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心を繋ぐお見舞い

『隼人君、大丈夫?』


沙耶が送ったメッセージに隼人からは、

『大丈夫』と一言返信があった。


それっきり隼人からLINEは届かなかった。


翌朝、沙耶が学校へ行くと佐織が近づいてきた。


「あっ、佐織、おはよう!」


「沙耶、おはよう。

今、勇太君から聞いたんだけど……」


「えっ、どうしたの?」


「隼人君が今日、学校休んでいるらしいよ。」


「隼人君が……。」

沙耶の顔色が変わった。


その時、沙耶たちの教室に勇太が入ってきた。


「あっ、柚木、隼人から何か聞いてる?

あいつが休むなんて珍しいからさ。」


「ううん、何も聞いてない。」

沙耶は首を振った。


「風邪かな~。」

勇太が心配そうな顔をして言った。


「私、今日、放課後に隼人君のお見舞いに行ってくるよ。」

沙耶がそう言うと


「ほんとに?助かるよ。

俺、部活があるから行けなくて……。

じゃあ、隼人に俺からよろしく言ってくれ。

何だかあいつがいないと俺も調子が出ないよ……。」  


勇太が頭を掻きながら、自分の教室に帰っていった。


「ごめん、私も今日用事があって隼人君のお見舞い、行けないや。」

と言う佐織に

「私、一人で大丈夫よ。」

と沙耶が笑顔で返した。


今日は、私だけの方が良いよね。

沙耶はそう心の中で思った。


放課後に沙耶は、隼人に渡す配布物を勇太から受け取り、隼人の家に向かった。


マンションのエントランスで隼人の家の部屋番号を押した。


「はい……。

あら、沙耶さん?」

隼人の母の声がした。


「わざわざお見舞いに?

今、開けますね。」


扉が開き、中に入ると沙耶は、エレベーターで15階まで上がった。


玄関のチャイムを押すと隼人の母が顔を出した。


「沙耶さん、いらっしゃい。

どうぞ入って。」


「お邪魔します。」

由紀に招き入れられて、沙耶は室内に入った。


「あなたのお母さんから聞いたと思うけれど……

私は、あなたの叔母なのよ。

この間は、知らないふりをしてしまってごめんなさいね。」

由紀が優しく言い、沙耶に紅茶を淹れてくれた。


「あっ、ありがとうございます。

いただきます。」

ソファーに座った沙耶は、ティーカップに口をつけた。


「隼人、昨日から体調を崩して部屋から出てこないのよ。

聞いたら、熱はないようなんだけれど……頭痛がすると言って……。

私が隼人に色々話したから、ショックを受けたんだと思うわ。」


「そうなんですね。

私も母から隼人君のことを聞いて、驚きました。

私たちが双子で、母が隼人君のお母さんの妹だったなんて……。」


由紀は、少し微笑んで

「沙耶ちゃんって呼んでも良いかしら?

あなたが小さな頃、そう呼んでいたから。」


「はい。」

沙耶は、由紀を見て優しそうな人だなと思った。


「私も叔母様って呼ばせてもらいますね。」


由紀が凄く嬉しそうに沙耶を見た。

「そんな風に呼んでもらえるなんて……感激だわ。

沙耶ちゃん、隼人に会ってくれる?」 


由紀が隼人の部屋の前まで沙耶を連れていってくれた。

扉をノックして、

「隼人?沙耶ちゃんがお見舞いに来てくれたわよ。」

と隼人に告げた。


「えっ、沙耶が来たの?」

隼人の驚く声がした。


「どうぞ、入って。」


沙耶が部屋に入ると隼人はベッドに横になっていた。

顔色が青ざめている。

布団をぎゅっと握りしめている隼人は、大分具合が悪そうに見えた。


起き上がろうとする隼人に

「隼人君、そのままで良いよ。」

と沙耶が声をかけた。


「沙耶……来てくれたんだね?」

普段より弱々しい声で隼人が答えた。


「うん。私、隼人君が心配で……。」


「ありがとう。

俺、母さんから話を聞いた直後に頭が真っ白になるような感じがして……

でも、その後、冷静になって結構大丈夫だと思ったんだよ。」


「あんな話、大丈夫なはずないでしょ。」


「う……ん。

実際は大丈夫じゃなかったんだな。

段々頭が痛くなってきちゃって。

母さんや父さんにも会うのが気まずくなるし……。」


「そうだったんだね。

心が大変になると体にくるから。

大丈夫になるまで、ゆっくり休んでね。」


寝そべったまま、隼人は沙耶をじっと見て頷いた。


「隼人君……。

うちのお母さんがちゃんと隼人君に会って話をしたいって言ってる。

今すぐってわけじゃないけれど。」


「そうなの?」


「うん。

お母さん、私たちのお父さんが山で遭難した後、双子を妊娠していることを知ったみたいで……一人で産んで育てることを決心したけれど、色々大変だったみたい。」


「そうだったんだ……。」


「さっき、隼人君のお母さんと話をしたんだけれど、凄く優しい人だね。」


「そう思う?」

隼人の顔がぱっと明るくなった。


「うん、私のことを沙耶ちゃんって呼んでくれて……

私も叔母様って呼ぶことにした。」


体を起こした隼人は、

「俺の母さん、凄く優しいし、良い人なんだ。

沙耶が仲良くしてくれたら、嬉しいよ。」

と言うとふっと涙を浮かべた。


「隼人君、私……。

隼人君のお母さんみたいに素敵な人が叔母さんだったなんてとっても嬉しい。

隼人君のお母さんは、これからもずっと隼人君のお母さんのままだよ。」


沙耶もそう言いながら、涙を流していた。


「隼人君が優しいのは、あんなお母さんが育ててくれたからなんだね。

お父さんもきっと良い人なんだと思う。

私、お父さんがいないから、隼人君が羨ましいよ。」


「そうか……。

沙耶にはお父さんがいないんだよね。」

何かを考えるようにしばらく黙っていた隼人。


「俺さぁ……母さんから自分が養子だって聞かされても、やっぱり自分の両親は、今の両親だとしか思えないよ。

それで、良いのかな。」


「それで良いのよ。

私のお母さんは生みのお母さんかもしれないけれど、隼人君のお母さんは、由紀さんだよ。

あっ、そういえば……うちにはおばあちゃんがいるよ。

隼人君のおばあちゃんでもあるよね。

そのうち、隼人君が会いたいと思ったら、うちに遊びに来て。」


「うん、そうする。」


隼人も沙耶もいつの間にか、涙が渇き、笑顔になっていた。

そして、隼人の顔にも赤みが戻っていた。


扉の外では、由紀がそっと涙を拭いて立っていた。


「あの子たち、本当に仲が良さそうで良かったわ。」


由紀はそう呟き、二人の絆の深さに特別なものを感じていた。












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