑った。


二人の靴音が夜道に溶けていく--。


「今日は私たちがサンタさんってことでいいよね?」


「うん。世界中で一番、良いプレゼントが贈れたと思うよ。」


「そうだよね!」


二人はその後黙って歩き続けた。


しばらくすると-- 

駅に着いた。

クリスマス前の人々の華やかな賑わいが感じられる。


二人が振り向くと真紀と潤が歩いて来るのが見えた。


しっかりと握られた真紀と潤の手を見て、沙耶と隼人は、顔を見合せて微笑んだ。


これは、クリスマスイヴの奇跡かもしれない--。

そんな素敵な奇跡を起こした私たちは、特別な存在だよね……。

沙耶はそう思うと隣に立つ隼人を頼もしげに見つめた。


ジングルベルの曲が流れる街にそっと訪れた幸せな時間--。


それは、四人にとって忘れられない夜になった。











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