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08.彷徨える焔

 その場にへたりこんだまま、息を整える。そう体力を消費するようなことをした訳でも無いのに、すごく疲れた。これは多分、精神的にって頭に付くような疲れだとは思う。だからこそ、すぐに動かないと。あんな危険なモンスターが出てくるって分かったら、彩乃の事も、のの花の事も余計に心配になる。

 立ち上がって、息を吐く。ホウキを取って、まだ砂になってないスケルトンの頭を一度目と同じように突くと、さらさらと崩れ落ちた。その中に、小さな光が混じっている。


「……あ、これ……」


 うちはしゃがみ込んで、指先でそっと砂をよける。出てきたのは、銅色のコインが三枚。さっきスケルトンを倒した時に、ブレスレットと一緒に出てきたやつと、多分同じもの。他にもないか砂を散らしてみるけど、今度はブレスレットは無い。


「ブレスレットはやっぱ、レアドロップ?ってやつなのかな。装身具だっけ」


 左腕に付けたままのブレスレットをちらりと見て、そのままコインをまとめてポケットに突っ込む。色々入れすぎてポケットはもうパンパンだけど、非常持ち出し袋にそのまま入れたらどこに行ったか分かんなくなりそうだし。大事なものかどうかは分からない。でもブレスレット、というか煙は相当役に立ってくれてるし、持っておいた方がいい…よね?

 さっきのコインも取ってた方がいいかな、と思って、少し離れたもう1つの砂山に半分埋まったままだったコインも取って、砂を払ってポケットに入れる。小物入れみたいなのが欲しいな。

 なんて思ってたら、ふっと、風もないのに空気が揺れた。何かが来る。そう感じて、反射的に顔を上げる。


 廊下の奥。教室のドアの向こう側、曇ったガラス越しに、ゆらゆらと赤い光が揺れていた。それが、ドアをすり抜けるようにして、音もなくこちらへと滑ってくる。


 それは、炎だった。最初はただの火の玉のように見えた。でもすぐに、炎の中から二頭身ほどの人の形のような輪郭が現れる。腕のように揺れ、脚のように流れ、上半身が浮かび上がる。

 けれど顔はなかった。そこにあるべきはずのものは、ただ揺れる炎だけで、目も口もない。なのに――ぱち、と火花が弾けた。

 まるで、笑ったように。


「……っ!」


 ホウキを構えて、一歩下がる。その炎のようなナニカは、滑るように近づいてきてこちらをまっすぐ見ている……気がする。スケルトンと戦った時とは別の、炎に対する根源的恐怖に後ろに下がる。


「こっちに来ないでっ!」


 炎に向かって、ホウキを思い切り振るった。けれど──手応えは、なかった。すり抜けた。こいつ、炎なのに実体がない……!

 またパチリと火花が弾ける。まるで、うちを嘲笑うみたいに。


「くっそ!」


 瞬間、炎の腕がぐっと伸びてくるのを見て、咄嗟に叫ぶ。


「煙っ!」


 うちの呼びかけに応えるみたいに、煙がさっとうちの前に広がる。けど、炎の熱でじわじわと削られていくように、黒い煙の色が段々と薄くなっていく。このままじゃ煙がやられる!


「逃げる、しか……!」


 教室のある右後ろを見る。そこには、いつもと変わらない教室のドア。

 うちは、教室から廊下に出ようとドアを超えたら、彩乃と離れ離れになった。同じ事が起きるとは限らない。けど、望みをかけるだけならタダだ!


「煙!」


 もう一度呼びかける。通じるか分からなかったけど、やっぱりコイツはうちの考えを分かってる。

 逃げの一手。煙が一瞬炎にまとわりつくと、炎がこちらに向かってくる速度が少し遅くなる。遅くなった炎にホウキを投げてぶつけて、すぐさま走り出す。

 炎がイラついた様にパチパチパチ!と火花が弾ける音がした。その音が怖くて、確認したくても、振り返ってる暇は無い。引き戸になっている教室のドアに手をかけて、一息で開ける。普通の教室に見えた。けど、あの時もドアを越えたらおかしくなったんだから、まだ助かる道はあるはず……!


 そのまま、うちはドアの向こうへと飛び込んだ。

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