表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/30

父のぬくもり

沙耶が帰った後、隼人は少し元気が出て気分が良くなってきた。

夕方になって、パジャマのまま勉強机に向かった。

「今日、沙耶が持ってきてくれた数学のプリントでも見るか……。」

隼人がプリントを見始めると……


部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「隼人、起きてるか?」

父親の壮一の声だった。


「父さん……?

うん、起きてるよ。」


壮一が部屋に入ってきた。

「具合はどうだ?

学校、休んだんだって?」


「朝は、ちょっと頭痛が酷くて……

でも、大分良くなったよ。

今日はずいぶん帰りが早いね。」


「うん、外出先で仕事が早めに終わったから、そのまま帰ってきたんだ。

さっき沙耶ちゃんが来ていたって母さんから聞いたよ。」


「父さん、沙耶を知ってるんだね。」


「うん、隼人と沙耶ちゃんが赤ん坊だった頃に会ってたんだよ。

二人とも凄く可愛いかったんだ。」


「へぇ。」


「特に隼人は僕ら夫婦に懐いてくれて、いつも会うとニコニコ笑ってたよ。

そんな隼人が僕らの元に来てくれることになって、母さんも僕もとても嬉しくてさ……僕たちも一生懸命働かなきゃって思ったよ。」


「そうなの?

父さんも母さんも俺が来て、嬉しかったの?」


「当たり前だろ。

こんな良い息子は他にいないよ。

だから、君に出会わせてくれた真紀さんには感謝してるんだ。

そして、隼人の実のお父さんにも……。」


「僕の実のお父さん……。」

隼人は、壮一の目をじっと見た。


「実は、僕は潤さんにも会ってるんだ。

真紀さんが結婚したい人がいるって僕たちに紹介してくれて……。」


「そうなの?

その人、どんな人だった?」

隼人に勢い込んで壮一に尋ねた。


「そうだなぁ……。」

壮一は昔を思い出すように語り始めた。


「彼は山が好きで、よく真紀さんと登っていたよ。

当時は日焼けしていて、精悍な顔立ちだった……。

真紀さんや僕たちに凄く優しくて、心の温かい人だったよ。」


「そうなんだ。

優しい人だったんだね。」


「うん。

潤さんとは、僕もいずれ義理の兄弟になる間柄だったからね。

彼が山で遭難したって聞いた時はとてもショックだった……。

今でもどこかで生きているんじゃないかって時々思うんだよ。」


「父さん、その人のこと、好きだったんだね。」


「勿論だよ。

隼人は、潤さんに似て男前だし、優しいな。」

そう言って壮一は微笑んだ。


「隼人、僕は潤さんの分もお前の父親として力になりたいと思ったんだ。

そして、隼人は僕たちの息子として立派に成長してくれた。

別に僕と血の繋がりがなくったって隼人は僕の息子だよ。

今までもこれからもずっと……。」


そう壮一が言うと隼人は涙ぐんだ。


「父さん……。」


「隼人、良いか。

変な遠慮はするんじゃないぞ。

何かあったら、いつでも父さんや母さんに相談してくれ。

いつだって僕たちは隼人の見方なんだからな。」


壮一は、軽く隼人の肩を叩くと……


「父さんも着替えるから、隼人もリビングに出ておいで。

一緒にお茶でもしよう。

直に夕食の支度を母さんがしてくれるさ。

久しぶりに三人で一緒に食べよう。」


そう言って隼人の部屋を出ていった。


隼人は壮一の優しさに触れ、胸の内がポカポカと温かくなった。

わだかまりが一気に溶けていく気がした。


涙を拭うと隼人はそっと立ち上がり、扉を開けた。


リビングには、夕方の穏やかな光が差し込み、優しい笑顔の母が待っていた。


そして、久しぶりに家族と囲む食卓。


隼人は、たとえ血の繋がりがなかったとしても、本当の両親でなかったとしても...…俺は大丈夫。

そう思えるようになった。


俺には、沙耶もついていてくれる--。


明日は学校に行こう。

そして、沙耶に会うんだと隼人は思った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ