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『蜜』
樹液はしたたり、それを昆虫たちが啜る。
溢れた樹液は傷付いた木の治癒を促し、成長を促進させる。
昆虫たちはどれだけ多くの樹液を啜ってきたのだろうか?
その木はどれだけ多くの樹液を失ってきたのだろうか?
固まった樹液に、もはや昆虫たちの姿はない。
あるのは物言わぬ木だけだ。
かつて流れ出た樹液は固まり、木の一部と化していた。
おぼろげな記憶を呼び起こし、木は確かに思い出すのだ。
それは素敵な思い出だと。
その素敵な思い出と共に、木は成長を止めることなく、上へ向かって伸び続けた。
やがて昆虫の代わりに鳥が、成長した木の枝へと止まった。