新たな朝を迎えて
「隼人君、おはよう!」
元気よく手を振る沙耶を見つけて
「沙耶、おはよう。」と隼人も軽く手を振り返した。
二人は校門の前で会い、そのまま校舎に向かって並んでゆっくりと歩いた。
「昨日、父さんとも話したんだけど……
何だか少し気持ちが落ち着いたよ。」
「本当に?」
「うん。
沙耶も来てくれたしさ。」
「私?」
「沙耶に凄く元気づけられたよ。
母さんから養子の話を聞いてしまって、今までと全部いっしょという訳にはいかないけれど……。
でも、自分自身がそんなに変わる必要はないのかなって思うようになったんだ。」
「そう言ってもらえて、良かった。
私も……お母さんから色々聞いて……。
実のお父さんのことも初めて詳しく話してもらってびっくりしたよ。」
「沙耶のお母さん、苦労したんだよね。
あっ、俺のお母さんでもあるのか……。
まだ、慣れないけど。」
「うん。そうなんだよね。
隼人君が私のお兄ちゃんだっていうのも、何だか不思議……というか、まだ実感が湧かないけど。
でも、私は嬉しかったよ。
兄妹がいたこと……。」
「それは、俺も同じ。」
二人は、目を見合わせて微笑んだ。
「ねぇ、佐織や勇太君には私たちのことを話す?」
「う~ん。」
少し考え込むように下を向いた隼人。
「あの二人は信用しても良いように私は思うんだけど……。」
「そう……だな。
二人にだけは、話そう。
でも、他の人には黙っていてもらいたいと思う。
興味本位で詮索されたくないからさ。」
「そうよね、私もそう思う。
機会を見て、二人にだけ話そう。」
「うん。」
「そういえば、お母さんが近いうちに隼人君と隼人君のお父さん、お母さんを家に呼ぶって言ってたよ。」
「そっか。
俺たち、家族だもんな。」
「そうだよ。
これからは、皆で仲良くしていきたい……。」
沙耶と隼人が昇降口まで来た時に後ろから誰かの走ってくる足音が聞こえた。
「よっ、お二人さん……朝から……何の話?」
そう言うと勇太が隼人の肩を軽く叩いた。
「勇太!」
隼人が驚いて振り向いた。
「勇太君、走ってきたの?」
息を切らした勇太は、少しゼイゼイいっている。
「うん……お前らの姿が見えたからさ。
隼人……もう……風邪治った?」
「うん、治った。」
「全く……心配させんなよ。
いつも休まないお前が休んだから、俺、授業中も部活の最中もスッゲー気になっちゃって……。」
「ごめん、ごめん。」
ちょっと笑いながら隼人は、勇太を見た。
「おっ、元気そうじゃん!
じゃっ、隼人、行こっか。
柚木、またな。」
勇太に肩を抱かれ、隼人は隣の教室に入っていった。
「あの二人、仲が良いよね。」
いつの間にか、佐織も沙耶の隣に立ち、二人の背中を見送っていた。
「本当にね。
隼人君には、勇太君がついていてくれて良かった……。」
そう言う沙耶に
「うん。あいつお調子者のところもあるけれど、良い奴だよ。
本気で隼人君のこと、心配してたもん。」
と佐織も頷いた。
朝の教室は、生徒たちの賑やかな話し声で満ちていた。
沙耶は、何気なく窓の外を眺めた。
そこには、黄葉した銀杏の木が朝の光を受けて美しく輝いていた。
新しい朝が始まる--。
これからも、色々思い悩むことはあるかもしれない。
でも、隼人と一緒ならきっと大丈夫。
沙耶はそう思い、秋の穏やかな日差しの中で小さく深呼吸した。




